一日限定黒い制服《前編》
 



「『ドキッ!男だらけの真選組隊士一日体験!ポロリもあるよ!』始まり始まりィィィィィ!!」
「ポロリねぇよ!てか何だそのタイトル!むかつくから止めろ!」

近藤の高らかな宣言と、土方の心からの怒鳴り声が青天に響いた。

「俺、変じゃないかな……」
「そんなことありません!十代目は何を着ても似合います!」
「前から思ってたんだが、獄寺のこの忠犬っぷりは何でィ」
「その内、耳と尻尾が生えてくるんじゃねぇか?」
「ははは!獄寺は最初ッからこうなのな!」
「暑いアル。何で二度もこの堅ッ苦しいださい服着る羽目になるアル」

真選組屯所の庭には、二十人ほどの黒い真選組の制服に袖を通している隊士がいた。しかし、彼等の殆どはキョロキョロと屯所内を見渡したり、隣の者と会話をしたりで落ち着きがない。何よりも、その二十人の中には隊士ではない者の顔――万事屋の一員である神楽、新八、綱吉達が含まれており、彼等がただの隊士でないのを物語っている。

「何で俺等もこんなめんどくせぇのに参加……」
「依頼でっせ旦那。万が一に備えてですよ」
「ツナ達を除いても十五人以上だからな。用心には越したことないのな!」

近藤が述べた巫山戯たタイトルはさておいて、今日、真選組で催されたのはその名に含まれるとおり『真選組一日体験』である。因みに、実際の募集には普通に体験会と出しており、『ドキッ〜』などとは出していない。
今回のイベントは若者を対象に真選組に対する理解を深め、そしてイメージアップを謀る趣旨なのだが、その募集が綱吉の目にも止まったのは三日前の事だ。

『へぇ……獄寺君達もこれに出るの?』

屯所に来ていた時の、何気ない一言。そこから今日のイベントへの参加が決まった。
まだ募集が間に合うことや、人数が予定していたよりも足らないこと。また、不測の事態に対する対処も、参加者の中に理解者がいた方がやりやすいだろう。万事屋のメンツならば戦闘能力も申し分ない。寧ろそこらの一般隊士よりも腕が立つ。
勿論、不測の事態など起こらない様に尽力する。彼等がいなくても何ら問題ない。元よりいない予定で考えていたのだから。しかし、打てる手は打っておくのが最善の事である。綱吉が興味あるなら丁度良い。
――と言う、後付けは此処までとして。

『十代目に俺の勇姿を!』

と突っ走った獄寺の強い希望により、綱吉は流される様に参加が決まった。
綱吉が参加の意思を表せば、彼だけでは不安だと言う神楽も加わり、道連れ……誘われて新八も参加が決定した。此処まで揃ったら不測の事態が彼等から起こる場合もある。ストッパーとして銀時の参加も促した。
最初銀時はきっぱり断った。彼と鬼の副長は犬猿の仲である。他とも仲が良いつもりはない。局長はストーカーだし。サド王子もいるし。と言うか、単純にめんどくさい。手伝うつもりはなかった。

『ケーキバイキング三回分でどうですかい?』

あっさり買収された。

「で?予定としてはどんな感じよ」

集合する段階になって銀時はようやくそれについて訊いた。沖田は銀時のそのペースに狂わされることなく、いつも通りやる気がなさそうな欠伸をしてから答えた。

「確か制服と一緒に予定表が配られたはずですぜィ」
「あ?そんなのあったか?」
「早速なくしてるんですかィ……」
「ほい、銀さん。予備の用紙」

山本が手際良く新しい用紙を渡す。隣でも綱吉達が自分の分の用紙に目を通していた。用紙の一番上には『真選組一日体験会注意及び日程』と達筆の筆記体で書かれており、その下には本日の日付、注意事項、緊急時の対処法が箇条書きで大まかに述べられている。恐らくこれは土方が考えた物だろう。重要なことが一目で分かる理解しやすい文章だ。裏を見れば、予定時間順の日程予定が書かれていた。

「えっと……書類仕事の手伝いと、掃除と、訓練と、見回り、ですか?」
「まぁ、一応見回りは希望者って事になってるがねィ。表通りを回ることになってるが、攘夷浪士が来ない限らねぇし」
「沖田さんが言ってた『不測の事態』ですか?」
「まぁな。ま、大丈夫だろィ。見回りの前に訓練入れてしごいて、見回りの希望者減らす算段だし。守る奴がいなくなればこっちも楽だ」
「ちょっと!そんな裏事情教えないで下さいよ!」
「せめて大人の事情って言え」
「心配いりません十代目!実際、襲撃はそう何度も受けるものじゃありません。こっちの人数が多ければ相手もそう来ませんし、大通りじゃ確率は更に減ります」

獄寺の言うとおり、此方の人数が多ければ相手も数が必要となる。装備も人も攘夷浪士には余裕はない。高い効率を望むならば、少人数でいるのを襲撃する方が明らかに効果的であるし、リスクも少ない。
あくまで綱吉達は保険なのである。少年達がいた方が他の参加者の緊張も解れるし、場も和む。見回り時の見た目も微笑ましい。以前やった寺門通の一日局長と同じ、イメージアップだ。そっちの効果の方を望んでいる面がある。

「ま、気楽にやりなせィ」

沖田は気負いなどなく言う。

真選組と言えば、綱吉にとっては警察である。不本意ながらマフィアのボス候補となってしまっている綱吉にとっては、他の人よりも興味があるかもしれない。それに、今は友達である獄寺と山本が世話になっているのだ。
思っていたよりも、楽しみにしている自分に気が付いた。







今日は真選組一日体験会に参加した。
大変なこともあったけど、いつも話をするあの人達が何をやっているのか分かって嬉しかった。
みんな、いい人だと思った。





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