第五章 第二十一話     98/115
 




落下速度と体重と銀時自身の力。数々の障害をその木刀一本で乗り越えてきた。手に持つは己の大切なモノを護る牙だ。

片手で受け止められた。

「くっ!!」

鳳仙は歯を見せ笑うほどの余裕を見せていた。銀時は防がれたことに怯まず左手に持つ刀を振るおうとする。しかし、それよりも鳳仙の脚が動くのが速かった。鳳仙は銀時の頭を蹴り上げる。飛び降りる形で斬り掛かっていたため、銀時はそれを右にも左にも避けることは出来ず、それを正面から喰らう。

「がはっっ」

銀時は口から血を吹き出す。頭への衝撃で脳が揺れ、一瞬目の前が真っ暗になる。一拍して視界が戻れば、目の前には今まさに振り下ろされる傘が迫っていた。

「させるかっ!」

傘が銀時に降ろされることはなかった。横から綱吉の右足の蹴りが入り、軌道がずれる。傘は銀時の横を過ぎ、渡り廊下を破壊するに留まった。

「痛つ……」
「銀時、無事か」
「当ったり前だ。準備運動も終わってねェぜ」

銀時は鳳仙から離れたところに脚を曲げて衝撃を吸収することにより着地した。綱吉はそのすぐ右隣にすとん、と着地。炎の噴出された推進力で飛んでいるらしいが、言うほど簡単ではないだろう。それを自在に使いこなしているのだから、この状況では頼もしいものだ。

「銀時」
「んだよ」
「俺が囮になる。懐に入り込め」
「ガキに囮なんざやらせられるか。つーか、お前にやらせたら神楽に殺される」

銀時は口元に付いている血を手の甲で拭いながら言う。

「大丈夫だ。一緒に謝ってやる」
「俺が認めねェって言ってんの。無茶すんな」
「なら」

綱吉は銀時を見ていなかった。灯す炎と同じ、橙色の瞳で鳳仙を射抜いている。

「危なくなったら援護を頼む」
「……はぁ」
「『今の』俺でも、避けるくらいは出来る」
「あれ、一撃でもまともに喰らったらアウトだぞ」
「問題ない」

綱吉は両手に灯る炎を大きくする。

「全て見切る」

綱吉は一直線に突っ込んだ。鳳仙はそれを見て好戦的な笑みを浮かべる。彼は戦いを楽しんでいた。そのことに綱吉は悲しげに眉を顰めた。

「黄泉に行き急ぐか」
「生憎だが」

鳳仙は綱吉目掛けて傘を振り下ろす。綱吉は炎の噴出方向を一瞬で後ろから左に変え、右方向に素早く傘を避けた。傘は速度を落とすことなく振り下ろされ、轟音を立てながら床を破壊する。

「閻魔に会う気はない」

鳳仙は振り下ろしたままの傘をそのまま薙ぎ払い、綱吉を追撃する。綱吉は後ろに身を引いた。鼻先に傘の先が掠る。あと数瞬下がるのが遅れていたら、頭が跳んでいた。
鳳仙は薙ぎ払ったままの体勢からまだ立ち直っていない。銀髪の侍はそれを見逃さなかった。

「でりゃぁぁぁぁぁ!」

雄叫びを上げながら銀時は鳳仙の足下から斬り上げる。鳳仙は体勢を崩していて、傘はあらぬ方向を向いている。防ぐ事は出来ない。そう思った。防がれた。

「ふんっ!」

鳳仙は刀を歯で止めていた。

「銀時っ!」

呼ばれる前に反応し、地面を蹴って下がろうとした。いや、下がった。後ろに跳んだ。しかし、鳳仙の方が速かった。傘が動くのを目の端に捕らえ、咄嗟に木刀を前にする。次の瞬間、吹き飛ばされた。

「がっ!」

一度、二度、三度。背中、右腕、頭に衝撃が走った。地面に叩き付けられながら転がったと気付いたのは壁に背中から衝突し、横転が止まってからだった。刀は落としてしまい、今両手には武器がない。不味い。しかも、相手は夜王だ。それで終わらない。

「うがあああああ!」

頭を掴まれ、握られた。骨がミシミシと悲鳴を上げている。

「銀時を放せっ!」

綱吉が鳳仙の背後から殴りかかる。鳳仙は蠅を払う様にそれを傘で排除しようとするが、綱吉はその動きを呼んでいたのだろう。膝を曲げて屈み、そのまま身体を右回りに回転させて鳳仙の左側に回り込み、銀時を掴み上げている左腕を蹴り上げようとする。

しかし、その動きを鳳仙は読んでいた。

綱吉の目に入った鳳仙の顔は、嗜虐的に笑っていた。






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