第二章 第九話     20/115
 


銀時は順調に敵の数を減らしていった。苦戦はしていない。数は多くても相手は素人だし、武器も鉄パイプやナイフだ。実戦経験もほとんどないのだろう。チームワークといえる物も見られなかった。
戦っている途中、綱吉達が機材の後ろに隠れるのも見え、不良達がそれに気付いた様子はない。自分が残りの奴らを全滅させれば終わりだ。

だから、わずかながら油断もあったのだろう。残り三人となった時、声が聞こえるまで気付かなかった。


「銀さん後ろ!!」


その声に反応して振り返れば、スキンヘッドの男が銃を構えていた。
しかもまだあいつの仲間が立っているこちらに向けてだ。戦っている相手に当てられるほどの腕には見えないし、銃を持つ手も震えている。恐らく撃ったことはないのだろう。
あのままでは誰に当たるか分かったものではない!

「この・・・馬鹿野郎がぁぁぁ!」

すかさず手に持っていた木刀を男に向けて投げつける。木刀は男の頭に当たり男は倒れるが、倒れる時に持っていた銃が発砲されてしまった。
銃弾は斜め上に飛ぶ。その銃弾の先には、鉄鋼をぶら下げていたロープがあった。銃弾が当たったロープは切れ、下がっていた鉄鋼が落ちる。
鉄鋼は積み上げられて山となっていた機材へと音を立て落下した。そう、綱吉達が隠れていた機材の山へと。

「っ・・・逃げろ!ツナ!!」

上空から勢いを付けて落下した鉄鋼は、山になっていた機材を崩す。
そこの陰に隠れていた綱吉はヒロシの手を取り逃げようとするが、腰の抜けているヒロシはすぐに動くことが出来ない。
このままでは崩れる機材の下敷きになってしまう。

銀時は走った。しかし綱吉達まで距離がありすぎる。
不良グループの的にならないよう、綱吉も少しでも離れた場所に隠れようと思ったのだろう。しかし、いまはその距離が憎かった。
ヒロシも必死で逃げようとしている。だが震える足でどうにか立とうとして、焦りすぎて転んでしまっている。あれでは逃げることは不可能だ。
そして綱吉は・・・。

「!?」

綱吉は逃げようとせず、ヒロシを守るように崩れてくる機材の前に立ちふさがっていた。
あのままではヒロシ共々機材に押しつぶされる。しかし、綱吉は崩れてくる機材から逃げる素振りをみせない。

必死で足を動かすが、機材の落下の方が早い。
あと数メートルというところで、綱吉達は崩れゆく機材の中に消えていった。

そう見えた。
しかしその瞬間。



オレンジの炎が舞い上がった。




薄暗い工場の中、突然生まれた光。銀時は反射的に目を瞑った。
しかし、何かが吹き飛ばされる大きな音がし、すぐに薄く目を開ける。吹き飛ばされているのは崩れていた機材だった。
下敷きになる寸前だったヒロシは気絶している。落下してくる機材の恐怖に耐えられなかったのだろう。
そして綱吉は立っていた。だが、銀時はそれが本当に綱吉なのか確信が持てなかった。

「・・・ツナ、だよな?」

綱吉は額と両手に炎を灯していた。目を瞑る前に見たのと同じ、オレンジの炎を。
そして綱吉なのか確信が持てなかった一番の理由が、彼の纏う空気だった。いつもの綱吉とは違う強さを持ち、しかしいつもの綱吉と同じ優しさも感じた。

(どうなってやがる・・・)

銀時は訳が分からなかった。親玉のスキンヘッドの男は銀時の投げた木刀ですでに気絶しているし、ヒロシもしばらくは意識が戻らないだろう。残っていた数人の不良も、発砲にびびったか落下してくる機材にびびったか、はたまた豹変した綱吉にびびったのかは分からないが、すでに逃げてしまっている。
つまりこの場で動いているのは自分と綱吉だけだ。そして綱吉が今どういう状態なのかが分からない。綱吉はこちらを見ずに下を向いている。

とりあえずもう一度声を掛けてみようと口を開けたとき、綱吉の額の炎が消え、両手の炎も同時に消えた。両手にはいつの間にか毛糸の手袋をしている。どうやらあれが燃えていたようだが、燃えていたとき、手袋はグローブの形をしていたように見えた。どういう事だろうか?
あの手袋は確か綱吉が元の世界から持ってきていた、数少ない所持品だ。今日のヒロシの尾行の時、よく分からない錠剤の入った薬と共に持ってきていたのを覚えている。

「あの・・・その・・・」

いつものように戻った綱吉は何か言おうとして、しかし口を噤んでしまう。何か言わないといけないと思っても、言葉がなかなか見つからないのだろう。

銀時は綱吉のことをほとんど知らない。
どうして綱吉の未来が危険なのか知らない。どうして不良グループのたまり場であるとはっきりと分かるような場所に、怯えながらでも入ることが出来るのか知らない。どうして炎を灯してあのような力を出せるのか知らない。
だが、神楽も言っていたではないか。知っていることもある。
綱吉は弱くて、お人好しで、優しい。弱いというのは少し、いや大分間違いを含んでいたかもしれないが、後者の二つは変わらない。一緒に過ごした数日で綱吉がどんな人間なのかは分かっているつもりだ。

そんな綱吉を、銀時は信じていた。
だから、言いたくなるまで待つ、と言おうとした。

しかし、言おうとした瞬間。



綱吉は倒れた。






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