無色アサリ 情報屋とお茶しちゃった     5/5
 


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「いやぁ、お久しぶりです、沢田先生。お元気そうで何よりですよ」
「折原も相変わらずだな」

男達は喫茶店で話し込んでいた。
一人は逆立つ茶髪を持つ男、沢田綱吉である。彼は湯気が立つコーヒーにミルクと角砂糖を入れて掻き混ぜている
そして向かいに座るは黒髪黒目の眉目秀麗の美男子だった。彼の名は折原臨也。池袋では知る人ぞ知る有名人である。
しかし、いつもの臨也とは違うことがある。それは店内なのを差し引いても、いつも身に付けているファーコートを脱ぎ、頭にタオルを置いていることだ。そう、臨也はびしょぬれのコートを脱いで乾かしており、タオルで髪を拭いているのだ。

「相変わらずなのは沢田先生でしょう。俺とシズちゃんに水風船を投げ付ける人は、今も昔も先生だけですよ。投げ付けるのも、命中することも出来るのもね」
「そうか?意外といけるもんだぞ?」

臨也は目の前に置かれている自分のコーヒーを飲んだ。運ばれてきたばかりの彼のコーヒーはまだ温かく、綱吉による水風船の攻撃によって冷えた身体には有り難かった。

「普通当てられませんって。第一、俺とシズちゃんの喧嘩に割って入ろうって奴は、今ではサイモンくらいですしね」
「サイモン……嗚呼、露西亜寿司の人か」
「会ったことありますか?」
「この間食べに行った。美味しい店だな」

僕も彼処の店の大トロ好きですよ。
臨也は優雅に笑い、カップをテーブルに戻した。頭に置いたままにしておいたタオルも取り、畳んで自分の座っているソファの横に置く。どうやら粗方拭き終わったらしい。

「そう言えば、沢田先生」
「ん?どうした、折原」

綱吉はミルクと角砂糖を入れたコーヒーを啜った。



「ボンゴレって知ってますか?」



綱吉はコーヒーを飲んで、それをそっと置いた。顔に不自然な点はない。

「なんだ、折原。ボンゴレパスタが食べたいのか?注文しても良いぞ。奢ってやる」

綱吉は笑顔で言ってのける。しかし、臨也はそれ以上に笑顔だった。

「いやいや、そのボンゴレじゃないですよ」

臨也は笑顔を崩すことなく、掛けているソファに寄り掛かった。

「イタリアにある大マフィアの名前です」
「へぇ、ユーモアな名前だな」
「そうですね」

店内には客はいた。家族連れからカップル、一人で来ている者まで様々だ。二人の姿はそれに紛れていて、目立つ風ではない。この会話を聞いている者もいない。

「そうだ。聞いた話なんですけど、沢田先生」

臨也は頭を右に少し傾けた。

「先生、イタリアにいたらしいですね」

綱吉も笑顔を崩さないまま、少し驚いた風を見せた。

「お、よく知ってるな。そうだよ。イタリアはピザやパスタが美味しいし、景色も綺麗だったけど、やっぱり住み慣れた日本が一番だな」

そして、綱吉も臨也と同じように顔を右に傾げた。

「それで、それがどうした?」

綱吉は笑顔のまま言った。

「いえいえ、大した意味は持っていませんよ」
「そうか?」
「はい。何でも、イタリアの大マフィアであるボンゴレと、新興マフィアがちょっと敵対し始めたって話を聞いたのを思い出しただけです。何か知ってますか?」
「そんなマフィアとただの公務員の教師である俺が関係あるわけないだろう」
「そうですよね。気にしないで下さい」

臨也はコーヒーを少し飲む。時間が経って、コーヒーは少し温くなっていた。

「来良学園に赴任されるんですよね?」
「おう。お前達の母校だよ」
「懐かしいですね。今、妹達が通っているんですよ」
「そうなのか?」
「はい。だから、何かあったら宜しくお願いします」

何かあったら、な。
綱吉はそう言い、席を立つ。彼のコーヒーはすでに飲み終わっていた。

「今日はこれから用事があるんだ。また今度な」
「はい。今度は食事でもどうですか?」
「お前に言われるとナンパされているみたいだ」
「そうですか?他意はないんですが」

綱吉は苦笑し、明細を持って臨也に背を向けて立ち去る。臨也の分のコーヒーも払う気の様だ。臨也はそれに何も言わずに彼を見送る。





臨也はそのまま残り、コーヒーを最後まで飲む。もうコーヒーは冷たくなっていた。



ピピピピピピ



携帯音が鳴り響く。臨也は横に置いてあるコートのポケットから携帯電話を取り出し、耳に当てる。

「もしもし。――はい、はい。……はは、そうですね。彼は全く変わっていませんでしたよ。はい」

その会話は、和やかでさえあった。そして暫く電話の相手と会話をし――。
臨也は妖艶に微笑んだ。

「はい。それでは、また。白蘭さん」

臨也は相手が電話を切るのを待ってから、電話を切った。

臨也の会話を聞いている者はいなかった。





喫茶店を出て綱吉は暫く一人で歩いた。
そして喫茶店が見えなくなった所で、綱吉は頭を強く掻いた。

「ったく。やりにくい奴になりやがって」

綱吉は大きな溜め息をつく。
綱吉の言葉を聞いている者はいなかった。







**********

シズちゃんは仕事に戻りました。

昔の臨也の印象→生意気な可愛い問題児生徒
今の臨也の印象→生意気な可愛くない問題児生徒

五年で臨也は成長しましたとさ。
きっと二人は笑顔で腹の探り合いをするよ!二人とも腹の内は見せないで、端から見ると仲良いように見えるよ!



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