第二章 第一話 10/115
綱吉は日の光を感じて目を開けた。
隣の銀時はいびきをかきながらまだよく寝ている。枕元の時計を見ると今の時間は七時少し前。
異世界に来てしまったのだから学校には行けるはずもなく、まだ寝ていても問題はない時間なのだが、綱吉は布団から出た。
この世界に来て三日が経った。
初日に万事屋に着いたときは、まず大家のお登勢さんに挨拶をしに行った。
まさか異世界から来ましたと正直に言うわけにもいかないので、お登勢には『田舎から行方不明の友人を捜しに来た』ということにした。友人である二人が行方不明なのは嘘ではないので、半分は本当だ。問題は帰り方が分からないことだが。
お登勢は「見つかるといいね」と言い、その後は背後に鬼を背負いながら銀時に家賃を払えと言っていた。
お登勢の初老の婦人とは思えないような迫力がある鬼の形相を見てしまったので、綱吉は彼女を怖い人だと思ってしまった。
しかし、お登勢は綱吉達が店を出るときに言った。
「こんな町さ。人には言えない事情を持った奴なんてごろごろいるよ。あんたみたいな子供でもね。だけど、大人を頼っちゃいけないなんてことはない。何かあったらその天パや私に言うこともできるのを、忘れるんじゃないよ」
お登勢は綱吉が嘘を付いていることに気付いていた。それでも深く聞かないでいてくれている。
優しい人だと思った。
その話を銀時にすると、彼はこちらを見ないで「怒ると店員に玄関破壊させるようなババアだけどな」と言った。
否定はしていないその言葉に、新八と神楽と一緒に少し笑った。
昨日は万事屋付近を案内してもらったので、今日はもう少し遠くまで二人の捜索をする予定だ。
猫捜しを依頼していた後藤さんは猫をたいそう激愛していたようで、その猫を見つけた万事屋はたんまりと報酬をもらえたらしい。だから綱吉の友人捜しを優先すると言ってくれ、綱吉もそれに甘えている。今は何よりも二人を見つけたかった。
「・・・うわ、酷い顔」
綱吉は鏡に映った自分の顔に驚いた。顔色が良いとは言えず、うっすらと隈もできている。しっかりと寝ているつもりでも、そうはいっていないようだ。
「まぁ、未来と違って見つかったら殺されると決まっている訳じゃないんだし、大丈夫、大丈夫・・・」
声に出して自分を納得させようとするが、そんなものでは綱吉のネガティブ思考は改善されないようだ。二人のうち、主に獄寺が何かしでかしている気がしてならない・・・超直感か?
「ツナ」
「うわぁぁぁぁぁ!」
後ろからいきなり話しかけられ、綱吉は思わず情けない声を出してしまった。
振り返ると、後ろにはまだ寝間着姿の神楽がいた。
「いつまで鏡の前にいるつもりネ。乙女の準備は大切アル。百面相していないで退くヨロシ」
「あっ、ごめん。神楽ちゃん朝早いね」
「今日は新八と姉御が朝から来る予定ネ。その前に朝ご飯を食べておかないと姉御が・・・」
「姉御が?」
「卵焼きを作るネ」「へ?」
綱吉はそれは良いことではないのかと言おうとした。朝ご飯を作ってくれるのだから、ありがたいではないか。
しかし、神楽は何かを恐れるようにそれだけは阻止しなければと言う。よほどその卵焼きが嫌いなのだろうか。綱吉はそう考えた。
しかし運命は残酷だ。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った瞬間の神楽の顔を綱吉は忘れないだろう。
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