訓練とペナルティ
 


「死ねェェェェェ!」
「お前が死ねェェェェェ!」

拳と拳が交差する。それは吸い込まれるように男たちの顔面にめり込んだ。しかし、彼等はそんなものでは倒れない。

「うりゃぁぁぁぁぁ!」
「くたばりやがれぇぇぇぇぇ!」

再び繰り出される全身全霊を賭けた拳は、決して軽いものではない。その証拠でもあるように、彼等の顔は既に血みどろだ。

「いけぇぇぇ!」
「踏ん張りやがれ!」

男同士の殴り合いの周りでは、観戦している者たちが言葉を飛ばす。
それを見て、十一番隊五席は呟いた。

「美しくない」

その日は、十一番隊の白打――体術の全体訓練だった。





「そこまで!勝者、柳田!」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
「救護係は二人に手当な。あ、氷足りなくなりそうだから誰か貰って来て」

審判として手際よく訓練を進めるのは十一番隊四席、沢田綱吉だ。
其処から離れた壁際の所に座り、試合を眺めている人物が二人。

「もっと美しく戦えないものかね」
「何言ってやがる。殴り合いだぞ。しかも『ペナルティ』も付く」

弓親と一角は次々と外に運ばれていく敗者を眺める。

「今の隊士の『ペナルティ』って『一ヶ月のトイレ掃除』だっけ?」
「その前の奴は『一週間の道場掃除』だったか」

十一番隊にある道場で行われている訓練。
中では殴り合いという名の訓練と、その見取り稽古という名の観戦。外では怪我人が転がされていて、一時間毎に交代の救護係が応急処置。
半年毎に行われるそれは、血気盛んな十一番隊では一種のお祭り騒ぎだった。しかも、今回は少々趣向が凝らしてある。

「はい、それじゃ、次は、白木、楠田!」
「はい!」
「よっしゃぁ!」
「んじゃ、白木はこっちの、楠田はこっちのクジな」

綱吉は赤と白の箱を二人に差し出す。箱の上面には直径十cmの丸型の穴が空いており、二人はそれに迷わず腕を通し、中に入っていた複数の紙の内の一枚を取り出す。

「『膝をついたら負け』」
「『一日副隊長のおもちゃ』」
「うわ、またキツイの引いたな……」
「楠田空気読め!」

赤い箱と白い箱。各隊士が引くのは、二種類のクジだ。
赤い箱には勝敗について。これは『審判の判断で』『どちらかが気絶するまで』などが主だが、中には『審判の判断で。右手を使っても負け』など、制限が掛かる内容も含まれている。
そして隊士の注目となっているのは白い箱。『ペナルティ』のクジである。負けたらペナルティ。拒否する事は出来ない。皆、これが嫌で本気になっている部分もある。

「それじゃ、白木、楠田。始めっ!」

こうして、今回から導入されたクジ制度(発案者は桜色の髪をしている副隊長とノリノリになった四席である)により、今回の十一番隊全体訓練は嘗てないほど白熱しているのである。





「そこまで!勝者、綾瀬川!」
「ま、当然だよね」
「お疲れ様、弓親」

弓親は汗を全くかいていない涼しい顔をして前髪をさらりと整えた。そんな彼にそれまで審判を勤めていた綱吉は労りの言葉を掛ける。
訓練も終盤に差し掛かり、多くが何処かしら怪我を負っている道場内。まだ名を呼ばれていないのは限られていた。

「さて、それじゃ、弓親。次の審判頼む」
「了解」

それまでの隊士に掛けられていなかった労りの言葉で察していたのだろう。弓親は驚く事なくそれを了承する。
綱吉から対戦表を受け取る。次の対戦は、予想通りの組み合わせだった。

「次!沢田、斑目!前へ!」

一瞬の間の後、場が一気に盛り上がる。

「待ってました!」
「一角さん、やったれぇぇぇ!」
「綱吉四席ぶちかませ!」

周りから飛ぶヤジ。彼等の興奮が分かる。
片や、十一番隊が誇る切り込み隊長(実際の一番槍は文字通り隊長である剣八だろうが)である三席。片や、十一番隊どころか二番隊の猛者にも引けを取らない白打の使い手である五席。
どちらも上位席官に相応しい戦闘能力を持っている。今までよりも洗練されたというのは難しいが(特に三席のは自己流の色が強い)、一段とレベルが高い白打での戦闘が見られるだろう。

