友人アサリ こりゃ大物だ     3/5
 




あー……こりゃ大物だ。

それが、目の前に鎮座する不細工な猫を前に抱いた感想だった。

「こらニャンコ先生。そんなにツナを睨むな。怯えるだろう。只でさえ先生の顔は珍妙なんだから」

夏目はそんな事を言って隣に座る不細工な猫の頭をぽんぽん叩く様に撫でている。
何故猫に本気で話し掛けているのかと言うのなら、その理由はもう明確だ。
この猫は妖怪だ。それもかなり上級の。招き猫に封印されている様だが、もう解けているみたいなものだ。恐らく簡単に本来の姿に戻れるだろう。

「夏目……なんだ、コレは」
「昨日話しただろう?妖に襲われそうになったのを助けてくれたんだ」

夏目が礼をすると言ったその日の帰り。つまり出会ってまだ丸一日。夏目は知り合ったばかりの妖怪(本当は人間だけどね)を家に上げている。
警戒されたいわけではないが、この対応はどうだと言いたい。人間相手でも不用心だろうに、妖怪相手にこれはどうだ。
まぁ、それほどこの『先生』を信用していると言う事なんだろうが。

「こんにちは、用心棒さん」
「…………」

笑顔で挨拶をしたのに、猫はじー、とも、じとー、とも言いそうな目線で見詰めてくる。

「ニャンコ先生?どうかしたのか?」
「夏目。何故こやつを連れてきた」

猫は顔を此方に向けたまま、視線を右にずらし夏目を見る。

「助けてくれた礼をしたくて。あっ、そうだ先生。ツナに酒を分けてくれ」
「何ィィィィィィィィ!?」

今まで俺を見て殆ど身動きを取らなかったのは、警戒して何時でも動ける様にしていたからだろう。
だが、夏目の発言でそれが崩れた。

「何故私がこの者に酒をやらねばならんのだ!」
「何時も飲んでいるんだから別に良いだろう?」
「良くない!第一、貴様が勝手に私の酒の譲渡を決めるな!」

猫は両手を振り抗議の声を上げる。その姿は猫らしく……はないな。猫じゃらしには反応するのかな。

「先生がいないから妖に襲われたんだ。ツナは先生の代わりに俺を助けてくれたんだぞ。酒くらい分けてくれても良いじゃないか」
「何故そうなる!貴様が襲われたのは貴様が貧弱だからだ!」

夏目は引き下がらないが、猫も引き下がらない。
仲良いなぁ、と思いながら、俺は二人の前に胡座をかいて座って眺めている。
彼等はどんな関係なんだろう。人間と妖怪。この猫が夏目の式と言う可能性は、会った瞬間消えた。夏目には悪いが、この猫は今の夏目が式に出来るほど簡単な妖怪には思えない。猫の気紛れ?利害関係の一致?問うたら答えてくれるのだろうか。

「分かった、こうしよう。夏目、お前は私達に酒のつまみを持ってこい。私は酒を用意する」
「何でつまみが……」
「元はと言えば貴様が妖なんぞに襲われたからだろうが!それぐらいして当然だ!」
「んー、それもそうだな。塔子さんに何かないか訊いてくるよ」

夏目はそう言って立ち上がり、部屋から出て行く。猫はその背中に上物を持ってこい、と言うが、夏目ははいはい、と意にも介さない。

部屋に残るは猫と俺。さぁ、ここからが問題だ。
探りを入れてくるか、知らないフリをしてこのまま話をするか――それはないな。いきなり戦闘突入も止めて欲しい。

「貴様、人間だな」

答えは直球ど真ん中。

「正解。お前は『斑』だろ?」

そのまま打ち返す。しかし、狙い通りとはいかなかった。猫は少し目を細めただけだ。
夏目の用心棒の事は簡単に分かった。夏目が登校し、下校するまでの間に何体かの妖怪に訊いただけだ。夏目の用心棒を知っているか、と。ここいらの妖怪の間では彼等は結構有名らしい。

「……何をしに来た」
「そんな警戒しないでくれ。此処に来たのは偶然なんだ」

術に失敗してね。飛ばされちゃった。
笑いながら言っても信じてもらえないらしい。猫の顔は渋いままだ。

「祓い屋か」
「また正解。てか、術って言ったらそう思うか」

猫は目をさらに細くし睨んでくる。これは逃亡を視野に入れた方がいいかもしれない。予想以上に警戒心が高い。
目的が分からないから当然か。自分で言うのもなんだが、怪しいよな、俺。

「……さっさと己の身体に帰れ」
「帰ったら怒られる。どうせ怒られるんならサボりを満喫したいんだ」

面白そうな子を見付けたし、と言う言葉は飲み込んだ。それを言ったら警戒じゃ済まなそうだ。

「バレたら困る秘密でもあるのかい?」

猫から殺気に似た妖力が迸(ほとばし)る。しまった、地雷を踏んだか?

「本当に此処にいるのに大した意味はないんだけどなぁ」
「信じられんな。人間はすぐに嘘を付く」
「妖怪だって嘘を付くだろう。何も変わらないじゃないか」

猫は細めていた目を少し開いて俺を見た。妖力も散った。
……あれ、何か不味いこと言ったのかな?何か驚いてるんですけど。

「貴様は……変な人間だな。妖と人間が同じなどと」
「ああ、それか。あー…うち、式使う人多いからなぁ。その辺の感覚曖昧な所あるから」

幼い頃から妖怪は見えていたし、身近にもいた。祖父は祓い屋で、一門の頭首だったから周りにはピンからキリまでの祓い屋がいた。
今も昔も知り合いは一般人よりも祓い屋の方が多いかもしれない。見習いの祓い屋から、お前もう人間止めろよ!と言いたくなる祓い屋まで。そんな交友関係だから、妖怪の知り合いも沢山いるのだ。

「問答無用妖怪即退治って考えには納得出来ないし、変って言えば変な人間かね」
「……ふん」

猫は何も言ってこない。警戒を解いた感じはないが、殺気も復活しない。

「先生、ツナ。チーズとかならあったぞ」

夏目が手につまみを持って入ってきた。だが、このまま二人で酒を飲み交わす雰囲気ではないだろう。

「夏目、悪いけど俺はこれで……」
「飲んで行くが良い」

猫は立ち上がろうとした俺を止める様に口を開いた。

「……良いのか?」
「二度は言わん」
「なら、喜んで」



二人でそんなに話はしなかったけど、結構楽しかった。
だけど、酒瓶のラッパ飲みは止めた方が良いよ、ニャンコ先生。







**********

ニャンコ先生登場。

ツナの一門の名前は何でしょう。予想できるだろうけどまだ言わない。でも多分すぐ出る。

次は希望が多い、一話で話題に上がっていた会合でも書こうかな。
でも口調が分からないよ!単行本持ってないんだ!



20120405



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