第六章 第二話     109/115
 




ケーキの材料である卵を買って帰ったら、不本意ながら長年の腐れ縁で見慣れた長髪がいた。何だよあのストレートヘア。天然パーマに土下座して謝れ。と言うか俺に土下座しろ。

「そこで忠告を聞かなかった銀時はそのまま木から落ちた」
「え!?銀さん大丈夫だったんですか!?」
「安心しろ。気が付いたらジョット殿が銀時を受け止めていたから大事なく済んだ。しかし、そこで終わらないのがジョット殿だ。彼は銀時を抱えたまま何と言ったと思う?」
「え、うーん……気を付けろ、ですか?」
「いや。ジョット殿の足元には、銀時が落とした木の実が悲惨に潰れていた。それを見てジョット殿は言ったのだ」

ああ、あのムナツクストレート黒髪ヘアが言っているのは覚えている。銀時の子供時代の話だ。
危ないという忠告を聞かず、木に成っている実を採ろうとしたんだ。しかも、木の実をもぎ取れたと思ったら油断して足を木から滑らせて落ちた失態談。
助けてくれたのは、当時松陽先生の所に厄介になっていた金髪の居候。木の実を採ろうとしていた銀時達の近くにはいなかったはずなのに、素早く助けてくれたのは彼だった。あの時は失態と予想外の助け人で混乱していたから思い至らなかったが、彼はどうして離れていたのに助けられたのだろうか。

しかし、最早それはどうでも良い。
ジョットがどうやって銀時を助けたのかも、彼が呆れた様に言った言葉も、ヅラがジョットの事を覚えていたのも、どうでも良い。
今、重要なのは他の事だ。

「何人の恥ずかしい過去話してんだぁぁぁぁぁ!!」

銀時の力強い拳がストレートヘアに気持ち良いくらい綺麗に入った。

「ぶべらっ」

しかもそれは不意打ちだったという事で。
何の迎え撃つ用意をしていなかったヅラは机に頭を叩き付けられたままもう起き上がる事はなかった――――完。

「終わるなぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちっ、まだ息があったか」
「銀時、後ろからとは卑怯なり!貴様それでも侍か!」
「本人いない所で失敗談を話してる奴は侍か」
「銀さんお帰りなさい」
「おう」

銀時は軽く返事をするとテーブルに置かれていたカステラを素手で掴んでもぐもぐと食べた。旨い。桂が持ってきたのだろうとすぐに当たりがついた。

「で、何話してたんだ?」
「プリーモの話をしてたんですけど、気が付いたら脱線していって」
「んなの話してどうすんだよ」
「何を言う銀時」

ヅラが頭から血をだらだらと流しながら起き上がりソファーに座り直した。頭の血は銀時が原因なのだが、罪悪感は全く抱かないのが彼等の関係である。

「ジョット殿は綱吉君の御先祖様だ。俺達の見知っているジョット殿について語り聞かせるのは寧ろ必然だろう」
「あ?そんなもんか?」
「そんなものだ。銀時、聞いたぞ。貴様綱吉君に殆どジョット殿の事について話さないそうではないか」

桂は腕組みをして背筋を伸ばし、説教をする様な姿勢を取った。実際、説教をする気なのだろう。頭から血を流しながら。

「……せめて血を拭けよ」
「話を逸らそうとするな」
「いや、普通に拭け。いくらギャグパートだって言っても血がウザイ。掃除するの誰だと思ってんだ。綺麗に片付ける人の事も考えなさい!新八が可哀想でしょうが!」
「銀さんは片付けないんですね」

そこで自分で片付けると言わないのが銀時なのである。 綱吉は小さく溜め息をついた。

「そうだ!銀時、貴様は何時もだらけて片付けもせず、それでも大人か!」
「人ン家で変なペットと一緒に来て頭から血をだらだら流す奴よりは大人だよ!」
「何!?そんな傍迷惑な人間がいるのか!?此処に連れてこい、俺が直々に説教をしてやる!」
「鏡見て出直してこォォォォォォい!」

銀時のドロップキックが桂を玄関まで吹き飛ばした。





銀時が本当に話を逸らしていた事に気が付いたのは、二人でケーキを作っている時だった。





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