友人アサリ 一発殴るのだ 4/5
誰か僕に頭首を抹殺する許可を下さいいえ許可などなくとも殺します僕にはその権利があるはずですだって僕本当はこの後休暇の予定だったんですよ二ヶ月ぶりのまとまった休暇の予定だったんですよ凪と一緒に旅行に行こうかなんて考えて柄にもなく少し楽しみにしていたんですよ温泉行って観光して久しぶりに家族水入らずでゆっくりしようなんて考えていたんですよそれがあの頭首魂が何処か行ったってどうせ術失敗して戻ったら怒られるの面倒だからサボろうなんて考えているに決まっている全く巫山戯るんじゃないアルコバレーノは休暇は振り返るなんて言いましたがあの男がそんな気が利いたことしてくれるはずがない僕の休暇をどうしてくれ
「骸」
「何ですかアルコバレーノ」
「会合に行く前にその殺気をどうにかしろ。戦争をしに行くんじゃねぇんだぞ」
「ええ、そうですね。僕が殺意を抱いている相手は沢田綱吉ですから」
「全くだ、あのダメツナ。幽体離脱したまま何処ほっつき歩いていやがる」
「いっそのことそのまま妖怪に食われてしまえばいいのに」
「会合相手にはそんな口叩くなよ」
「当たり前ですよ」
何故代理で僕が行かなければいけないのか。しかも相手はあの一門の頭首だ。何度か会ったことがあるが、好きになど一生なれないだろう。
「――戻ってきたら八つ裂きにしてやる」
恨み言の一つや二つや三つや四つ、言わないとやっていられない。
今夜は的場一門との会合なのだから。
「犬、千種。お前達は此処で待っていなさい」
会合場所の屋敷に入る前に、己の式に命令する。
「だけど骸さん……」
「分かりました、骸様」
犬は渋るが、千種はすぐに了承した。千種は知っているのだ。的場は他人の式だろうと関係なく利用する。だから式を使役する者は、彼との会合場所に式を連れて行くのは気が進まない。
犬はまだ渋っていたが、命令には従う。千種も大人しく下がった。それでも、二人とも呼べばすぐ馳せ参じるだろう。それなりに優秀なのだ。失うのは惜しい。
無駄に長い廊下を通り、広い和室で座って待っている。会合開始予定時刻の五分前。的場一門の頭首が入室した。
「おや」
右目に文様が描いてある眼帯をした、黒髪長髪の若い男――的場静司は部屋で待っているのが予想していた者と違い、疑問の声を上げる。
「今回の会合は、確か頭首のはずでは?」
「綱吉君は急な別件が入りまして。僕が名代として参りました」
内心、目の前の的場よりも己の頭首に対し不満全開だが、それをおくびにも出さないで対応する。それには慣れている。
『お前って猫被り上手だけど、分かりやすいよな』
そう言って煎餅を食ったのは、むかつくことに今は魂の状態でふらふらしている己の一門の頭首だ。確か僕はお茶を彼の宿題にぶっかけてやり、彼は悲鳴を上げていた。いい気味だった。
「そうですか」
的場は大して気にしてない様子で用意されていた座布団に座る。
「浅蜊一門の頭首とは会ってお話ししたい事があったのですが、残念です」
前言撤回。勝手に名代を立てられていい気はしていないらしい。当然だ。もし自分がやられてもそう思う。ましてや的場は頭首なのだから。
「僕では不服ですか?」
「いえ、そうではありません。『六道輪廻』の骸さんとお会いできる機会も殆どないので、お会いできたのは嬉しい。会合でなければ色々お話したかった」
此方には話すことなど何一つない。寧ろ会いたくなどない。
「この会合の後、お時間があったら一緒に食事でも?」
「お誘いは嬉しいのですが、申し訳ありません。この後も仕事が控えていますので」
この男と笑顔で食事までするのは仕事に入っていない。自分はあくまでこの会合の名代。何故食事までしなければならないのだ。
「それは残念」
的場はそう言うが、本当はそんなこと欠片も思っていないだろう。薄気味悪い笑顔の奥に本心を隠している。
『的場の所の頭首とお前って似てるよな。お前の方が分かりやすいけど』
そう言って饅頭を食ったのも、むかつくことに今は何処にいるかは分からないいっそ妖怪に食われてしまえと思っている頭首だ。僕は珈琲を彼の書類にぶっかけてやり、彼は悲鳴を上げて泣いていた。いい気味だった。
「またの機会に誘って下さい。近場に良い和食の店を知っています」
あの男が言っていた似てると言うのはこういう所だろう。二人とも本心を口にしない。交わす言葉は嘘ばかり。
「では、早速ですが今日の議題に入りましょうか」
「そうですね。西に放った式から寄せられた情報によると――」
会合が始まる。始まってしまえば話題は仕事に集中した。しかし、たとえ仕事でもこの男と話したくはない。
自分は嘘で塗り固められた人間だと自覚させられる。
この会合が終わったら、すぐに凪に会いに行こう。
そして、あのサボり魔頭首を探し出して一発殴るのだ。
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骸と的場の会合。
骸は昔からツナと知り合いだったり。
凪(クローム)は骸の妹、犬と千種は骸の式です。
20120421
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