将軍の妹の男友達
 



江戸の空は青い。江戸の雲は白い。空を悠々と飛んでいる天人の宇宙船を除けば、綱吉達の世界の空と変わらない。
その空を綱吉は神楽の隣で仰いでいた。其処は綱吉が江戸で滞在している万事屋ではなく。よく訪ねる真選組屯所でもなく。

「まぁ、彼がツッコミ超人のツナさん?」

綱吉in将軍の城。
…………どうしてこうなった。





「ツナさんは超人なんですよね?」
「一般人です!」
「詠唱なしで辺り一面吹き飛ばせるんですよね?」
「詠唱って何ィィィィィ!?」
「離れた敵の位置をスカウターなしで割り出し、戦闘力も分かるんですよね?」
「ちょっと神楽ちゃん俺の事なんて説明したの!?」

現幕府征夷大将軍徳川茂茂の妹、そよ姫。その自室に入ることが出来る人が一体どれほどの数いるだろうか。成人前とは言え、そう多くはないだろう。何て言ったってお姫様だ。一生話すことがないのが当たり前で、お目通り願うのも無理のが常。そんな人の部屋に綱吉が入ることになろうとは。夢にも思わなかった。
もっと夢にも思わない事が、目の前で行われているが。

「そよちゃん、これ約束してた新作酢昆布アル」
「ありがとう!ずっと楽しみにしてたの!」
「あと、ザックリマンシールネ」
「まぁ、ガッツリマンシールも」
「いやいや、バックリマンネ」
「え?ギャッツリマン?」
「……ドッキリマンじゃないかな……」

神楽とそよ姫が仲良さげに話をしている。実際仲が良いのだろう。
まさか将軍の妹と神楽が友達だとは。と言うか、将軍の妹が酢昆布好きだとは。庶民派である。

「あ!これレアシール!凄い、初めて見た!」
「それツナが当てた奴アル」
「流石ですツナさん!」
「え、そ、そうかな?」
「でもあと三枚は全部同じの雑魚シール当てたアル」
「格好悪いですツナさん」
「そよ姫様酷い!?」

結構辛辣なお姫様だった。流石神楽の友達。ただのお姫様の訳がない。

ふふ、とそよ姫は口元に袖を持ってきて上品に笑う。一つ一つの動作に将軍家の教養の高さが窺えるが、それと同じくらい一つ一つの表情に年相応の幼さも表れている。きっとそれが彼女の『友達』に見せる顔なのだろう。

「ごめんなさい。でも、ツナさんと会うの楽しみにしてたんです」
「え、俺に?」
「はい」

そよ姫はにやにやといたずらっ子の様に笑いながら顔を綱吉に、横目で隣に座っている神楽を見ながら本当に楽しそうである。

「神楽ちゃんが嬉しそうにツナさんの事を話すので」
「当然アル。楽しいことアルからな!」

神楽はえっへんと胸を張ってそよ姫に答える。
期待していた反応と違ったのだろう。そよ姫はじーと暫く神楽を観察していたが、すぐにはぁ、と大きな溜め息をついた。この大切な女友達と恋バナをするのは何時の日になるのやら。

「えっと、神楽ちゃんはどんなこと言ってましたか?」
「引ったくりを二人で撃退したとか」
「あー……」
「燃え盛るデパート中からの脱出したとか」
「あーー……」
「銃撃戦の中を走り抜けたとか」
「あーーー……」

覚えがある。ありすぎる。確かにそんなことやった。こうして考えてみると、綱吉はこの世界で随分と濃い体験をしているのである。いや、この世界『でも』と言った方が正しいか。自分はただの一般人なのに。

「いや、お前は一般人じゃないだろ」
「心を読まないであと標準語!?」
「ツナさんは顔に出やすいんです」
「そうですか?」

そよ姫はそうです、と言い、自分の前に置かれているお茶を一口飲んだ。綱吉も釣られた様にお茶を手に持ち、ずずと飲む。

「そんなんじゃ好きな女の子と話す時が大変ですよ」

吹き出した。

「ツナ汚いアル」
「ちょっ、えっ、あっ、好きな人って!?」
「何赤くなってるアルか」

神楽は呆れた様に首を横に振る。一方、そよ姫はうきうきと目を輝かせる。これは、女友達よりも先に男友達と恋バナをすることになるかもしれない。
だが、それには少々気に食わないことがある。

「ツナさん」
「ごほっ…何ですか、そよ姫様」
「それ止めて下さい」

そよ姫はびしりと右手の人差し指を綱吉に向ける。綱吉は意味が分からなくてきょとんとしたままである。

「ツナさん」
「え、はい」
「私と神楽ちゃんは友達です」
「はい」
「神楽ちゃんとツナさんは友達です」
「はい」
「友達の友達は友達です」
「はい……あれ?」
「ツナさんと私は友達です」
「えっと……はい」

綱吉はちょっと迷ったが、頷いた。もし誰かに将軍の妹との関係を訊かれたら、畏れ多くて友達とは言えないかもしれないが、赤の他人とも答えないだろうから。

「友達を『様』付けで言うんですか?」
「……あ」

彼女は、あくまでも友達と対等でいたいのだ。
自分は姫だけど。彼女は天人だけど。彼は――そよ姫は知らなくとも――異世界からの来訪者だけど。
身分は変えられないけれど、心は対等でいたいのだ。

「どうなんですか?」
「その……それじゃ、そよ姫?」

彼女の言いたいことは分かるので、綱吉は失礼にならない程度に言い換えてみる。

「まだ遠い!」
「ええ!?」
「ツナ頑張るネ!」

見方はいない。神楽はそよ姫陣営である。

「そ、そよ……さん?」
「もう一押し!」
「強気な姫様ですね!?」

そよ姫はめげずに期待の眼差しを向けている。最初はそよ姫だけだったその眼差しも、神楽も共にして二人の女の子に注視されている恥ずかしい状況になってしまっている。

「そ……」

綱吉は観念した。

「そよちゃん」

彼女の満面の笑顔を、綱吉は忘れない。



その瞬間後ろの襖の向こうから溢れてきた爺やの殺気も忘れない。





今日はなんと将軍様の城に行った。神楽ちゃんと将軍の妹が友達だから入れたけど、城は本当に大きかった。
妹さんのそよ…ちゃんは元気な人だった。親しみやすい、良い姫だと思った。きっとお兄さんの将軍様も親しみやすい、良い将軍なんだろうな。
爺やさんが目だけで人を殺せそうだった。俺は悪くないのに…。今度行く時は爺やさんに会わないと良いな。でも無理だろうな…。







**********

『ツナとそよ姫の交流』
のリクエストでした!

本誌の方で何週間か前にあの長編が終わった記念も兼ねて。全くネタバレとかないけどね!

何度か神楽は城に出入りしていたみたいなので、そのうちの一訪問時に綱吉も連れて行きました、的な。
神楽と綱吉に恋愛が絡むことはあるのだろうか…。難しすぎる。

リクエストありがとうございました!



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