第二話
「……暇だね」
少年は欠伸を一つ漏らす。
黒髪黒目の学ランを羽織った少年。彼は町外れの廃墟の屋上で横になっていた。
「ミードーリタナービクー」
「だから、此処は並盛じゃないよ」
少年の頭には黄色い小鳥が止まり、歌を奏でる。鳥とは思えないほどの腕前だが、少年は驚いた節もなくそれに軽い反応を返した。
「全く……時間が掛かりすぎだよ」
少年は懐から紙切れを一枚取り出した。それには短い文が幾つか書いてある。それはメモだ。
「江戸……ね」
少年の名は雲雀恭弥。ボンゴレ守護者で最強を謳われる並盛中学校風紀委員長である。
「…………」
雲雀は興味なさげにそれを眺めた後、流れる様な手付きでそれをまた懐に戻す。
雲雀がこの世界に来て三日が経っていた。しかし、それで手に入れた情報はそれ程多いと言えなかった。
雲雀は此処が彼のいた世界でないことは気付いていた。また、三日もあれば雲雀も幾らかの対応もしていた。
その一つが――。
「い、委員長様!」
屋上への唯一の入り口の扉から、男が一人入ってきた。男には顔に殴られた痕があり、冷や汗が浮かんでいる。
彼は怖れているのだ。目の前の、自分よりも年下の少年を。
「情報は?」
「は、はい!」
男は背筋を伸ばし、震える声で言った。
「ど、どうやら幕府の倉庫から何か重要な物が盗まれたらしいとの情報が……」
「ふーん……それが最近の変わったこと?」
「はいィィィィィ!」
雲雀は身を起こす。頭に乗っていた小鳥は其処から飛び、肩に移る。
「……まぁ、良いか。もう行って良いよ。次、銃刀法違反していたら二度と立ち上がれないほど咬み殺すから」
「し、失礼しまぁぁぁぁぁす!」
男は恐怖で顔を歪めながら屋上の階段を駆け下り、その場を去る。彼が雲雀の前に姿を現すことは二度とないだろう。
情報はそれなりに集まった――集めたのは雲雀本人ではなく、彼に咬み殺された者達だが。
さて、これからどうしたものか。
雲雀は空を眺める。それは元の世界と変わらない様に見えるが、そうではない。
此処は彼の愛する街ではない。
「……それで」
雲雀はトンファーを取りだした。
「其処にいるのは誰だい?」
雲雀は開かれたままの扉を睨み付け、殺気を飛ばす。空気が一気に張り詰める。
「出てこないのなら、こっちから行くよ?」
雲雀は顔に好戦的な笑みを浮かべる。そして立ち上がり、身体を扉に向ける。
「さぁ、どうする?」
雲雀が一歩進む。其処に迷いはない。もうすでに臨戦態勢に入っている。
そして雲雀が二歩目を踏み出したとき、反応があった。
ギィィィ――
扉が開く。風の仕業ではない。誰かが中から出て来たのだ。
そして屋上に現れたのは――。
「…………ペンギン?」
白い、布の様な身体。黄色いクチバシ。何処を見詰めているか分からない黒い瞳。
コレを人類のカテゴリーに当て嵌める器量を雲雀は持ち合わせている気はない。と言うかコレは生物なのだろうか。
この世界には天人と言われる地球外生命体がいることはすでに分かっているし、街を探索したときに目撃をしている。
コレもその天人の一種なのだろうか。
まぁ、正体も目的も分からないが、取り敢えず――。
「咬み殺すか」
雲雀はトンファーを構えた。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ雲雀さん!」
ペンギンの後ろから現れたのは見知った顔だった。
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