物語開始後の何時かの宿屋
 



*ノイルがPMと合流しています。





「ナタリアとヴァージンロードを歩くのは俺だ」

彼の発言は常に唐突である。
昔からそうだった。彼の気紛れや計画的な犯行により、一番被害というか共犯者にされていたヴァンを身近に見ていたので彼の唐突さは分かる。しかし彼等は、ヴァンが溜息を吐いて巻き込まれながらも、端から見たら悪友同士以外の何者でもなかった。

「お兄様、どうなさいましたの?」
「ああ、つい口に出していたか」

はた迷惑な常識人――ノイル・ルツ・キムラスカ・ランバルディアは読んでいた本をぱたりと閉じて愛しい妹に身体を向けた。
宿屋での、ロビーでの和やかな時間。その場にいた仲間達は、何だ何だ今度は何を言い出した、という心境なのだろう。ナタリアと一緒に紅茶を飲んでいたティアやアニスはカップを置いて、カードゲームに興じていたルークとガイは一旦それを中断して、各自自分の行っていた作業を止めて耳を傾ける。

「この本の主人公である女の子が、ラストに幼馴染の男と結婚式を挙げるんだが」
「まぁ、素敵ですわ」
「その時、花婿の所まで花嫁と一緒に歩くのを誰がやるってなってな」
「ああ、それでですか……」

近くでノイルの発言を一緒になって聞いていたガイは、すでに察して苦笑いを浮かべている。隣に座っているルークは未だに分かっていないようだ。

「それでって、どういう意味だ?」
「ナタリアが結婚式を挙げるってなったら、普通に考えたら誰がナタリアをエスコートする?」
「え、そりゃぁ……ああ、なるほど……」
「父上にはその座は渡さん!」

ノイルは拳を握り、力強く宣言する。しかし、内容が内容なだけに聞いている者からのリアクションは感動からは程遠い。

「でもさ」
「どうした、ルーク?」

ノイルは宣言した拳をそのままにルークに顔を向ける。

「兄上、一応キムラスカでは死亡したってなってるけど、公の場に出られるのか?」
「…………あ」

少々長い間の後のノイルの一文字の呟きが、そこまで考えが至っていなかったことを物語る。彼がどこか抜けているのも昔からだ。

「死人がエスコートをする結婚式ですか」
「大佐さん……」

そんな言葉と共に悪戯を思い付いた様な楽しげな顔で部屋に入ってきたのは、マルクト軍大佐、皇帝の懐刀と言われるジェイド・カーティスだ。

「死んでない、死んでない。俺はまだまだ元気だ!」
「これが四年も生きていることも知らせずにいた人の言葉だもんなぁ」
「うっ……ガイ、まだ根に持ってるのか……」
「当然です、お兄様」
「仕方ねぇよ、兄上」
「ナタリアやルークまで……俺に味方はいないのか!」

ノイルはさめざめと両手で顔を覆い、泣いている(もちろん、フリである)。

「でもナタリアが結婚ってなったら国を挙げての祭りになるなぁ」

ガイは宿屋の主人から借りたコーヒーセットで人数分のコーヒーを入れ始める。そこにルークが「俺はミルク入れてくれ!」と言い、アニスが「アニスちゃんはプラス砂糖!」と注文する。

「そりゃ、王女の結婚だからな」
「そうね。それに、必然的にキムラスカの王となるのだし……」

手際よく入れられていくコーヒー。部屋にはその香りが広がっていき、ティアがお茶菓子を用意し始める。

「まぁ、ナタリアの夫になる奴は俺を倒してからじゃないとな!」
「兄上を倒すのって滅茶苦茶キツそうなんだが……」
「あのヴァンと一対一で戦える数少ない人ですからね」
「あのヴァン総長とですからねぇ……アッシュも大変だね!」
「なっ……!」

アニスの言葉に、温かいカップを受け取るところだったナタリアは顔を赤くして危うくカップを落とすところだった。

「ななな、何を言うのですか、アニス!」
「えー、でもそういう事でしょ?」
「あー、だよな。ナタリアと婚約していたの、本来は俺じゃなくてアッシュなんだし……」
「アッシュって、ナタリア大好きだし」
「アアア、アニス!」
「俺は例えアッシュでも手加減しない!寧ろ全力で戦う!」
「アハハハ、大人気ない王族ですね」
「た、大佐!笑ってないで下さいませ!」

ナタリアはそう言ってジェイドを嗜めるが、顔を真っ赤にしたままでは迫力など全くない。
そして、これから顔を赤くするのはナタリアだけではない。

「ルークはアッシュを笑ってられないけどね」
「だな」
「へ?どういう意味だよ、アニス、兄上」
「だって、そうですよねぇ、ノイル様」
「なぁ、そうだよなぁ」

アニスとノイルはニンマリと笑って声を揃えて口にする。

「「ルークの相手はヴァン(総長)だからな(ね)!」」

ルークに訪れる、一瞬の疑問。しかし彼等の言葉の意味を理解した時、ルークもナタリアと同様に顔を赤くした。

「何故ルークの相手が兄に……」
「わー!わー!わー!何でもない!絶対何でもない!」
「ルーク?」

状況を把握出来ていないティアにこれ以上聞かせないように、ルークは両手を振って会話を遮る。

「アハハハ!ルークは総長に挨拶に行く前に超えなきゃいけない難関が多そうだね!」
「アニス!」
「ルークは奥手を通り越してヘタレですからね」
「ジェイドまで!」
「ナタリアとアッシュ……ルークとティア……これは……」

ガイは嫌な予感がした。この予感はアレだ。昔はよく感じていた。ノイルが何か楽しい事を思い付いた時の、あの予感。今度は何をするんだろう、と幼ながらに呆れていた。再び感じる事が出来たのが悲しい様な、嬉しい様な。

「俺とヴァンがタッグを組んで、ルークとアッシュと戦うフラグか!」
「最悪だぁぁぁぁぁ!」

ルークの叫び。アニスの爆笑。呆れ顔のガイ。よく分かっていないティアに、未だに顔が赤いナタリア。ノイルは自分の考えがさもいい案だと言いたげだ。
そしてジェイドは小さく、珍しく優しげに微笑んで、静かに部屋を出た。

「最悪だ!勝てる気がしない!」
「総長と、ノイル様!アハハハ、最強タッグ!」
「え、え?何で兄さんとノイル様が一緒にルーク達と戦うの?」
「ティア、それ以上はルークが可哀想ですわ」
「俺とヴァンって攻撃パターンを把握し合ってるから息合ってるし、回復も出来るからそうそう倒されないぞ」
「ノイル様が味方で本気で良かったな」

部屋から聞こえてくる、今も続いている会話。それは、聞いていると本当に起こりそうな光景に思えてくるから不思議だ。

「……眩しいですねぇ」

ジェイドは眼鏡の位置を直しながら呟いた。





若者が全員夢を抱いているわけではないのは知っています。現実を知ることは長生きの秘訣です。しかし、夢を語れる者が世界を変えていくのでしょう。
その変わった未来に、変えた若者がいるかは別の話なのが現実なのですが。

――――その日記の一ページは破られて、だれにも読まれることはなかった。





**********

『PMとほのぼの』
のリクエストでした。

まだ本編からは程遠い時間軸のお話。
旅の間、ほのぼのした会話もたくさんあったんだろうなぁ。ティアはきっと鈍感だろうなぁ。それを想像すると楽しいです。

リクエストありがとうございました。



前へ 次へ

戻る

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -