第六章 第五話     112/115
 



子供でも、三人も集まれば両手の柿はそれなりの数になる。
最初は三人とも前が見づらくなるくらい山程持っていたが、三人も持っていくのだから、と言うアイツの言葉に最終的に従った。因みに、アイツは持っていない。お前も持てよ、という言葉には笑って断られた。何しに来たんだ、と当時は思ったものだ。

『せめてそのマント貸せ』
『そうだそうだー。それに入れてけばもっと持てるだろ』
『このマントは風呂敷じゃない』
『んだよ。別に良いじゃねぇか』
『良くない。それに無理に持てない分を持って歩く事もないだろう』

柿を大量に持って一番満足気なのは、真面目そうな長髪の子供だ。彼はホクホクと子供に相応しい笑顔で歩いている。その隣には少々不満げだが、それでも両手の柿は落とさない様に抱えている二人の子供。柿を持っている事もあり、彼等の歩みは通常よりも明らかに遅い。

『無理せずに、両手に持っていける物を落とさない様に持って帰ろう』
『別に無理じゃねぇし』
『子供扱いしてんじゃねぇよ』
『こら、二人共。ジョット殿に失礼だろう。ジョット殿は俺達の事を考えて……』
『『黙れヅラ』』
『お前達本当に仲良いよな』

子供三人の後ろを歩くのは、金髪の居候。
子供だった当時は納得出来ない思いがあったが、今なら落としそうな程持っても仕方がないと分かる。アイツが微笑ましく子供三人を見ている事も。

『ほら、銀時。右手から落ちそうだぞ』
『あっ、っと』

アイツが後ろから手を伸ばして溢れ落ちそうな柿を持ち直させる。
俺は道の端にあった切り株に腰を下ろし、帰路を歩いている彼等を眺めている。そうやって四人を見ていれば、アイツが前を歩いている子供が転ばない様に気を配っているのが分かる。
柿が落ちそうだぞ。そこ、木の根っこが出てるから転ぶなよ。もう直ぐだ、頑張れ。
声を掛けるアイツは楽しそうだ。
子供である俺達は、その言葉に「分かってるよ!」と噛み付きながらも注意して進み、帰り道は両手が塞がっていながらも転ばないで済んでいる。

『落とすなよ。自分で持つって決めたんだろ』
『ん』
『ジョット殿は持たないのですか?』
『んー?俺は別のもん抱えてるから』
『何も持ってねぇだろ!』
『楽したいだけだろ!』
『待て、二人共。ジョット殿はまた何時もの謎かけをしているに違いない!何も持っていないのに抱えている物……そう、それは空気!つまり人が生きていくのに必要不可欠な物を……』
『『だから黙れヅラ』』

ヅラって子供の時はもっと酷い頭だったんだと再認識した。もしかしたら今と変わらないのかもしれないけど。
しかし、癪だがこの時のヅラが正しかった。アイツは何かあった時に俺等を手助けする為に両手に何も持たなかったのだ。
俺等が転びそうになった時や、疲れて歩けなくなった時。両手が塞がっていたんじゃ支えられないしおぶっていくことも出来ない。
抱えていたんだ。背負っていたんだ。大人として、俺達を。

あー、気付くとどんどん恥ずかしくなってくる。こう言うアイツの偉そうにしてない、俺達にも気付かせずにしていた気遣いってのが、改めて見ると気付いてしまう。
何だよ、言えよ。何かあった時の為に、お前達の為に両手を使える様にしてるって。どうせお前は絶対言わないし、もし言っても子供の俺達はそれにも噛み付いていたんだろうけどさ。後から知ると何か恥ずかしいし、悔しいだろうが。
この間、万事屋に来たヅラが言っていたらしい。

『あの人は俺にとっては紛れもない『大人』だった』

そうだな。分かりづらいけどな。

目の前を子供三人が騒ぎながら通り過ぎ、アイツも通り過ぎる。
見送る後ろ姿。記憶に残っているよりも、小さく感じる背中。揺れている金髪。それが振り返った。



『今も、ちゃんとしっかりと持っているみたいだな』



自分で持つって決めた、手の中のモノ。



「重くて手が痺れそうだけどな」

今回はアイツの言葉に応える事が出来た。
そうしたら、アイツは笑うのだ。



『お前はそれでも離さないさ!』



ジョットは、本当に嬉しそうに笑うのだ。





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