第五章 第二十六話     103/115
 




銀時の攻撃は止まない。
鳳仙が体勢を直そうと足を踏ん張ろうとすれば、銀時はさせじと木刀を頭に叩き降ろす。

反撃する暇を与えるな
息さえさせるな
もうチャンスは二度とねェ
これで決めなきゃ負ける
終わりにするんだ

銀時の考えを鳳仙も読んだのだろう。無理にでも銀時の連撃を途絶えさせようと、木刀の攻撃に直撃しようとも傘を持ち直す。
鳳仙は銀時に気を取られすぎていた。



「形態変化(カンビオ・フォルマ)攻撃モード(モード・アタッコ)」



綱吉の持つ獣の指輪が光を放ち、両手の]グローブの形態が変化する。

「T世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)」

手の甲に「T」を記すガントレットを見て、鳳仙は驚きの声を上げる。

「貴様、それは――!」

綱吉は右手に死ぬ気の炎を集中させた。

「ビッグバンアクセル!!」

綱吉の炎の拳が鳳仙に叩き込まれる。
綱吉の最強の拳を食らい、鳳仙は後ろに吹き飛んだ。そのまま壁に叩き付けられるが、鳳仙はそれでもまだ倒れない。まだ動こうとする。

「射てェェェェェェェ!!」

月詠の合図で百華は持ちうる限りのクナイを全て投げ付ける。

ズガガガガガ

クナイが次々と壁に、鳳仙に突き刺さる。クナイの嵐は数秒もの間止むことなく続く。全弾打ち終わった後も、不気味な沈黙が場に漂う。だが、煙の中から鳳仙は現れない。

「…………やった。ついに……やった」

百華の一人が呆然と呟いた。それを皮切りに次々と喜びの声が上がる。

「鳳仙を、あの夜王をついに倒したァ!」
「自由だ!!」
「これで吉原は……私達は……自由だ!!」

終わっていない。

「まだだァァァ!!」

煙の中から三本のクナイが打ち返されてきた。それは一直線に月詠に向かっている。気を緩めてしまっていた月詠はそれに反応出来ない。
銀時が月詠の前に立ち塞がり、左腕、腹、左足にクナイを食らう。

「ぎっ……銀時ィィィ!」

堪らずしゃがみ込む銀時に月詠は近付き、傷を伺う。傷はどれも深く刻まれていた。

「温い!温いわ!!」

鳳仙は十以上のクナイをその身に受けながらも立っていた。腹の綱吉の拳により受けた火傷からは薄く煙すら出ている。右目からは今だに血が流れ落ちている。それでも鳳仙はその場に君臨している。

「この深き夜を照らすことなどできはせぬ!!」

百華の多くは傷付き、これ以上の戦闘は難しい。
神威は口笛を吹いた。鳳仙のしぶとさは予想以上だったらしい。あの年老いた夜兎にまだこれほどの力があったとは。

「火種は消さねばなるまい。その鈍く光る光を!!」

銀時は刺さっているクナイを抜いた。息は荒い。限界なんてとっくに超えている。

「お前にゃ、俺の火は消せねェよ」

此処にはいない仲間達を想った。
何度吹き消そうとも無駄な話だ。俺にゃとっておきの火種があるんだ。

「絶対に消えねェ、太陽(ひだね)がついてんだ」

吉原に響く音。吉原全体が揺れていた。

「てっ、天井が!!」

もう崩れ落ち、意味をなしていない壁の外からは、天井から埃や小さな機材が落ちてくるのが見える。隙間からは光が漏れた。
しかし、それで止まっている。

「何故、止まる!?」
「パイプが、天井が開かない様にパイプが邪魔をしているんだ!」

地下都市の吉原は、元は幕府の艦船を製造する造船場であり、天井にハッチが存在する。しかし、統治者であり支配者である鳳仙はその天井に手を加えていた。管制室で操作をし、ハッチを開こうとしても、パイプで押さえて物理的にハッチが開かない様にしていたのである。

「これじゃ、鉛の空が開かない……」

月詠は悔しげに言い、唇を血が出るほど噛み締めた。あの鉛の空を、今ほど憎んだことはない。
すぐそこに、夢にまで見た空が、自由があるのに。

「まだだ!」

一つの声が響く。
少年は空で構えていた。左腕を背後に。右腕を前に突きだして。

「夜は明ける。明けさせる」

左手は柔の炎。右手は剛の炎。



「] BURNER AIR!!」



炎の柱が空に奔った。






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