無色アサリ 再会しちゃった     2/5
 


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「平和島?」

仕事中に、後ろから声を掛けられた。

歩道を渡ろうとした時、右隣には先輩の田中トム。左隣には最近仕事仲間になったヴァローナ。
次の仕事場に向かっている途中で、誰だと思った。この池袋で自分に話し掛けてくる者は、決して多くない。喧嘩目的が以前いたが、掛けられた声はそんな調子のものではなかった。

平和島静雄は、そんなことを思いながらゆっくりと振り返った。

「なんだぁ?静雄の知り合いか?」

トムやヴァローナも一緒に振り返る。

後ろには一人の男が立っていた。
明るい茶髪は重力に逆らって上に横にと伸び、瞳も髪と同色の茶色だ。
見た目からして、静雄と同い年に見える。顔にははっきりと驚き、そして喜びが現れていた。

「…沢田?」

静雄は目を見開きながらも呟く。どうやら知り合いらしい。

「やっぱり平和島か!久しぶりだなぁ、元気か?」

沢田と呼ばれた男は嬉しそうに笑顔で静雄に近付く。

「まさかこんな所で会うなんて!奇遇だなぁ」
「俺も驚いたよ。アンタ全く変わってないな」
「ほら、一先ずここ渡ろうか」

沢田にそう言われ、まだ自分達が道路の真ん中にいることに気付く。信号は点滅し始めている。早く渡らなくては。
はや歩きで歩道を渡り、渡った所で横に避ける。

「驚いたよ。なんだ、その格好。バーテンか?」
「弟が買ってくれてな。普段着にしてる」
「いくらなんでも普段着にするなよ」

トムはその言葉を聞いて逃げる姿勢になった。
静雄の服装に関する沸点は通常よりもずっと低い。それをけなされて、静雄が黙っているとは思えない。
静雄の知り合いなら静雄の力を知っているだろうに、この男はあっさりと怒らすような事を!
トムは冷や汗が背中に走るのを感じた。

「うるせえ。俺の勝手だろ」

しかし、予想に反して静雄が起こり出す雰囲気はない。口ではうるさいなどと言っているが、不機嫌とまではなっていない。
知り合いだからだろうか?いや、そんなことは関係ない。それはトムも分かっている。隣に立っているヴァローナも驚愕の表情だ。

「今は何やってんだ?」
「取り立て屋の手伝いみたいなもんだ」
「取り立て屋!?大丈夫なのか?」

その後も、彼等は普通に会話を続ける。
随分と仲が良さそうだ。それを見て、ヴァローナが不機嫌になっていくのがトムには手に取るように分かった。

「疑問です。先輩とあの沢田という男はなんですか?」
「…さあ?昔の同級生って所か?」

トムにも彼が誰だか分からなかった。
見た目が静雄と同い年のことから、同級生だと予想する。仲が良さそうだから、友人だったのかもしれない。
静雄から沢田という人物の話を聞いたことはないが、恐らくその様な所だろう。

「…あれ、もしかして仕事中だった?」

沢田が気付いたように此方を見る。
ヴァローナはそれに対して睨み返すが、沢田は困ったように苦笑いするだけだ。
流石静雄の友人。ヴァローナの睨みをものともしない。大した度胸だ。

「あー…悪ィ」
「やっぱりか!俺も悪いな。考えが及ばなかった」
「いや、その、急ぎじゃないんだが…」
「いやいや、そちらさんを待たせてるだろ」

静雄も此方を振り返る。その顔にはしまったと書いてある。

「すんません、トムさん、ヴァローナ」
「いや、大丈夫だが」
「問題ありません、先輩」

そう言うヴァローナはまだ睨んでいる。此方が冷や汗ものだ。

「今度また会えるか?」
「ああ」

そう言って彼等は携帯を取り出し、当たり前の様にメアド交換をし始める。

「アンタ、今何やってんだ?高校卒業してから全く話聞かないが…」
「ん?あぁ、…ちょっとな。今度来神高校…今は来良学園か、に赴任が決まってさ。今日はその下見に行ってきたんだ」
「またあの高校行くのか?」
「懐かしい先生もいたぞ?俺が行くって言ったら、泣いて喜ばれた」
「そうか」

親しい間柄の会話そのものだ。トムはそれを見て珍しい顔をし、ヴァローナは難しい顔を深くする。

「それじゃ、今度飲みに行こうや」
「おう」

そう言って沢田は手を振って別れていく。
静雄は「すんません」と言い、トム達に振り返る。ヴァローナは早速疑問を口にした。

「質問があります。あの沢田と言う人物は何者ですか?」
「何時かの同級生かぁ?」
「同級生?」

静雄は目をぱちくりとさせる。暫くそのままだったが、すぐに合点がいった様に苦笑いをする。

「違いますよ。高校の時の担任です。たぶんもう三十路超えていると思うっすけど…」

トムとヴァローナ、二人の動きがぴたりと止まった。



タンニン?センセイ?…三十路越え?



意識が戻ってきたのはトムの方が先だった。

「…まじで?」
「あり得ません。明らかに先輩と同年代か下にしか見えませんでした。説明を要求します」
「いや、本人も童顔は昔から気にしてたからあまり言ってやるなよ…」

三人はそのまま歩き出す。仕事はまだ終わっていないのだ。止まり続ける訳にはいかない。

「高校の時の担任で、随分お世話になってたんすよ」
「へー…お前が世話になったって言うくらいだから、良い先生だったのか?」
「まぁ、そうっすね。どちらかと言うと不良先生って感じですけど、波長が合ったっていうか…俺の喧嘩も何度か止めて貰いましたし」
「先輩のですか?」

ヴァローナはその言葉に反応した。トムも驚いている。
静雄の喧嘩は、はっきり言って一方的だ。それを止めると言うことは、静雄を止めると言うこと。それは驚くに値する。

「凄ェな…それ」
「沢田のお陰で何度か停学免れてるんで、高校時代は助かりました」

ヴァローナは難しい顔をした。あの男に会ってから、気になっていることがあった。

「先輩」
「どうした?」
「あの沢田と言う男は一般人ですか?」

ヴァローナの言葉には、静雄だけではなくトムも意味が分からなかった。

「何言ってんだ?そりゃそうだろ。ただの先生だよ、アイツは」
「静雄の喧嘩を止められるからって言って、それイコール一般人じゃないってことにはならないだろ。サイモンも止められるし」

サイモンは一般人ではない。その言葉をヴァローナは飲み込んだ。
静雄の担任だったと言うことは、何年も前から先生でいたということだ。流石に考えすぎだろうか?

「はい…ただ…」



身のこなしが、一般人に思えなかったので。



ヴァローナの呟きは、池袋に消えていった。







**********

以前memoで設定だけ書いたDRRRとの混合でした。

静ちゃんは意外と書きやすいんだけど、ヴァローナが書きにくい!何あの子!

設定だけでは好評だったので、一話だけ書いてみました。
この設定を妄想して、一番最初に思い浮かんだ場面です。これが書けて満足です、私は←

楽しく書けました!



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