デュラハンと友達になっちゃった
 



セルティは部屋に設置してあるテレビの前で両手を地面について項垂れていた。絶望しているとさえ言って良い。常に彼女の首の断面から流れる黒い影も、本人の感情を表して下へと流れている。彼女に首があれば涙も浮かべていただろう。
セルティは絶望していた。これなら白バイに遭遇した方がマシだと思うほど……あ、やっぱり白バイの方も嫌だ。
だが、一瞬でもその様に思うくらいには絶望していた。
その理由は一つ。



録画……失敗した……。



現在、ビデオデッキを起動させてテレビに映るは野球中継。セルティが見たかった動物番組の前の番組である。そう、この野球中継が延長した為、放送時間がずれたのである。
何時もならばその場合、新羅が気付いて録画してくれる。しかし、新羅は急患が入ったらしく外出。今はいない。それでも設定した通りタイマー録画は作動したが、その時間は野球中継。

泣きたい。

だが、生憎首から上は行方すら分かっていないので涙は流れない。それでも深い悲しみが心に満ちる。
ずっと前から楽しみにしていた今日の動物番組。本当は仕事なんて入れないでリアルタイムで新羅と一緒に見たかった。

何故……野球……。

狩沢は録画していないか。杏里はどうだ。帝が実は動物好きだったりはしないだろうか。
様々な手立てを考えるが、可能性は望めない。限りなく低いとも言える。
ネットの動画サイトで探せば見付かるかもしれないが、やはりDVDなどで持ちたい。録画していそうな知り合いは……。



ピンポーン



軽いインターホンが鳴り響いた。
誰か来たらしい。時間は二十二時を回っている。こんな時間に来客とは、新羅への急患だろうか。だとしたら新羅がいない今、その急患は生死の境をさ迷う羽目になってしまう。

セルティは玄関の覗き穴から外を見た。全く、自分は顔がないのにどうやって見ているのか不思議である。

玄関の前には一人の茶髪の青年が立っていた。
傷付いた急患の様には見えないし、他の者の姿もないようなので付き添いでもないだろう。また、静雄や帝の様に知り合いでもない。
この部屋の住人の性質から、青年はあまりこの部屋に訪れる者には見えなかった。何て言ったって闇医者と都市伝説だ。一癖二癖どころか十癖あっても驚きはしても納得する。臨也の様な人間だっているのだから。しかし、青年は何処にでもいる一般人に見えた。

誰が、何のようだろうか。

セルティは首がないことを驚かせない様、何時も通り黒いヘルメットを被って玄関を開けた。
青年の第一声と、全く驚く事がなかった事実から、セルティは彼が一般人だと言う認識を誤っていた事を悟った。

「こんばんは。貴女は『何』ですか?」





新羅は目の前の光景を興味深い目で眺めていた。

片や、学生に見られる外見も恐らく中身も全く変わっていない高校時代の担任教師。
片や、都市伝説であり、何より己が愛し愛されの相思相愛の恋人。
二人が同じ視界に入る事があろうとは、思っていなかった。人生何があるか分からないものである。

そんな二人は、現在新羅の前でお茶を出して出されてしている。

「あっ、どうも。お構い無く」
『いや、そう言う訳にはいかない』

セルティは何時もの様にPDAに文字を素早く打ち出す。
彼女は普通に見たら何時もと変わらぬ様に見えるが、そうではない。文字通り会ったときから彼女に想いを寄せている新羅には分かる。新羅の愛する彼女は新羅の元担任に引け目があるのか、申し訳なさそうにしている。
急患の治療が終わり家に帰って来た時の状況は衝撃的だった。



『……申し訳ない』
「あははは。ま、誰にでも間違えはあるよね」



家の中で綱吉に向かって頭を(首から上がないセルティには少々語弊がある言い方かもしれないが)下げているセルティの姿。少なくとも彼女と綱吉は今日が初対面のはずである。つまり、出会って数時間の間にセルティは綱吉に謝る事をしてしまったらしい。
……え、何それどういうこと?

「よっ、岸谷。久し振り。元気そうだな」
「えぇ…どうも、お久し振りです、沢田先生」
「平和島から聞いたぞ。闇医者になったんだって?お前らしいっちゃらしいけど、気を付けろよ。ぱっと見大丈夫そうな人だからって信用するな」
「ははっ、沢田先生が言うと妙に説得力ありますね。僕だってそれくらいは心得ていますよ」
「そうか?まぁ、危なくなったら友達に匿って貰えよ?平和島とか、折原とか」
「お互いを不倶戴天の敵だと認識している彼等を同列に僕の友達に並べる人はそんなにいませんよ」
「だって彼奴等なら厄介事に巻き込んでも自力でどうにかしそうだろ?」
「寧ろ彼等が厄介事の中心にいそうですけど」

高校時代の担任の言動は変わらない。
彼は新羅達三人の関係、性格を理解して基本見守り、よく首を突っ込み、たまに談笑する。教師としては兎も角、人としては出来た人だ。異常者である三人が曲がりなりにも平和な高校生活を送れたのは彼の尽力もあったのだろう。

「先生は今は何処に赴任しているんですか?」
「ああ、暫くイタリアにいたんだけど、こっちに戻って来てな。来良学園に赴任決定」
「お帰りなさい、騒動の中心に」
「ありがとう大抵の騒動の中心の元凶の友人」

この沢田綱吉教諭は騒動によく巻き込まれる。彼が騒動の原因になる事はない。だが、彼の周りの人物がよく騒動を巻き起こす。そして彼はそれを放っておけないのだ。

「所で、セルティは何を謝っているんですか?」
「ん?人外戦争勃発未遂についてかな?」

それはつまり、沢田綱吉も一般人の皮を被った異常者であるという証拠なだけである。





いや、ビックリ。
岸谷の所にいたの首なしライダーだった。しかもデュラハン。獄寺君に教えたら喜ぶかな。仕事ほったらかして会いに来そうだから止めておこう。
生徒達が元気そうで嬉しいよ。元気すぎだけどな。







**********

『無色アサリで綱吉とセルティと新羅との会話』
のリクエストでした。

街中でバッタリは無理でした。首なしライダーと外で初対面よりもこっちの方がスムーズかな、と。

セルティは綱吉が何だかよく分からなくて鎌出して綱吉も思わず戦闘態勢に入っちゃって危うくバトルに突入しそうだったって話。
動物番組は綱吉が録画していて借りることが出来たよって裏話があったりなかったり。

リクエストありがとうございました。



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