第二章 間話     16/115
 


月がわずかに欠けた晩。
土方は副長室で一人静かに書類にペンを走らせていた。
もう日付が変わるような時間だが、まだ彼が床に入る様子はない。
一枚、また一枚と書類を読み、サインをして決済済みの山へと重ねていく。
しかし突然サインをしていた手を止め、ペンを置く。するとすぐに部屋の戸の外から声がかかる。

「副長、入ります」「おう」

入ってきたのは山崎だった。隊服姿なので、まだ仕事をしていたことが分かる。
土方は煙草をくわえてそれに火を点けた。

「ずいぶんと時間がかかったな」
「対象がどこにでも居そうな特徴だったんで、大変でしたよ。本当はもう遅いし、明日にしようかとも思ったんですが」
「いや、今でいい。どうせまだ仕事中だったしな」

山崎はその言葉を聞いて、ばれないように少し笑った。
本当は自分の報告を待っていたことを、山崎は分かっている。もしも副長室の灯りが消えていたら、山崎は報告を明日に回しただろう。しかし、それでは次の行動が遅れる可能性がある。
二人の話によると、捜している『沢田綱吉』はまだ子供。江戸に何も分からない子供が一人で居るのは危険だ。早く見つけた方が良い。

(何だかんだ、副長も心配何だろうな)
「おい山崎、てめぇ何考えてやがる」

恐ろしく勘が良い土方は山崎が何を考えているのが分かったかのように額に青筋を浮かべている。これはいけない。

「いえ、何でもありません」
「・・・ちっ、早く結果を報告しろ」

山崎は「はい」と短く返事をし、懐からメモを取り出した。

「絞り込んだところ、身元がすぐに判明しなかった茶髪の子供は五人です」

山崎は次のメモを取り出す。

「一人目は江戸の外れの鍛冶屋で働き始めた子供で、出稼ぎに来たらしいです。たまに話が噛み合わないことも多く、世間知らずとも考えられますが、まだそれが本当かは分かりません」
「そいつの実家はどこだ?」
「それが近所の人が聞いても教えてくれないそうです。村八分などで迫害されていた可能性もありますが、まだそこまでは・・・」

山崎は一人一人の簡単な説明をしていき、たまに土方はそれに質問を挟む。
そうして五人目の説明に入った。

「五人目は歌舞伎町の公園で目撃されています。公園で遊んでいた子供の母親二人が目撃者で、公園の入り口で話しをしていたらしいのですが、気が付いたら子供が一人、芝生で横になっていたそうです」
「気が付いたら?入り口で話していたのなら、ガキが入っていくのに気が付いたはずだろう」
「はい。近所でも見かけたことがない子供だったし、二人も不思議に思ったらしいのですが、深くは考えずにそのまますぐに帰ったようです」
「じゃぁ、今はそのガキがどこにいるのか分からねぇのか」
「はい」

土方はそこまで聞いたら煙草を灰皿に押しつけた。

「なるほどな。山崎、お前はその五人目のガキが今どこにいるかを探れ。ほかの四人のところには総悟達をやる。獄寺と山本は見れば本人か分かるんだ。そっちのほうが早い」
「了解です」

山崎はメモを仕舞い、礼をして副長室を後にする。



月は雲に隠れて見えなくなっていく。






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