友人アサリ 何やってるんですか     5/5
 




祓い屋の業界は狭い。実力者は大体の者が知っているし、力を付けてきた者の名が広まるのも早い。
名取周一は、その名が広まってきた祓い人の一人だ。
表は人気俳優、裏では祓い人。そんな多忙な彼は、休日が少ない。一日オフだと思ったら急にどちらかの仕事が舞い込むことも多い。
しかし、今日はそんな少ない休日である。仕事がない貴重な日。そんな日に彼は――。

「やぁ、夏目」
「名取さん……予告も何もなく、待ち伏せするの止めて下さい。目立っています」
「ははは、きらめいててご免」

友人に会いに来ていた。





「ここのチーズケーキが絶品なんだ。この間見付けてね。是非夏目にも味わってもらいたくて」
「お前が言うと何でも胡散臭くなるな」
「こら、先生。喋るとニャンコだってバレちゃうだろ」
「夏目。猫は喋らないよ。それにこの席は奥のテーブル席だし、小声で喋るくらいなら気付かれないんじゃないかな」

妖が見える者の中で、名取周一が唯一、友人だと思っている子供。それが夏目貴志だった。
祓い屋で、若くして力を付けてきている名取を嫌う者は多い。そして、力ある祓い屋ならばなおさらその傾向は強い。それはヘタをすれば面倒な仕事という形で現れるほど。面倒な仕事は時間も掛かる、妖から多くの恨みを買う、そして危険なケースが多い。その面倒な仕事を避ける為にも、祓い屋との付き合いは仕事だけ。必要以上に干渉をしないし、させもしない。
それが名取周一のスタイルだった。

「夏目。――最近何か変わった事はあったかい?」
「特にありませんよ。何時も通りです」

名取は目の前でチーズケーキが運ばれてくるのを待っている夏目に訪ねた。
名取が気にかける子供が例外だった。妖を友人だという子供。彼に出会ってから自分は少し、変わった――少し、式を気にかけるようになり、少し、無駄に妖を滅するのを避けるようにしている。
祓い屋の中には式に信を置いている者が多い。それが名取には信じられなかった。何故、妖を友として扱う。相棒として扱う。人の思考を指図する気はないし、俳優として培ってきた演技でその考えを式を遣う者には悟らせないようにしていた。
しかし、全員を騙せてきた訳ではない。

『貴方は演技がお上手ですね。俳優ですから?クフフ、そうではありませんよ。そうですね、僕の処のバカな次期頭首に会えば意味が分かりますよ』

そう言ったのは祓い屋の中では有名な『六道輪廻』だ。
赤と青のオッドアイで、特徴的な髪型をしている男。髪型について指摘した者は行方不明になるという噂があるが、試したことはない。触らぬ神になんとやら。面倒事はご免である。
その『六道輪廻』に言われたからという訳ではないが、その後、その次期頭首に会うときは緊張した。
何を言われるのだろうか。祓い屋の名門の、次期頭首。名門の名に恥じない、名取一門と並ぶ、最強と謳われた彼の祖父の再来、などなど。当時の彼はそう言われていた。名取は、自分は度胸があると自負しているが、緊張はするものだ。
その緊張は、はっきり言うと無意味だったが。名取よりも一つ年上である噂の彼は次期頭首だという立場を気にせず、へらり、と笑って「一緒にゲームやらない?中ボスがなかなか倒せないんだよね」と言ったのだ。

「ブラックコーヒーって俺飲めないんだよね」

そうそう、こんな感じの声で――。

「…………え」
「あ、ツ、ツナ!?」

ギチギチと首を横に向ければ、そこには夏目と同じくらいの年頃の少年が。逆立つ茶髪と、同色の瞳を持つ子供。見た目は、普通の子供に見えるが、明らかに異常だと分かる特徴が。
透けている。生者ではない。

「俺はコーヒーより紅茶派だな。もっと言うならオレンジジュースの方が。さらに言うとサイダーの方が好き」
「名取さん!あの、ツナは妖でもその、悪い奴じゃないんです!」
「……妖?」
「最近、と言っても四日くらい前ですけど、俺が一つ目に襲われそうになった時に助けてくれて!」
「……四日前?」
「え、あ、はい……名取さん?」

名取は右手で米神を押さえた。ああ、頭痛がする。テーブルの横で立っているへらりと笑う半透明の『人間』を見ていると。

「夏目。言いたいことは分かった」
「は、はぁ……」
「そうだ、夏目。外に柊がいるんだ。ちょっと外で何をしているか見てきてくれないか?」
「柊をですか?」
「ああ。この少年の『妖』が入ってくるのを、どうして黙って見ていたのか、気になってね」
「それって……」
「夏目、お願いしても良いかな」
「……分かりました」

夏目は後ろ髪を引かれながらも立ち上がる。恐らくこの透けている『少年』を心配しているのだろう。名取は友人とは言え、祓い人。この『少年』祓われないかと心配しているのだろうか。
しかし、ひらひらと手を振って夏目を送り出す『少年』を見て、夏目は店の外に出ていった。柊の許に行ったのだ。

さて、これで遠慮なく言える。

「何やってるんですか、綱吉さん……!」
「あははは、サボり」
「何だ。やはり貴様ら知り合いだったのか」
「うん。高校時代からのね」

そう言って少年は夏目が座っていた席に座る。つまり、名取の向かいに。
透明な少年――沢田綱吉はれっきとした人間である。それも、祓い屋の間では有名な。

「二日前に貴方の所の『晴のアルコバレーノ』から電話がありましたよ」
「何だって?」
「『うちの馬鹿を見付けたら問答無用で拘束するか術をぶっ放つか妖をけしかけるか俺に連絡寄越せ』だそうです」
「うわ、殺る気満々だな」
「聞いたときは何時ものかと思いましたけど、今、意味が分かりました。もう一度言います。何やってるんですか」

名取は目の前の知り合いを前に、頭痛を隠さなかった。頭を抱え込み、テーブルに半分突っ伏す。

「あはははは、名取は予想通りの反応をしてくれるなぁ」

笑っているが、彼の状態は本来笑える状態ではないのだ。
幽体離脱。文字通り、魂が身体を離れている状態。魂が抜けた身体を妖にどの様に悪用されるかなど考えたくもないし、幽体の状態で妖に襲われたらと思うと背筋が凍る。
無防備な身体は彼の一門が護ってるだろうが、幽体が此処にあるということは、本来非常に危険なのだ。サボりの為にすることでは絶対にない。それは彼も分かっているはずだ。

「笑っている場合じゃありません。早く身体に戻って下さい」
「えー、だってー」
「だってじゃありません」
「そうだ、若造。さっさと帰れ。幽体で彷徨かれると目障りだ」
「先生酷いー」
「今がどんな状態か、貴方が一番分かってるでしょう!」
「うーん、でも気になる事あるし」

名取が綱吉に正論で戦い、勝てたことが何度あったろうか。気が付いたら彼のペースだったことが何度あったろうか。事が終わった後、ああ、そうだったのかと思ったことが、何度あっただろうか。

「気になる事?」
「うん」

この人は、何時も迷いなき瞳で前を見ているのだ。

「何で術失敗したのかなー、って」

憧れに似た念を抱いているのは、誰にも言ったことがない。





**********

二人の出会いは高校時代。
最初の思い出はゲーム攻略。
その次の思い出は妖攻略。



20121103



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