第五章 第二十三話     100/115
 




「銀さぁぁぁん!!ツナ兄ィィィィィ!!」

何で自分には力がないのだろう。どんなに命を賭けても。どんなに死ぬ気になっても。大切な二人をあんなにした男を倒すことは出来ない。

「……うう……ああ」

ぽたぽたと涙が落ちる。目の前で。彼等が。悲しみや怒りがごちゃ混ぜになって、何の感情が一番になって涙が落ちるのか分からなかった。

「泣いてる暇なんかないんじゃないのかい」

叱咤……とは言えない。彼は――神威はただ思ったことを口にしたのだろう。

「男達が己の命を賭した最後の頼み。こいつは聞いてやった方がいいんじゃないのかな」

銀時の頼み。綱吉の頼み。彼等は、晴太に何を願ったか。
晴太は拳を強く握り、母親の元に走った。

諦めない。諦めるなんて出来ない。此処には自分の力だけじゃ来られなかった。みんなのお陰なんだ。
みんなは諦めなかったのに、自分が諦めてたまるか。

「……私は逃げられない」

「飛ぶための翼など、とうの昔にちぎれ落ちておるわ」

どんな現実が突き付けられても、諦めない強さを教えてもらったんだ。




「だから…私達の分まで力いっぱい自由に生きとくれ」

女の人の声が聴こえる。これはあの子の太陽の声だ。

「渇きが癒えぬのだ」

男の声が聴こえる。これはこの街の夜を支配する声だ。

「沈められるものなら沈めてみろよ」

子供の声が聴こえる。これは、この子はこの街の小さな光だ。

「たとえお前が何度太陽を沈ませようと空が晴れているかぎり太陽は昇る何度でも
たとえお前が何度空を曇らせようとオイラが真っ青に晴らす何度でも
たとえお前が何度母ちゃんの顔を曇らせようとオイラが笑顔に戻す何度でも」

晴太君。晴太君。君は強いよ。何の役に立たないなんて言わないで。
君は此処まで来た。お母さんに会いたいと言った。君の言葉は、俺に、みんなに届いたよ。

「母ちゃんの一人や二人。息子なら背負って当然だろ」



君の想いが――君の覚悟が、俺に炎を灯すんだ。





動く気配がした。日輪を背負う晴太以外にも。傍観を決めている神威以外にも。場を支配する鳳仙以外にも。
僅かながらの驚きを胸に振り返れば、立っているのは異世界の来訪者だった。

「……貴様」

彼は傷だらけだ。肩は荒く、立っているのもやっとだろう。腕は力無くだらりと下がっているし、両腕と額に灯っていた炎は消え、両手のグローブはただの毛糸の手袋となっていた。
満身創痍。まさにその状態だ。それでも沢田綱吉は立ち上がる。

「貴方に……」

大きな声ではない。どうにか絞り出した声だ。それでも、耳にしっかりと入ってきた。

「太陽は手に入らない」

傷付く彼は、それでも瞳は絶望していない。

「誰かの大切なモノを傷付けて。自分の大切なモノを傷付けて。渇きを誰かのせいにして。それじゃ、何も変わらない」

過去と重なった。



「『貴方の(お前の)渇きは癒えない』」



二十年前も。今も。何故貴様は同じ眼で見るのだ。何故その眼をしているのだ。

「炎も灯せぬ異界の者が――貴様には力なぞ残って……」
「力じゃない」

綱吉は真っ直ぐと立った。傷口から血は止まらず出ている。骨だって折れている。でも、それでも――。

「死ぬ気の炎を灯すのは力じゃない」

――みんなを、護りたいんだ。



「覚悟だ」



手袋が光を放ち、Xグローブへと姿を変える。

「強き覚悟が、死ぬ気の炎を灯す」

昨日よりも。一瞬前よりも。強い覚悟を。
再び澄んだオレンジの炎が灯った。

「鳳仙。貴様には俺達の炎は消せない」

鳳仙は忌々しげに歯軋りをした。
そして、立ち上がるのは綱吉だけではない。

「まったくじゃ。そう簡単に消させてたまるか」

新たに響く声は、百華の頭。

「晴太。背負ってもらおうかの、ここにいる皆を。貴様の母親49人」

百華を引き連れ、月詠が戦場に降り立つ。

そして――。

「この大ボラ吹きめが!!」

月詠は倒れている銀色の侍にクナイを投げ付けた。






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