第一話
 

月が僅かに欠ける闇夜。人の気配は薄く、出歩く者の影は見えない。
そんな夜の路地裏で、それは起こっていた。

「うっ……」
「く…そ…」

地面に倒れ付し、呻く男。それも一人や二人ではない。路地裏一帯に十人程の男達が傷付きながら倒れている。

男達の共通点は二つ。
この廃刀令の御時世に、腰に刀を差していること。――最も、その刀はことごとく折られ、只の鉄屑と化して男達の傍らに転がっているが。
そして二つ目の共通点。
それは、男達の傷が、鈍器で殴られた類の物だと言うことだ。

「……ふん」

倒れ付している男達の中で、一人、無傷で立っている影があった。

「弱い者ほど群れを成す」

影はまだ子供だった。
漆黒の髪に黒真珠の瞳。
身に纏う闇夜に融ける学ランの左腕には、風紀の二文字が光る。
そして、両手には返り血の付いた銀色のトンファー。

「銃刀法違反者が、鼠の様に裏でこそこそしているから何かと思えば…。群れるな」

影は身を翻す。

「咬み殺すよ」

其処は、雲の独壇場だった。





「――と、言うわけだ、銀時」
「ガキ一人に攘夷浪士十人がねぇ……」

場所は昼間の万事屋。
欠伸をしながら興味なさそうに話を聞いていた銀時の前には、長髪の男が神妙な顔をして座っている。
男の名は桂小太郎。テロリストである。

「テロリストではない、桂だ」
「はた迷惑な天然バカなヅラである」
「はた迷惑な天然バカなヅラじゃない、桂だ」

いつものやり取りをした後、真面目な顔のまま桂は話を戻した。

「仲間が十人一度に重傷を負ってしまってな。綱吉君の同郷捜しに割ける人数が大分減ってしまったのを伝えておこうかと思い、参った次第だ」

桂はそこで話を区切り、出されている茶に手を伸ばす。

「ガキにやられるなんざ、そいつ等も転職考えた方がいいんじゃねぇ?」
「返す言葉もないな」

桂は湯飲みを音も立てずに置き、再び溜め息を付く。どうやらいつも以上に参っている様だ。無理もない。真選組相手なら兎も角、十人を相手にした者は子供だったと言うのだから。
最も、桂の前で聞いている銀時は興味無さげに頬杖を付いているが。

台所から御盆の上に桂が持ってきた銅鑼焼きを乗せた新八が出てくる。その後ろからは用意を手伝った綱吉と、すでに食べ掛けの銅鑼焼きを持った神楽も続く。
彼等三人も席に座り、銀時と桂の話に加わる。

「でも、子供が大人十人を相手にして勝つなんて、夢みたいな話ですね」
「私もそれくらい出来るアルよ?」
「いや、神楽ちゃんは別だから…」

新八は苦笑いを返す。
例えば、自分だったらまず勝つのは難しいだろう。袋叩きにされるのが目に見えている。しかし、それは決して新八が弱いからではない。それが普通なのだ。
ただ、その子供が強者であると言うだけだ。

「ああ、そうだ。そんな子供が彷徨いているのだ。銀時は兎も角、女子供は夜の外出は控え、そのような子供には近付かない様に。人気がない所にも行くな」
「俺は良いのかよ。っつーか、そのガキの特徴とかはねぇのかよ。じゃねぇと避ける事も出来ねぇぞ」
「それもそうだな」

桂は腕を組み、遭遇した仲間が目覚めた時に聞いたその子供の特徴を口にした。



「何でも、黒髪黒目の学ランを着た少年で、左腕には風紀と書いた腕章をしており、トンファーで戦って、群れるな、咬み殺すと言っていたらしい」



綱吉は手に持っていた銅鑼焼きを落とした。






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