記録者後継者との食堂で
 




「その笑い方止めたらいいんじゃない?」

エクソシストとして、何よりブックマン後継者として、黒の教団に入団して間もない頃。
誰とでも『仲良く』なる。記録をしやすくする。その為の一貫として、同い年である茶髪の青年エクソシストと歩きながら雑談していた。
彼は装備型が多い中の珍しい寄生型エクソシストで、イノセンスを発動すると眠くなるのか、任務から帰ってきたら寝ている事が多かった。
今回もブックマン達が報告の為に司令室に行ったら彼がソファーで寝ていて、コムイが毛布を掛ける所だった。ブックマン達が司令室に入ると彼は直ぐに目を覚ましたが、欠伸をしていてまだ寝足りないらしい。コムイへの報告を手短に済ませ、まだ話すことがあるからお前は出ていけ、と言うブックマンの言葉に大人しく従い、二人で退室した。
誰とでも『仲良く』なる。記録をしやすくする為に。だから、何時もの様に笑顔で話し掛けた。何時もの様に。

好きな物は何さ?うーん、甘いのは好きかな。ジェリーさんが作るのはどれも美味しいから迷うよね。分かるさぁ。ジェリーは頼むとなんでも作れるさぁ。国に関わらず幅広く作れるよね。作れない料理あるのかな。あっても意地でも作ってみせそうさ。確かに。ホントに自力で調べてどうにかして作りそう。しかも多分美味いさ。絶対美味しいよ。俺無理だし。料理出来るさ?殆ど作らない。ラビは?野戦料理的なのはやるけど、やっぱジェリーには敵わないさ。そりゃそうでしょ。やっぱ料理出来た方がモテるかね?うーん、ラビは――。

「――その笑い方止めたらいいんじゃない?」

その後は二三話し、それぞれの自室への分かれ道で彼との会話は終わった。
別れる時。『ブックマンJr.』は笑っていた。





「アレン、お前それ何皿目?」
「じゅーびっはらめれふ(十一皿目です)」

食堂でラビは食後の茶を飲みながら訪ねる。
ラビの向かいに座っている白髪の最年少エクソシスト――アレン・ウォーカーの食事は凄まじい。文字通り山のように盛られた料理を次々と平らげていく。しかも一粒たりとも逃さないと言う意気込みなのか、行儀悪く口を開けて喋った今もピラフのご飯は落ちない。

「……何でそんなに食えるさぁ」
「うぐっもぐっ」

アレンは水を飲み、一息ついてから答える。

「ジェリーさんの料理美味しくて」
「いや、そりゃ美味いけど」
「どうやったらこんなに美味しい料理が出来るんでしょう」
「前に訊いたら『愛情よぉ』って言ってたさ」
「愛情ですか……自分で食べる料理に愛情入れても……」
「何時か自分の大切な人に手料理を振る舞うための練習だと思えば良いさぁ。そうすりゃ身が入るだろ?」
「ラビって口は巧いですよね」
「口『は』って何さ。『は』って」

他意はありませんよ、と言い、アレンはデザートのみたらし団子に取り掛かる。皿の上には二十本ほどのみたらし団子。一本位貰おうかと手をその皿に手を伸ばしただけでアレンは鬼の形相で睨んできたので、ラビは大人しく手を引っ込めた。

「そう言えば、ラビは料理出来るんですか?」
「野戦料理的なのはやるけど、やっぱジェリーには敵わないさぁ……あれ、こんな会話前にも……」

記憶力に優れたラビは、あっさりとその答えを出す。それは何年も前の記憶だ。何年も前の記録だ。

「あー……そう言りゃ、ツナともこんな会話したさぁ……」
「ツナと?」
「そっ、料理が出来た方がモテるかね、って」
「……ラビの頭ってそんなのばっかですね」
「ちょっ……アレン酷いさぁ!」
「大切な人の為に作るんでしょ?だったらモテるとか別に良いじゃないですか」

アレンは大袈裟な溜め息を付く。因みに、この時点で彼は七本目のみたらし団子を手に持っている。

「何の話?」

そのアレンの後ろから掛けられる第三者の声。アレンが振り返るとそこには茶髪のエクソシストがオムライスの乗ったトレーを持って立っていた。

「おはようございます、ツナ」
「おー、起きたか、ツナ」

アレンとラビの軽い挨拶に返事をし、ツナはアレンの隣に座る。
今は夕方。確か彼は早朝に任務から帰還していたはずだが、恐らく何時もの様に報告が終わったら寝ていたのだろう。

「で、何話してたの?」
「ラビがどうやったらモテるのか、と言う人類にとって何の意味もない事ですよ」
「人類って……そこまで言うさぁ?」
「ラビがモテるには?うーん、ラビは――」

ラビは咄嗟にツナの言葉を止めようとした。
以前と同じあの言葉を今アレンの目の前で言われると、記録者として支障が出るかもしれない。
いや、そこまでは考えていなかったが、それでもツナを止めようとした。あの言葉を。



「――所構わず女の子に声を掛けるの止めたら良いんじゃない?」



ツナに紡がれた言葉。彼の隣に座っているアレンはそれに頷いている。

ですよね、ラビはもっと女性に対して誠実であるべきです。だよね。もっと節操を持つべきだね。何ですか、ストラァァァイクって。意味が分かりません。あー、たまに言ってるあれ。一目惚れって聞こえは良いかもしれませんが、それが何度も続くと呆れるだけですよね。守備範囲広いしね。今度リナリーに『黒い靴』で制裁してもらう?あっ、良いですね、それ。名案です。でしょ?リナリー真面目だから今までのラビの女性歴聞いたら怒ると思うよ。ですね。ブックマンにも訊いておいてもっと裏を取りましょう。きっと喜んで教えてくれるよ。ブックマンもラビの女性癖には困っていますからね。ところで――。

「そろそろ何かツッコンでよ」

ツナの言葉で、ラビははっとする。どうやら二人の会話に口も挟まず黙っていたことを言っている様だ。
今、耳に入ってきた情報を素早くまとめる。すると、自分のちょいとばかり、いやかなり悲惨な未来が予想された。

「ちょっ、二人とも待つさ!落ち着いて話し合うさ!」
「えー、だってラビ何も言わなかったじゃないですかぁ」
「ねー」

この二人はたまに最悪なくらい息が合う。だが、それを止めねば自分に降り掛かる災難は逃れられない。

二人を止めながら。『ラビ』は笑っていた。





今日は一日の殆どを寝てた。早朝に帰ってきて、報告が終わったら夕方まで寝た。
食堂に行ったらアレンとラビがいたので、一緒に食べた。アレンは本当によく食べる。俺も寄生型だけど、アレンほどは食べられない。ラビはもっと野菜を食べた方が良いと思う。
そう、ラビだ。うん、ラビは変わった。たぶん、もう近付いてきても俺は起きないだろう。







**********

あかり様のリクエスト
『ラビとツナのお話』
でした。

モテの秘訣を訊く、とは少し外れましたね。申し訳ありません。
ツナは心許していない人が近付いているとすぐに起きます。ルベリエ長官とか同じ階にいるだけでも起きるかも(笑)でも、仲間だと思っている人が近くにいても起きません。声掛けられたり引っ叩たかれたりしたら普段は起きるけど。

ラビは思ったよりも書きやすかったです。
最近本誌の方全然出てきてませんね。彼は大丈夫なんでしょうか。

リクエストありがとうございました!



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