灰色アサリ 一触即発の食堂で     3/3
 



「ふぁ……」

ツナは手を口に当てて大きな欠伸を遠慮なくする。
自分は一日に何回欠伸をしているのだろう。過去に何度か数えようとした事もあったが、正確に数えられたことなど一度もない。気が付いたらしている欠伸を数えるのは自分には難易度が高かった。ブックマンやラビならば出来そうだが、頼むにしても内容が内容だけに、くだらなすぎて頼めない。大した事でもないし、謎は謎のままである。
だが、そんな些細な問題の事よりも眠かった。酷く眠かった。昨日帰ってから司令室で寝て、自分の部屋でも寝ていたのに……。眠い。

「報告書出して……ご飯食べて……ご飯先に食べようかな……」

先ほど起きてサッサと書いた報告書。殆どまとめて書いてくれたのは、ツナの体質を把握している探索部隊だ。共に任務に行った彼等が書いてくれ、ツナはちょっと見直して付け足したりサインしたりするだけだからツナは楽だ。申し訳なく思うが、助かっているのも事実。探索部隊はいい人達だ。

「何だとコラァ!!もういっぺん言ってみやがれああっ!!?」

それ以上に血の気が多い人が多いけど。

「おい、やめろバズ!」

食堂から聞こえてくる怒鳴り声。それは探索部隊の人達の声だ。歩く速度を駆け足に変え、食堂に向かう。
静止の為に名を呼ばれていたバズの事は知っている。大柄で、スキンヘッドの男だ。
体格が良い、また反射神経も悪くない事から探索部隊で能力的には優秀な部類に入る。しかし、感情的な行動的な行動が多く、喧嘩っ早いことから拳が出やすい。その為たまに喧嘩沙汰になる事がある。
だが、それ以上に友達思いの奴で涙もろい。友達を馬鹿にされると怒れる、気のいい奴である。
ツナは、バズの事が嫌いではなかった。

「死ぬのがイヤなら出てけよ。お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる」

食堂の入口に到着すると、神田がバズの首を掴み片手で持ち上げている所だった。これはいけない。大変いけない。
しかし、ツナが声を上げるよりも早く、彼等に割って入る者がいた。

「ストップ」

神田の手首を掴んだのは白髪の少年だった。
その少年の後ろ姿には見覚えがある。しかし、直接彼を見たのは初めてだ。崖を登ってきた、クロス元帥の関係者。
司令室から退室する時に、コムイが言っていた。珍しい、寄生型のエクソシストの少年が入団したと。
それを表すように、白髪の少年の左腕は赤かった。血のようだ。失礼ながらそう思った。

彼も、エクソシストなんだ。俺と同じ、寄生型の。

両手が熱くなったように感じた。同じ寄生型の少年。
両手以上に、胸が熱くなった。

「放せよモヤシ」
「アレンです」

白髪の少年――アレンは名乗る。神田はその名を呼ぶことはあるだろうか。
しかし、名前以上に神田はアレンが嫌いのようだ。

バタバタ死んでいく。こいつらみたいに。
神田の言葉に怒りを示し、アレンは神田の手首を掴む手を強める。イノセンスの左腕で握り締められているのだ。それは普通の人間の握力の何倍か。

「だからそういう言い方はないでしょ」
「早死にするぜ、お前……キライなタイプだ」

神田の睨みにアレンは臆する事無く「そりゃどうも」と返す。流石。クロス元帥の関係者。泣く子も黙る神田の睨みなど物ともしない度胸を持っている。
食堂の一角だけ、異様なオーラが燃え上がる。ああ、あの二人は仲良く出来ないな。少なくとも、今のところは。
近くで食べていた団員は黙って席を変えていく。正しい判断だ。しかし、人様に迷惑を掛けている事には変わりがない。そして何より、失神してしまったバズを心配して席を変えられない探索部隊もいる。

「公共の場で一触即発にならない」

遅すぎる気もするが、間に入って睨み合いを止めにかかる。
最初は神田とバズの間に入ろうとしたのに、結果的に神田とアレンの間に入ることになろうとは。

「えっと、貴方は……?」
「今度はお前か……」

アレンは見知らぬ介入者に驚いている。まぁ、彼にとって教団の団員殆どは見知らぬ人だろうが。神田はアレンに続いての介入者に苛立っているようだ。次から次へと、と思っているのだろう。
だが、此方も言わせてもらえば、食堂で喧嘩を始めるお前が悪い。

「二人共、此処が何処だか言ってみな」
「へ?しょ、食堂です」

戸惑いながらも、律儀にアレンは答える。神田は予想通り、無視である。

「そう、此処は食堂だ。喧嘩がしたければ鍛練場に行ってやりな。迷惑だから」
「……ちっ」

神田は舌打ちを隠しもせず(隠したら吃驚だけど)、アレンの左手も振り払う。
余計な口答えをしないのはツナとの口論が無駄だと知っているからだ。対等なら兎も角、今は食堂で騒ぎを起こしていた神田に非がある。それで何か言い返そうものなら、一が十にも百にもなって返ってくるだろう。ツナは自分の根本の考えを曲げないから、口論をするにはそれなりの条件や覚悟がいるのだ。

「よっと」

ツナは倒れていたバズを背負い上げ、駆け寄ってきた探索部隊に受け渡した。彼はすぐに連れて行かれた。恐らく病室に行くか、自室に運ばれるだろう。

「初めまして」

ツナは改めて新人エクソシストに向き直った。

「俺はツナ。エクソシストだよ」
「アレン・ウォーカーです。エクソシストです……って言っても、正式になったばかりですけど」
「分からないことがあったら遠慮なく訊いてね。俺、結構教団歴長いから」
「はい!ありがとうございます!」
「生きてたらな」

アレンとの和やかな自己紹介。やはり映像で見たときに感じた違和感は気のせいだったのだろう。自然な流れで握手をしようとしたら、神田の言葉でアレンの動きが止まる。

「……あの、」
「お前も、寝てたら訊けねぇだろうが」
「あはは、それは、隙を見てって奴で」

アレンの言葉を神田は遮る。うーん、これは初対面で嫌い過ぎだろう。

「神田!アレン!……あ、ツナ。起きてたのか」

喧嘩が再び始まりそうな空気に入ってきた声は、リーバー班長だった。

「二人共、10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」

……この二人に?

そう思ったのは、食堂にいる団員全員だろう。





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ファーストコンタクトは平凡に



20121013



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