第二章 第十話     21/115
 





『小僧発見捕縛開始』

『何言っていやがる居候が』

『ふふふ、後ろを取られた時点で貴様の敗北は決している。大人しくお縄に付くがよい』

『ふざけんな。ていうか、どうしてそんなにノリノリ何だよ』

『遊びで童心に帰ることは大切だ。そして帰ったからには全力でやる。相手が肉親だろうが親友だろうが子供だろうが手加減はしない』

『大人げねぇよ』

『隠れん坊は得意だ。隠れるのも好きだが、隠れている奴の後ろから近づいて驚かすのが一番楽しい。一度仲間の一人が驚きすぎて屋根から落ちそうになったが、あいつは修行が足りなかったな』

『そいつどうなったんだよ』

『ん?ちゃんと助けたぞ。その後の修行を三倍にしたが』

『・・・趣味悪ィ』

『俺に見付けられない奴はいない。勘が良いからな』

『聞いてねぇよ』

『どこにいても、必ず見付ける。必ず』

『・・・』

『帰るぞ、――――。松陽も心配している』

『・・・ん』


少年は彼の手を取った。







規則正しく上下に揺れる中、最初に感じたのは暖かさだった。
薄く目を開けると視界に入ったのは一色の銀髪。

「・・・銀さん?」

綱吉は銀時の背中で目が覚めた。
日は完全に落ちてしまったようで、空には欠けた月が昇っている。夜の土手を歩いているので辺りにはほとんど人影はなく、静かなものだ。どうして自分はこのような状態なのだろうか。

「気ぃ付いたかぁ?大丈夫か、急に倒れたんだぞ」

綱吉が目を覚ましたのに気が付いた銀時は顔だけ振り返る。その顔には心配の色が見られる。
綱吉は落ち着いて自分がなぜ背負われているのか考える。確かヒロシを助けるために廃工場に入ったはずだ。綱吉は一つずつ思い出していき、そして顔を青ざめた。

「ヒ、ヒロシさんは!?」
「あ?あのガキならもう家に帰したよ。気絶したまま担いでいったら母親が悲鳴あげてよ。警察呼ばれそうになったぜ」
「それ大丈夫だったんですか?」
「すぐにガキが目ぇ覚まして、事情を説明してくれたよ。んで、何か家族で話し合うから報酬の話はまた今度。俺らは万事屋に帰宅中。神楽達ももう帰ってンだろ」
「良かった・・・」
「良くねぇよ。危うく警察だぞ?銀さんはいいとしても、お前保険証やら住民票やら戸籍もねぇんだぞ。そんなのがばれたら即事情聴取にならぁ。あのチンピラ警察に厄介になるのはご免だね」
「はは、そういえば俺、この世界じゃぁ身元不明でした」

二人の会話はそれで途切れた。気まずい沈黙が落ちる。話すべき事は何なのか二人とも分かっていた。しかし、なかなか切り出せない。

「・・・聞かないんですか、力のこと」
「言いたくないなら、無理に言うことはねぇよ」

銀時は何でもないように言う。気にすることはない、大丈夫だと子供相手に言うように、優しい声だった。

「あ〜、でも一つだけ。アレは、やるとぶっ倒れるのか?」
「いえ、その・・・そんなことはないです」

今までの死ぬ気モードで倒れたことは二回。骸との戦いと、ザンザスとの戦いの後。骸との戦いは筋肉痛だったし、ザンザスとの戦いは力の使いすぎだろう。今回は僅かな力しか使っていないのに、倒れた理由が分からなかった。

それに倒れていた間に見ていた夢。ただの夢と考えるには、違和感があった。青年と少年が話していたが、二人の顔はよく分からなかったし、青年が呼んだ少年の名も聞こえなかった。何よりも、青年の声に聞き覚えがある気がする。しかしどこで聞いたのか思い出せない。

「そうか。危ないやつじゃないんだな」

銀時は安心したように言った。それが嬉しくもあるが、綱吉の心を締め付けた。黙っていることで、銀時を騙している気がした。
銀時は綱吉を信じてくれている。彼からすれば得体の知らない力を持っている、異世界から来た綱吉を信じていてくれる。
それは元の世界にいる少女達を思い出させた。恐い思いをしながらも支えてくれ、知りたくても無理矢理聞こうとはしなかった。秘密を知ってからも笑っていてくれた、心優しい少女達を。

「銀さん」

綱吉はそんな彼に対して裏切るように黙っていたくはなかった。




「俺、マフィアの十代目候補何です」




時が止まったように感じた。しかし時間は止まることはない。言う前に戻ることはできない。一度言ったら、無かったことにはできない。

「俺のご先祖様がそのマフィアの初代で、血を重く考えているらしくて、俺にも継承権、あるみたいで・・・。その、力です」

綱吉はぽつぽつと語る。思いついた言葉をそのまま言っているので分かりにくいだろう。何よりもいきなりあんな力を見せられて、マフィアの力だと言われて、彼はどう思うだろう。

「俺はマフィアになる気はないけど、強くならなくちゃいけない状況で、みんなを守りたくて、修行して、強くなって、銃とか持ったことはないけど見たことはあって、というかザンザスの銃は銃っていうレベルじゃなかったし・・・」

どうしてもどんどん声が小さくなってしまい、最後まで言えていたのか分からない。それでも、マフィアのことははっきりと言った。

マフィアのことを、言ってしまった。後悔はある。だが、このままでいたくはなかった。彼らの信用を裏切りたくはなかった。

(言ってもマフィアだし、どっちにしても裏切っていることになるのかもしれないけど・・・)

沈黙が続く。先ほどの沈黙よりも長く、そして重く綱吉は感じた。
銀時は前を向きながら歩いているので、背負われている綱吉は顔を合わせる心配がない。今すぐに銀時の顔を見る勇気は綱吉にはなかった。







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