一日限定黒い制服《中編》
 



幾度倒れようと。
幾度戦いを切り抜けようと。
――体力は生粋の体育会系に敵わない。

「おーい、小僧。水飲むかィ」

要するに。

「はぁっはぁっ……木刀、って、重い、です、ね……」

綱吉は訓練道場の入り口で汗だくで倒れて、息も絶え絶えに言う。訓練は予想以上にキツかった。
真選組の得意とするのは刀を使用する白兵戦である。隊長格は勿論、末端の隊士に至るまである程度の剣術を習得していなければ、自分の命を守るのも難しい。そして武道というのは日頃の修行成果が如実に現れる。だから真選組も訓練時には木刀や真剣を振るのだが……。

「体力ないねィ」
「十五にも届いてねぇんだ。こんなもんだろ。最後までついてきただけでも上出来だ」
「山本は息一つ切らせやせんが」
「彼奴は別だろ」

獄寺や山本は体験会参加者の分も含めた飲み物を買いに行っており、神楽は暑いから頭から水を被りたいと言って水道まで行ってしまった。銀時は気付いたら訓練中に何処かに消えていた。恐らく何処かの木陰ででもサボっているのだろう。
野球部で、ランニングは日常と化している山本。ダイナマイトを大量に所持し、その状態で戦う事が出来る獄寺。彼等は中学生とは思えないほどの体力である。
土方もそう思っているから別に倒れている綱吉が軟弱だとは思わない。程度は違えど、他の参加者も道場の中で倒れたり壁を背に座り込んだりしている。彼等は綱吉達よりも年上で、中には二十台半ばの者もいて、それがへばっているのも考えれば綱吉が最後までやれただけでも十分だと土方は思った。
リボーンには日頃から事件のような事故を起こされ、崖登りもさせられた事があるし、未来ではラル・ミルチに扱かれた身である。死ぬ気でないにしても、綱吉は自分に体力が付いていることを実感した。流石に山本や了平には敵わないだろうが。考えてみれば、守護者は体力馬鹿ばかりである。自分が勝てるのはランボとクロームくらいではないだろうか。

「みんなは、もっと凄いです」
「みんなって……あぁ、『そっちの』世界の守護者ですかィ」
「はい」
「そりゃ体力面じゃそうだろィ。話に聞いた限りじゃ、大抵の奴よりは其奴等の方が体力ありそうでィ」
「そうですけど……」

みんなは凄くて。凄すぎて。だけど、自分が彼等より体力がないのは仕方がないとは思いたくないのだ。何よりも、そう思う理由が嫌だ。

「みんなが凄いのを理由にしたくないんです」

みんなが凄くても、強くても。もっと強い敵がこれからも襲ってこないとは限らない。自分は護りたいのだ。仲間を。友達を。

「そんだけ言えりゃ、それこそ上出来だろ」
「土方さん?」

土方はマヨネーズ型のライターで煙草に火を点けながら言う。

「自分に才能がないって自分で勝手に決めて、勝手に諦める奴はごまんといる」
「……」
「才能がない。だからどうしたって開き直りゃ、そんな馬鹿はひたすら突っ走って行く。それが誰かの何かになる時もあるだろう」
「……はい」

土方は綱吉の隣で煙草の煙を吐き出した。彼は空を見ている。訓練後で腹も空き始めて、太陽が頂点を通り過ぎている事からも時刻はお昼を過ぎた頃だろう。彼は遠くを見ている。

「あー、嫌でィ。おっさんは真面目な顔で臭い台詞を言いやがる」
「総悟……てめえ……」
「録音して屯所中に放送すりゃ良かった。土方さん、もう一回同じのお願いできやすかィ?」
「誰が言うかぁぁぁぁぁ!」

土方は煙草の火を消し、代わりに訓練で使っていた木刀を手に持つ。その時には沖田は録音機を構えて立ち上がっている。

「ほら、そう言わず。もーいっかい、もーいっかい『自分に才能がないって……」
「だから、言わねぇよ!てめえは諦めろよ!」
「開き直る馬鹿が良いんでしょう?」
「てめえは常時開き直ってんだろうが!」

土方と沖田は同じ量の訓練をしたとは思えない動きで道場内を駆け回っている。他の体験会参加者達などは唖然としてしまっている。

それはいつも通りの光景だけど。さっきのも真選組副長の顔なのだと思った。





体験会は予定外のことが発生したが怪我人を出すことなく終了。
万事屋の所にいる小僧と初めてまともに話をした気がする。思ったより根性がある奴だった。
明日は――――。



以下、明日の会議について綴られている。





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