友人アサリ お陰で助かった 2/5
「昨日はありがとう」
随分深く寝入っていたらしい。声を掛けられるまでその少年の接近に気付かなかった。
「お陰で助かった」
目を開ければ、其処には予想したとおり『夏目』少年が立っている。
制服姿に通学バック。日の昇り具合から考えて、登校中らしい。……当たり前か、彼は高校生なのだから。
「気にしないで良いよ。気紛れだから」
昨日のお礼を言うためにわざわざ妖怪だと思っているモノに声を掛けるとは、思っていたよりも律儀な子だ。
「昨日の一つ目は、どうしたんだ?」
『夏目』少年は隣に座った。時間は大丈夫なのだろうか。
「その辺に伸びていなきゃ、回復して寝床に帰ったんだろう」
昨日放っておいた場所を見てみれば一つ目の姿はない。低級妖怪だったが、幽体の俺の一蹴りくらいじゃ流石に滅せないか。鈍ってるな、俺。
「心配か?」
「そりゃぁ……いや、そんなことはないけど……ちょっと気になっただけだ」
この少年は律儀なだけではなく優しいらしい。自分を襲った妖怪の心配までしている。
「『夏目』は優しいなぁ」
「!……俺のこと知っているのか?友人帳の事も?」
昨日妖怪や友人達が呼んでいたから知っているだけなのだが…それにしても友人帳とは何のこと何だろうか?取り敢えず、警戒はされたくないのでこの誤解は解こう。
「呼ばれていただろう?君のことは知らないよ」
「そうか……お前の名前は何て言うんだ?」
此処で漸く名前を尋ねてきたか。だが、考えてみれば昨日は訊く余裕なんてモノはなかったから仕方ないのだろう。
「そうだなぁ……『ツナ』と呼んでくれ」
「本名じゃないのか……?」
「すまないけど、真名を名乗るほどは信用してないんだ」
「まな?よく分からないけど……そんなものか」
「そんなものだ。『ツナ』は仲間によく呼ばれている呼び名だから俺も違和感ないし」
そうか、と夏目は納得した様だ。……本当に理解したのだろうか。名前が重要な物だと言うのは感覚で分かりそうだが、持っている妖力に合わず、知識はないらしい。
「ツナは此処で何をしているんだ?」
「サボり」
「サボっ……へ?」
「ちょっと手違いで此処にいるんだけど、仲間の元に戻っても大変だからサボってるんだ」
「……仲間の妖は心配してるんじゃないのか?」
仲間が心配……右腕の彼は魂が何処か行っている身体を見て悲鳴を上げているかな。ヒットマンの黒い彼奴は服に合った黒い笑みを浮かべて仕事道具の愛銃を磨いているのが目に浮かぶ。幻術が得意な青年は不必要に仕事を増やされて三叉の槍を研いでいるだろうか。牛柄の子供はそれらの雰囲気に涙目だろう。
結論から言えば。
「心配してないな。皆薄情だ」
遠くを見て言う俺に夏目は何かを感じ取ったのだろう。ぽん、と肩を叩いてくれた。
「俺と同じくらいに見えるのに、苦労しているんだな」
ここで夏目の発言に注目。俺と『同じ』くらい。そう、俺は少しばかり若返ってしまっている。幽体離脱が失敗した時に妖力の分散の影響だろうか。今の俺の姿は夏目と同じ年頃の少年だ。はは、知り合いに会ったら何と言われるだろうか。
「見掛けと歳は比例しないよ」
「あ、そうか。妖はそうだったな」
夏目はごめんと軽く謝った。……どうしよう、妖怪じゃないって言いにくくなってしまっていく。まぁ、自分から己は妖怪だと言ってないから、嘘は言ってない。本当のことを言っていないだけで。
「ツナはまだ此処にいるのか?」
「んー、一週間くらいはのんびりしてるつもり」
夏目はそうか、と再び頷いた。
「なら、また今度お礼をさせてくれ」
「良い酒が欲しいな」
ちょっとした意地悪のつもりで言ったのだが、予想外にも夏目は苦笑して頷いた。
「先生に頼んでみるよ」
「ん?師匠がいるのかい?」
それなのに知識がないのかとも思ったが、どうやら祓いなどの先生ではなく用心棒だと言う。……用心棒ならなぜこの場にいないとツッコミたい。
「それじゃ、また此処で会えるか?」
「ああ。その先生と言うのを楽しみにしているよ」
夏目から匂う妖怪の気配は強いモノだ。夏目自身も強いが、その先生も侮れないのは間違いない。
……会った瞬間攻撃されたらどうしよう。幽体じゃ二割くらいしか力出せないんだけど、やられたら洒落になんない。
夏目は学校に行かないと、と言い背を向け河原を去った。
ま、どうにかなるだろうと楽観視し、俺はまた寝っ転がった。昼寝、サイコー。
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幼くなったツナさん、って良いよねっていう私の趣味。
本体のツナさんは的場さんくらいを想定して下さい。
次はニャンコ先生登場予定。
20120321
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