第三話
 




「異世界転送装置でこの世界に送られてきた…ね」
「はい…そうです…」

廃墟の屋上で沢田綱吉は正座の状態でいた。別に何を言われたということはない。自発的にその体勢になったのだ。

――だって怖いんだもん。

目の前に佇むは最凶の風紀委員長の雲雀恭弥。彼は片膝を立てて座り、優雅に頬杖を付きながら綱吉の話を聞いている。

綱吉は桂から子供の特徴を聞いてから、予想が外れているのを祈る願望二割、彼本人だろうと言う確信八割で捜索して、すぐに雲雀は見付かった。
予想が外れていて欲しかった。彼の様な人間が複数いるのも嫌だが、彼本人がこの世界に来るよりもマシな気がしていたのだ。
綱吉は異世界転送装置と言う衝撃的な話をしたのにも関わらず、薄いリアクションしかしない雲雀の顔を見ることが出来なかった。

「確か、九月だったかな」
「……へ?」

雲雀の唐突な言葉に、綱吉は間抜けな声を上げた。

「六道骸の襲撃があったのは」
「……ああ、たぶん。そうだと、思います」

そう言えば、雲雀と応接室で初めて出会ったのも九月だった。その翌年の九月には骸の襲撃。九月は波瀾万丈の月なのかもしれない。
考えてみると、雲雀との付き合いも一年以上になるのか。よく生き残っているな、自分。

「……君、失礼なこと考えてない?」
「いえ!そんなことはありません!」

この人の野生の勘は超直感並だ!

「……それから十月にはリングがどうとかいう争いを並中でやって。それが終わったら君達が行方不明になったかと思ったら、未来へと飛ばされた。それが終わって帰ってきたかと思えば次は山本武が死にかけ、過去の亡霊と戦う」

雲雀は一つ一つ確認する様に言う。
ヴァリアーとのリング争奪戦。白蘭との未来での闘い。デイモンを黒幕としたシモンとの死闘。
どれも辛かった。そして、それには雲雀も前線で参戦していた。と言うか、させられていたと言った方が良いかもしれない。シモンでの闘いは兎も角、ヴァリアーや未来での闘いは強制参加だったのだから。

「それで今度は異世界か」

雲雀は呆れた顔で溜め息を付く。

「君、お祓いしたら?いい寺紹介するよ?」
「雲雀さんが優しい!?」

それほどまでに俺の運気はないのだろうか否定できないのが悲しい事実!

「君は本当に厄介事ばかりを引き寄せるね。何か憑いているんじゃない?そう言えば未来で何か金髪の男と話していなかったっけ?」
「ああ、あれもある意味幽霊みたいなものなんでしょうか……」

助けてもらっといて何だが、プリーモの姿が出て来たときは驚いたものだ。幽霊と言われたら、どうでしょう、と曖昧な言葉でしか答えられない。

「で?帰る方法は?」
「……すみません、分かりません」

綱吉は項垂れた。トンファーが飛んできたらどうしよう。死んじゃうかな。ああ、短い人生だった。
だが、予想に反してトンファーは飛んでこなく、代わりに雲雀は再びの溜め息を付いた。

「……ま、良いけどね。君に其処までの期待はしていない」

……良かった様な悔しい様な。期待をされていても困るが、褒められている訳でもないので苦笑で返す。

「……雲雀さんはこれからどうしますか?」

どうやらこの廃墟を中心に活動をしていた様だが、ずっとそのままと言うわけにはいかない。

「それは俺がどうにかしよう」

いきなり現れた第三者の声。綱吉と雲雀は扉の方向に顔を向けた。
扉の前には、綱吉と雲雀が話をしていた時もずっと立ちっぱなしでいたペンギン――エリザベスがいる。そして後ろから現れたのは――。

「君達にとっては異世界のことだ。何かと不便だろう。住居などは此方が用意しよう」

第三者は桂だった。彼は真面目そうに何度も頷く。

「何、気にする必要はない。不安なことも多かろうが此処は俺に任せて…」
「嫌だ」

桂の言葉を遮り、雲雀はきっぱりと宣言する。

「……何?」
「どうして僕が誰かの恩恵を受けなければならない。必要を感じないね」
「だが、住む場所もなしに……」
「それはすでに手を打った」

雲雀の言葉とほぼ同時に、再び扉が開き、来客を迎え入れる。

「い、委員長様ぁぁぁ!宿の確保を致しました!」

顔に殴られた痕がある男が涙目で高らかに言う。雲雀はそれに、そう、とだけ言い、綱吉の隣を通り過ぎる。

「それじゃ、僕は行くよ」
「え、あ、はい……」

桂はぽかーんとしており、雲雀が去るのを黙って見送った。残るは、苦笑いをする綱吉と、呆けている桂だけだ。

「……ふむ」

雲雀が去り、数秒。桂は気を取り直した様に頷いた。

「異世界に来ても取り乱すことはなく、ゴロツキを倒し、舎弟を増やす。情報収集などを組織でやることにより、効率を上げる。只の子供ではないな」
「……雲雀さんですから」

綱吉はそう言うしかなかった。





かぶき町のとある宿屋。其処に一人の少年が滞在している。
彼の元を訪れるのは部下となったゴロツキや、僧に扮した指名手配犯。どちらも情報を伴ってやってくる。
彼もまた、仮初めのかぶき町の住人となった。







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