第五章 第二十八話 105/115
「よっ、お見事。実に鮮やかなお手前っ、とは言い難いナリだが、いやはや恐れ入ったよ」
神威の渇いた拍手が響く。それをどこか遠くで聞いていた。
「お前の相手は私アルぅぅ!!」
神楽の乱入を新八が止めているのが目に入る。ああ、此処で彼女が兄妹喧嘩を始めたらまた大変そうだ。そんな力は誰にも残っていない。
「死んじゃダメだよ。俺に、殺されるまで」
神威は去る前に、綱吉を一目見た。見間違いではないはずだ。彼は微かに笑ったから。
「神威ィィィィィ!!」
神楽が兄の名を叫ぶ。返事はない。彼女も、返事は求めていないのかもしれない。彼女が求めているのは、きっと返事ではない。
空に太陽が輝く。そんなことはないのに、随分と久し振りにその光を浴びた気がする。
神楽も新八も、銀時もぼろぼろだ。無事とは言えない体だが、生きている。もう一度、青い空を仰ぐ。戦いの終わりを実感できた。
不思議と不安はなく、抵抗なく意識を手放した。
「負けた奴に興味はないよ、阿伏兎」
発見した己の部下は重傷だった。生命力が化け物並の夜兎でも、太陽の下放置していたらそのまま死ぬだろう。
面白い奴を見付けたのだ。自分は世渡りが下手だし興味もないからその獲物を捕られてしまうかもしれない。弁が立つ奴が必要だ。
まぁ、いつもなら死に損ないにトドメを刺して終わりなのだが、新しく口達者を見付ける時間もないし、何よりも面倒だ。この部下は文句を言いながらよく働くし。
「だって阿伏兎言ってただろ。宇宙の海賊王への道を切り拓いてくれるって」
阿伏兎は肩を貸されながらも歩く。彼は死ぬ時は潔いが、生きられるのなら生きるのだ。夜兎として死ぬまで生きるだろう。
「あっ、そう言えば……」
捜索する様にと言われた異世界からの来訪者。正直無視する気満々だったが、予想外にも見付けた。あの子供だ。炎を灯していた。あれは異世界の能力なのだろうか。
神威の戦いを、笑いながら敵を見送ると称した子供。あの子供は鳳仙と戦う時笑っていなかった。
眉間にシワを寄せ、祈る様に拳を奮っていた。
「面白そうな子だったなぁ……」
上に報告したら、吉原の変と同等かもしくはそれ以上に上は反応するだろう。今だって血眼になって探しているんだから。
「沢田綱吉、か」
戦ってみたい。だけど、まだ子供だ。それに本調子ではなかった様だ。だが、もし万が一帰ってしまったら戦えない。どうしたものか。
「また会える気がするけどね」
「……団長?」
阿伏兎は不審な目を向ける。独り言が多い上司を怪しんでいるのだろう。何より、上司は新しいおもちゃを見付けて上機嫌だったのだから。
二頭の夜兎は戦場を去った。
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