第五章 第十八話     95/115
 




「前方には見張り三人。さらに奥に五人が待機。恐らく手前の見張りが気付いた時点で奥に伝わる連絡系統になっているね」

曲がり角から僅かに顔を覗かして戦闘経験豊富な夜兎は冷静に分析した。
見付からずに此処まで来られたが、最後の難関が待ち受けていた。残りは計八人。見回り目的の百華ならば乗り切れる自信はあるが、動くことはない見張りでは少々勝手が違う。

「どうしよう、ツナ兄…」
「うーん、何処かに誘導する、とか?」

綱吉は一つ思い付いたのを口にしてみる。

「物音が聞こえたくらいじゃ、一人か二人が持ち場を離れる程度だろうね。かといって俺等が姿を見せたり、派手な動きをしたりすれば他の百華の応援が来ると思うよ」

しかし、その案はあっさりと論破されてしまった。

未来ではメローネ基地を攻略したが、言ってしまえばあれは入江正一の掌の上だった。
作戦はラル・ミルチやリボーンが中心に考えたし、成長したボンゴレお抱えの技術屋の発明品もあった。綱吉達は実働部隊で、作戦を考えるのは不得手なのだ。
綱吉はうーん、と足らない頭を捻る。晴太も子供ながらに何か案を出そうと眉間に皺を寄せている。三人寄れば文殊の知恵なんて言うが、二人は子供、残りは戦闘狂。まともな案など出るのだろうか。
だが時間を掛ける訳にもいかないし、焦りばかりが増していく。

「ねぇ、立ち止まってて良いの?他の見回りしてる百華に見付からない?」

神威は最初から考える気はないのか、壁に寄り掛かり欠伸を噛み殺していた。しかし、待っているのに飽きたのか思い出した様に懸念を言う。
神威にしてみれば当然のことだし、晴太も「あ」と思い至った様で慌てて隠れる場所を探す。しかし、綱吉は問題はないと言った。

「大丈夫ですよ。近くに他の百華がいる感じはしませんから。たぶん他の所を捜しに行ったか、襲撃者って人に手がいっぱいなんだと思います」

まぁ、襲撃者は十中八九万事屋と月詠だろう。
月詠の事を晴太から聞いた時は驚いたが、一瞬万事屋と合流した時は晴太を護ってくれていたし、元から悪い人ではないのだろう。時間があったら話をしてみたい。もっとも、それはこの騒動が終わった後になるだろう。

「だから残りは見張りの人だけなんです」

それでも、応援は呼ばれたら来るだろう。出来れば穏便にいきたいものだ。
超直感を持っている綱吉にとっては百華の所在を言い当てた事は何でもない事だったのだが、二人にはそうではない。あっさりと言ってのけた綱吉に、晴太など尊敬や驚きを通り越して呆れている。
そして神威は面白そうに笑うのだ。

「本当に君面白いね」
「……褒め言葉じゃないですよね?」
「てか変?変人?君本当に地球人?」
「地球人出身の地球育ちです!」

異世界のだけど。
流石に異世界から来たとは言えない。信じて貰えるとも思わない。

「正直、見付からないでとか無理だと思ってたけど」

神威は壁から背を離し、流れる様な動きで歩き出す。

「此処まで宣言通り見付からずに来た事に、ちょっとした敬意を賞そうか」

神威はそのまま曲がり角に出た。あまりに自然な動きだったので、綱吉達は止める間もなかった。

「貴様!」

当然ながら見張りに立っている百華達は神威に気付く。神威は襲いかかってくる百華に構えることもなく近付いていく。

「ちょっ、アンタ何考えてんだ!」

晴太は神威に叫び、綱吉も殺させてたまるものかとポケットの瓶に手を伸ばす。
しかし、綱吉は違和感で伸ばした手を止めた。

殺意を感じない?

百華は吹き飛んだ。前方に。左方に、右方に。まるで邪魔だとでも言いたげだ。晴太は思わず目を反らした。

「っう……く…そ……」

しかし、呻き声がして晴太は再び前を見た。百華達は血を流して倒れ伏している。しかし、今までと違うのはその百華が死んでいないと言うことだ。

「なぁに、ちょっとしたご褒美だよ」

綱吉も口をぽかんと開けている。彼にも神威の行動は予想外だったのだ。

「日輪様の元へいかせるなァ!!」
「ここで何としても食い止めろォォォ!」

奥に控えていた百華も異常に気付いて武器を構えて突進してくる。

「しつこいなー」

しかし、そう言いながらもまたしても神威は殺さなかった。百華はぴくぴくと動いている。

「す、スゲェ……」

晴太は口をあんぐりと開けている。

「貴方は……」

そして綱吉は神威が戦う姿を目にして言う。

「笑いながら、敵を見送るんですね」

晴太は綱吉の顔を伺った。見送る、と言う言葉が晴太は分からなかったのだ。どうしてその様な表現をするのだろうか。

「へぇ、俺の笑顔の意味が分かるんだ」
「分かりませんよ。笑いながら戦う人の気持ちなんて……」

神威は返り血が付いた顔で振り返った。

「笑顔が俺の殺しの作法だ。どんな人生であれ最後は笑顔で送ってすこやかに死なせてやらないとね」

神威は笑顔を向けられている時は殺意があると言いながら晴太に笑いかけ、冗談だと笑った。子供は殺さない主義だと。その言葉を聞いても晴太には恐怖が勝ったが。
綱吉は浮かない顔のままだった。

「君も笑うといい」

そう言い、神威は扉を示す。

漸く辿り着いた。目的の場所に。
晴太は握っていた綱吉の手から離れ、一歩ずつ扉に近付いた。






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