「さて、それじゃクジを……」
「待って、弓親」
「?」
「んだぁ、綱吉。怖気付いたか?」
「んなわけないだろ。一角。提案だ」

綱吉は懐から一枚のクジを取り出した。それは現在使用しているクジの紙と形状が同じだ。

「此処に、とある『ペナルティ』が書かれたクジがある。これを無条件で俺等の『ペナルティ』くれたら、戦闘条件を一角、お前が決めて良い」
「へぇ。何でも良いのかよ?」
「良いよ」

綱吉は即答した。それほど、あの『ペナルティ』にしたいらしい。

「ちょっと待ってよ。一応ルールに従って今までの隊士もやってきたんだから、それは……」
「『得物有りの外での戦闘』」
「ちょ、一角。これ、一応白打の訓練って名目なんだけど」
「んだよ。良いじゃねぇかよ」
「大規模な訓練には一番隊からの許可、及び報告が必要なんだ。それで問題があったら始末書を書く羽目になる」

ただでさえ多い仕事を増やすな。弓親は言外にそう言っている。
弓親も、可能ならば武器ありで彼等の戦いを見たい。一見そうは見えなくとも彼だって十一番隊だ。強敵との戦闘は心躍るし、それを見るのも楽しい。二人が戦うなら最善の状態で戦っているのを見たい。
しかし、書類が増えるのは勘弁だ。只でさえ今日の分の書類が溜まっているのに。

「ちっ。んじゃ、せめて外だ、外」
「俺、野外の方が強いけど良いの?一角勝ち目無いじゃん」
「上等だ……てめぇの細腕が暫く筆を持てないようにしてやる」

相変わらず、一角を挑発するの好きだなぁ。
弓親は溜め息を一つついて、周りを囲んでいる隊士に出口を開けるように目配せする。出口付近の隊士はそれを察していたのか、直様開け、他の隊士も二人が通る道を開ける。

「で、『ペナルティ』は?」

外で休んでいた負傷者も端に避けて、戦える場を作った。
一角は肩を回しながら好戦的な笑みを浮かべる。早く戦いたくて仕方がないという風だ。

綱吉は手に持っている紙をペラリと広げた。

「『一週間、執務室にカンヅメ』」

アングリと口を一番に開けていたのは対戦相手である一角だ。呆れ顔をしているのは弓親。内心では「あー…なるほど。頑張れ」と、綱吉を応援しているが。

「てめぇ……んな事の為に……」
「んな事?」

綱吉は紙を弓親に渡して一角から間合いを取る。

「それはこっちの台詞だ。よく、んな事言えたな」

構えを取る。審判である弓親の合図で、何時でも試合を開始出来る。

「陽の光を背に誤字を確認し。夕陽と共に判子を押し。書類を相手に一夜を過ごし」

綱吉はニッコリと笑みを浮かべた。

「てめぇも味わってみやがれ」



(((((怒ってるよ、沢田四席)))))



周りが思っているよりもよっぽど頭に来ていた綱吉がいた。





本日も美しくない全体訓練が終わった。
でも、一角と綱吉の試合は見ていて楽しかったよ。一角に言わせれば血が騒ぐって奴だね。
道場は修理が必要になるは、観戦していた隊士がその空気に当てられて其処らで喧嘩を始めるは、隊長が乱入するは、庭は半壊するは。結局書かないとならない書類が増えた。
でも、一週間人手が増えるし良しとしようか。





**********

『とりあえずギャグ』
『黒ツナと一角の絡み』
でした。

十一番隊はこういう祭騒ぎじみた訓練やってくれてると楽しい。私が。
恋次もいますが、省略。特に見せ場もないので。でもきっと彼は勝った。

黒色アサリの綱吉は、若干(?)一角を目の敵にしている節があったりなかったり。
たまにそれを爆発させて殴り合い。
でもその日の夜には弓親も合わせて酒飲み合ってるんだね。

リクエストありがとうございました!



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