第五章 第二十五話 102/115
「まぶしくて眠れやしねェ」
銀色の侍は立ち上がった。異世界の少年はそれを見て唇を僅かに上げ笑う。
それでこそ銀さんだ。
「ツナ兄ィィィィ!!銀さァァァァん!!」
晴太が彼等の名を呼んだ。それはもう絶望を宿していない。
「立った立った。アッハッハッハッ、まだやるんだ」
神威は愉快そうに笑う。彼は傍観者の体を崩すつもりはないらしい。
「そのザマじゃ役に立ちそうもないの。立っているのもやっとじゃ」
「ほざけアバズレ。そりゃこっちのセリフだ」
「銀時。女性にその言い方は失礼だ」
「お前はその状態でもツッコミなのかよ、てか、今は問題そこじゃねぇだろう。今さらのこのこよく来れたもんだって話だ」
「紫煙をたどって地獄からはい出てきたのさ」
「ご足労痛み入るがね。あんまり来んのが遅いからしゃぶっちまったぜ。おかげで命拾いしたがな」
転がる煙管はすでに血塗れだ。しかし、それがなかったら銀時はあのまま頭を潰されていただろう。
「……フン。何の話だ」
月詠は百華を伴って戦場となっている下へと飛び降りた。
わっちの煙管はそんな安物ではない。失くしたのなら買って返せ。
「地上でな」
銀時は手放していた刀を掴み、再び構える。
「勝っても負けても地獄だ、こりゃ」
「一緒に墜ちてやるさ。神楽も、新八も」
「全員で地獄の煙管屋巡りか」
「悪くないだろう」
「どいつも酔狂なこって」
鳳仙は敵に囲まれていた。銀時に、綱吉に、月詠に、百華に。
どれもこれも、その眼は……。
「何故……貴様がその眼をしている」
気に食わない。気に食わない。気に食わない。
「その眼を……止めぬかァァァァァ!!」
その怒号は空気を奮わせた。ピリピリと振動を生む。そしてそれに負けないくらい、銀時は叫んだ。
「いけェェェ!晴太ァァァ!!」
「銀さんんん!ツナ兄ィィィ!月詠姐!」
日輪は百華に手を貸してもらう形で逃げることが出来そうだ。晴太も百華に抱え込まれながら連れられていく。
だが、ここで鳳仙を倒さなければ、その事全てに意味がなくなってしまう。彼等の未来も、此処にいるみんなの未来もなくなってしまう。
「おおおおおおおっ!!」
負けられない。それはいつも同じだ。
「はアアアアア!」
鳳仙は銀時の刀を右手に持つ傘で、月詠の脇差しを左手で止める。両手が塞がった所にすかさず百華が斬り掛かるが、鳳仙は月詠の腕を掴み百華に投げ付けた。
銀時は受け止められている刀をずらし、柄で鳳仙の顎に一撃を食らわせる。だが、鳳仙はそれで怯まない。空いた左手で銀時の刀に手刀を繰り出し、刀を折った。
体勢を崩した銀時に、鳳仙は続けて攻め入ろうとするが、綱吉が刹那の間に鳳仙の懐に入り込み、がら空きになっている腹に右手の一撃を叩き込む。それでも鳳仙はぐらつかないが、一瞬動きが止まった。綱吉はその隙を突き、銀時の襟首を掴み共に後退する。
「射てェェェ!」
綱吉と銀時が離れたらすでに準備をしていたのだろう、月詠の合図と共に百華の無数のクナイが鳳仙を襲う。
鳳仙は傘を足下に叩き付ける。それにより砂埃が立ち、彼の姿は隠れてしまった。すでに放たれているクナイは煙に飲まれていく。あの距離では全てのクナイを避け切れていないはずだ。
「やったか!?」
投射し、着地した百華の一人が願う様に言う。しかし、それはすぐに打ち消される。
ドン
煙の中から、傘を開いて盾の様にして突進してくる鳳仙が姿を現した。しかし、傘の巨大さ、鳳仙の力からすれば、それは盾であり凶器だ。一度に何人もの百華が吹き飛ぶ。
「るァァァァ!」
鳳仙は折り畳んだ傘を奮い、百華や銀時達を薙ぎ払う、突き飛ばす、叩きのめす。
しかし、それでも誰一人諦めなかった。
渇く……
向かってくる者は薙ぎ払った。それでもまた立ち上がった。薙ぎ払う。立ち上がる。
どうしようもなく、渇く。
同じ瞳をしている。どれもこれも。
この気高い魂は、日輪と同じ――。
「おおおおっ!」
鳳仙は大きく薙ぎ払った。それだけで脆弱な地球人は吹き飛ぶ。それでも、まだ立とうとする。
「いらぬ。この常夜に、このわしに……太陽などいらぬわ!」
月詠は這ってでも動き、刀が折れてしまった銀時に武器を届けようと木刀に手を伸ばす。しかし、鳳仙はその彼女に容赦なく凶器の傘を振り上げる。
か細き火など、残らずかき消す。
「その忌まわしき魂と身体、引き裂いてな!!」
「誰一人、殺らせはしない」
綱吉は鳳仙の傘を蹴り上げた。銀時が反対側から百華の槍を持って鳳仙を襲う。鳳仙はすぐに傘を持ち直し、綱吉と銀時を払おうと激しい攻撃を連続で繰り出す。
右に、左に、時には跳んで、時には潜り、それを二人は必死で避けた。
『一撃でもまともに喰らったらアウトだぞ』
今の傷の状態から考えても、二度目はない。
つなぎ止めろ 魂を
たぐりよせろ 生を
しがみつけ すがりつけ かみつけ 泣きつけ どんなになっても――
銀時は左手に持つ折れた刀を突き出す。しかし、鳳仙は素手で残った刃も砕く。これで銀時に残る武器はない。
「フン、終わり……!!」
右手に、木刀が握られていた。
月詠が木刀を投げ渡した体勢のまま叫ぶ。
「いけェェェェェェェ!!」
銀時の木刀の一撃が鳳仙に入った。
――――護り抜け。
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