一日限定黒い制服《後編》
 


「見回り参加者は万事屋連中を除くと七人か……思ったよりも残りやしたねィ」
「てめえらが喧嘩おっぱじめて予定が遅れたからだろうが!」

午後四時から始まった希望者による市中見回り。それには参加者の半分ほどが参加した。
沖田の予想では五人以下になると思っていたらしいが、予定が遅れたことにより体力が回復し、此処まで来たら見回りも参加したいという思いが湧いたのだろう。動ける者の多くが参加する結果となった。

「これ、全員で見回るのか?多くね?」
「流石に全員一緒じゃありやせんよ、旦那。参加者はくじ引きで幾つかのグループに分けやす。で、班長をそれぞれ俺や土方さんでやって、ぐるりと一週、てな感じですね」
「何だ、簡単アルナ」
「お前一人で攘夷浪士のアジトに突っ込ませるってのもあるぜィ」
「上等アル!人っ子一人逃さない自信がアルね!」
「止めて下さい!」

場所さえ分かれば、神楽ならば本気で突っ込みそうだ。一人では全員逮捕は無理でも、その組織の壊滅くらいはやりかねない。しかし、今日はあくまで体験会。そんな予定はない。

「参加希望者はこの箱の中から玉を引け。色で分ける」

土方の言葉で、それぞれ参加者は箱の中に手を突っ込んだ。





「攘夷浪士からの襲撃はなくてもよォ」
「コンビニ強盗には遭遇するのが主人公クオリティでさァ」
「あははははは!」
「山本笑ってないで!何か俺が悪いみたいな気持ちになるし、笑う場面でもない!」
「け、警察呼ばないと……」
「おいこら。今はてめえが警察だぜィ」

体験会参加者の言葉に沖田は素早くツッコむ。
一般人の体験者を除けば、其処にいるのは沖田を班長とした銀時、山本、綱吉である。
襲撃よりも面倒な事に出会した。攘夷浪士相手ならば容赦なくぶった切れば良いだけだが、今目の前で起こっているのはコンビニで立て籠もっている強盗犯。刺激すれば人質の命に関わると言うデリケートなもの。
野次馬も集まってきている。警察は来ているのに何をやっているのだと言う非難の眼差し。いやいや、此処で正式な真選組は一番隊隊長だけだから。その他は体験会参加者だったり、この世界の住人ですらないから。

「で?どうすんだ、沖田さん」
「だってよ、ドS隊長さん」
「バズーカぶっ放しやすか?」
「止めて下さい!」
「しかし、この人数じゃねィ。応援があと数分で来やすから、そこからこのコンビニを包囲してからじゃないと話になりやせんぜ」

強盗犯は見た感じ三人。ぐだぐだと今だも逃走をしていない事から、明らかに素人である。武器は包丁やナイフの短い刃物。銃も用意出来ないのかと言いたいが、刃物は刺せばそれが致命傷になる。銃の使い方知りませんでした、などは期待できない。

「でも、何かあの強盗犯おかしい気が……」
「強盗しようなんざ考えてんだ。その時点でおかしいだろィ」
「いや、それだけじゃなくて……」

綱吉の言葉に沖田はもう一度強盗犯を外から観察する。ぎょろぎょろと落ち着きなくしているが、強盗犯ならば当然だ。寧ろ、逃げるチャンスはまだ応援が来ていない今しかないと言うのに残っている事の方がおかしい。金が目当てならば、さっさとレジの金を持って逃げればいい。尤も、逃がす気はないが。
……何か他の目的が?

「なるほどねィ……」

彼等は、まだ彼処に残っている理由があるのかもしれない。だとすれば、時間を与えるのは得策ではない。と言うか、応援を待っているのが自分の本分ではないのだ。と、言うわけで。

「突入しやすか」
「作戦あるのかよ」
「裏にもいるかもしれやせんし、逃がす気はも勿論ありゃせん。と言うわけで、俺と旦那は裏から突入。それに気を取られた隙を付いて山本と小僧が突っ込んで表にいる奴も確保」
「えええ!?」
「見た感じ、客はいなかったんだろ。店員が五人いるだけでィ。其奴等を盾にする前に犯人を無力化しろ」
「めっちゃ重要なのな」
「山本は刀蹴り飛ばす技があるし、小僧もあのスピードなら一瞬で間を詰められる。やれるだろィ」

反対意見はあるか?沖田は最終確認をしたが、そこに否を求める気はなかった。
二人は頷き、他の参加者はぽかんとしていた。





あっさりと。劇的な展開などなく。強盗犯五名はお縄に付いた。
裏にいた強盗犯二名に沖田と銀時がやられるはずもなく、表の三人も山本と綱吉が一瞬で倒した。

「こりゃ……爆弾か?」

強盗犯を確保した後に出て来たのは爆弾だった。恐らく応援が来たら真選組に投げ付ける気だったのだろう。素人にしては過激なことを考えるものだ。

「爆弾処理班も呼ぶ必要あんのかよ……」
「え、う、動いたりしてませんか!?」
「獄寺なら解体出来るかねィ」

爆弾のタイマーは動いていない。しかし、もし本当に応援に投げ付ける気だったならば起動スイッチがあるはずだ。早めに解体するに越したことはない。

「なら俺迎えに行ってきます」
「何処にいるか分かるのかィ?」

獄寺達の参加者グループは他班で起きたこの事態により急遽屯所に戻っているはずだ。屯所にいるならば兎も角、予定外に戻っているのだから今どの辺りにいるのかは分からない。

「大丈夫です」

だが、綱吉は断言して走っていく。
彼は分かっているのだろうか。それが普通の人には出来ない事だと。気付いているのだろうか。状況に付いていけず、不思議そうに見ている参加者に。

『みんなは、もっと凄いです』

謙虚は美徳ってか?それが身に染みてるってか?

「これ、真っ二つにしちゃ駄目なのな?」
「止めい、山本。爆発したら山の様な始末書書くことになるぜィ」
「ま、ツナならすぐに戻ってくるだろ。のんびり待とうぜ」
「爆弾の前でのんびりなんて、流石銀さんなのな!」
「あの小僧もだけどな」
「ツナは昔から凄いのな!」

周りは、とっくに認めているのに。彼は知らないのだろうか。

「その守護者ってのに負けず劣らず、だと思うがねィ」

沖田は不服そうにアイマスク取りだして横になり出した。





今日も面倒な仕事だった。体験会って俺いなくてもいいだろぃ。
あの超直感ての俺も欲しいな。魂とか見られそうだ。めっちゃ便利だろうに。







**********

華穂様、癒夜様、匿名様のリクエスト
『真選組とツナで、ツナの真選組一日体験』
『なかなか自分の実力を認めない(わかってない)ツナにヤキモキする銀魂メンバー』
『ツナが精神的にも肉体的にも強くて真選組(特に土方と沖田)がびっくりする話』
でした。

うーん、ちょっとずつリクエストからずれている気がします…。そして長くなった。前中後なんて久し振りでした。

ツナと真選組の彼等はほとんど書いたことがなかったので、新鮮でした。リクエストでは書いても本編ではあまり書いていない彼等です。

リクエストありがとうございます。



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