第五話
「何者ッスか、アンタ!」
新しく現れた者達の一人が銃を向けてくる。
女性だが、素人ではないのは構えを見れば分かる。腰に差している刀に手を掛けている者達も、戦を知っている者だろう。
さて、此処で僕が注目するのは、彼等の服装と、彼等の多くが刀を腰に差していると言う点だ。
今時、刀?趣味で持っているにしては人数が多すぎるし、そしてそれを使い慣れている様だし、何より、日本はその様な事を法で禁じている。
(これは……もしかして僕は、面倒事に巻き込まれているのではないでしょうか?)
六度の人生の間に、面倒事に巻き込まれたのは一度や二度ではない。面倒事を自分で引き起こしたこともある。
だが、今回は引き起こした覚えはないので巻き込まれた方だろう。全く、困った物だ。こういう事は憎きマフィアにでも降り掛かれば良い物を。
「……質問に答えるッス!無視するなッス!」
女性は銃を構えたまま再び叫ぶ。
それにしても、二丁拳銃か。両手で別々の銃を扱うというのは、思っている以上に難しい物だ。扱えるのは紙の上の人間だけだと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。
「ああ、申し訳ありません。少々考え事をしていたもので」
さて、このまま黙っていても仕方がない。
「僕の名前は六道骸と申します」
「六道……骸?随分と変な名前ッスね。偽名ッスか?」
「いえいえ。本名ですよ」
この者達を相手にせずに、周りに倒れている輩の様に幻覚で気絶させるのも良いが、流石にそれは不味いだろう。いい加減情報が欲しい。この者達から細かいことを聞き出すか。
(全員はいりませんね…誰か手頃なのを残して、後は……)
そう思って三叉の槍を両手に持った時だった。
コツ コツ コツ
「お前、良い眼をしてるな」
足音が船上に響いた。寄せられている船の上から、一人の男が此方の船に下りてくる。
女物の着物を身に付け、腰には刀を差し、右手では煙管を吹かす。そして、左目は包帯に覆われていて見ることは出来ない。
だが、自分を見る右目は――。
笑みを押さえることが出来なかった。
「貴方も、良い具合に闇を宿している瞳をしていますね」
隻眼の男が歩く道を、船上の彼等は黙って空けた。其処から察するに、この男はこの集団で一定以上の権力があるのだろう。もしかしたら頭かもしれない。
「名前を伺っても?」
「高杉晋助だ。この鬼兵隊を率いている」
雲に覆われていた月が晴れていき、月明かりが強くなる。そして、漸く互いの顔がはっきりと見える様になっていった。
「あ?その顔…お前…」
高杉と名乗った男は、自分の顔を見て目を僅かに見開いた。どうしたと言うのだろうか。この右目を見て、嫌悪しているのだろうか。だが、その様な男には見えなかった。
「くくっ…そうか…なるほどな…」
そして高杉は、何かに納得したかの様に笑う。
「……どうしたのですか?僕の顔に何か?」
「いや、ちょっとな。昔を思い出していただけさ」
高杉は笑みを深くした。
「六道骸。何をそんなに憎んでいるのか知らねぇが――」
そして、煙管を持っていない左手を此方に伸ばす。
「行く当てなんざねぇだろう。俺と来ねぇか」
後ろに控えている者達が驚愕の声を上げる。
「ちょっ、晋助様!?」
「晋助、それはいきなりではござらんか?」
だが、高杉はそれに気も止めない。嬉々とした笑みで右手を伸ばしている。
ふむ、面倒事だが、面白い事にもなってきている様だ。
「そうですね…貴方は何か知っているようですし…」
何より、この男の眼は嫌いじゃない。
「良いでしょう。取り敢えず、暫くはご一緒しましょう」
僕は鬼の頭の手を取った。
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