問題児の担任になっちゃった
 




怒鳴り声が響く?学級崩壊しているクラスがある?廊下を自転車で走る奴がいる?生徒に喫煙者がいる?喧嘩がない日はない?救急車が頻繁に来る?窓ガラスが直した一時間後にはまた割れた?
それは大変だ。どれも職員会議の議題になるのに足る問題だろう。教師達の頭痛と胃痛の原因にもなる。
だが――――。

「三階から飛び降りて表札を引き抜いて振り回し、不良十人を病院送りにして自分は無傷の生徒と、その喧嘩の黒幕でそんな奴に殺される勢いで恨まれているのに仕込みナイフで応戦したり証拠はないが他の問題の主犯でもあったりする生徒の対処方法」

――――こんな議題が上がるのは、全国広しと言えども来神高校だけだろう。





「昨日。二年生主任の高橋先生が胃潰瘍で入院した」

茶髪茶瞳平均身長よりやや低く、童顔を気にしている三十路近い青年教師。
担当科目は英語で授業は分かりやすく、質問にも丁寧に答えてくれるので生徒からの信頼は篤い。英語以外にもイタリア語を流暢に話し、留学経験もあるとかないとか。イタリアの風景の事を話す時があるので、行ったことがあるのは間違いない。
独身。モテるわけではないが、優しく、親しみやすい性格から人望はある。
それが、来神高校教師、沢田綱吉の大まかなプロフィールだった。そう、『だった』なのである。
去年から、そのプロフィールに新たに加わった事がある。

『平和島静雄と折原臨也の担任』

彼等を知る者がそのプロフィールの内容を知った時の反応は様々である。
目を反らす者。
黙って手を合わせる者。
どうにか笑おうとして失敗する者。
驚愕の目を向ける者。
同情の目を向ける者。
うん、ろくな反応がない。

今、その二人は水浸しで沢田綱吉教諭の前で正座している。脇には割れた水風船の残骸が転がっている。
場所は校庭。だが、いつもの校庭の姿はそこにはない。
死屍累々と積み重なる不良達(もう少しで保険教諭が涙目でやって来るはず。保険教諭が逃げなければ)。
校庭に面している窓ガラスは割れていて、地面も数多く抉れている(また業者さん呼ばないと)。
引き抜かれて折れ曲がっている表札(市役所に謝りに行くの何度目だっけ)。
遠くから、此方からじゃその子の顔も判別できないくらいに遠くから恐る恐る様子を窺っている生徒達(怖い物見たさって奴かな。若いなぁ)。
それはいつもの校庭の姿ではない――最近、日常になりかけているが。

「もう髪も大分薄くなっていたよ、気の毒に。はい、ここで問題だ、平和島、折原」

綱吉の額にはピキリと青筋が浮かんでいる。

「高橋主任の入院の原因を述べよ」

静雄が少し悩んでから答える。

「食生活?」
「高橋主任は愛妻弁当だ。俺も玉子焼き貰ったことあるけど美味しかった。バランスも考えられていた」

臨也が顔に余裕を浮かべながら答える。

「娘さんが質の悪い男に騙されたって噂ですよ」
「その質が悪い男が黒髪の高校生くらいの美男子だって噂も知ってるか?」

静雄と臨也。並んで正座をしていると言っても、二人の間には三人分ほどの距離がある。隣になんか彼等は死んでも並ばないだろうし、綱吉も隣同士にしたら何をするか分からないので説教は何時もこの距離である。

「まぁ、理由は一言で言えば、十中八九『この状況』だろう」

綱吉は呆れた様に右手で額を押さえて大きな溜め息をつく。

「お前等なぁ、もう高校二年生だぞ?ちょっとは我慢を覚えたり、成長したりしろ」
「はは、沢田先生。静ちゃんが一年で成長するわけがないじゃないですか」
「んだと臨也……」
「はいはい落ち着け平和島。これ以上は不味い。反省文や謹慎とかじゃ済まなくなる」
「静ちゃん作文ヘタだもんね」
「折原は先生が涙するほどの名反省文を書いた二日後に再び平和島と喧嘩するな」
「喧嘩なんて人聞き悪い。静ちゃんが一方的に殴ろうとするだけですよ」
「てめ、臨也ぁぁぁぁぁ!」
「だから落ち着けって。それと折原。それはそのナイフを仕舞ってから言え」
「いやだなぁ、護身用ですって」

この来神高校で臨也のその言葉を信じるのは臨也の信者だけだろう。その信者が一人や二人ならば兎も角、綱吉達教師も把握できないほど多く、広範囲にいるのだから困ったものだ。

「あ、いたいた、沢田先生」
「あれ、岸谷。保健教諭の先生はどうした?」
「呼びに行ったんですけど、副教諭のシャマル先生しかいませんでした」
「……いない?」
「行き先も書いていませんでした」

綱吉は静雄と臨也の(たぶん)友人であり、同級生でもある岸谷新羅。彼に保険教諭を呼びに行ってもらったのだが、新羅から返ってきたのはいないという答えだった。
保険教諭は保健室にいるのが通常である。また、退室する場合でも行き先を保健室の扉の前に記しておくことになっている。それが無いと言うことは……。

「二年目にして逃げたか……」

去年から明らかに増えた保健室の利用者。本来ならば保険教諭が巡り会う可能性が低い種類の怪我の手当をし、それでも一年は頑張ってくれたあの人も遂に逃げてしまったか。
因みに残っていたというシャマル教諭は女しか診ないと言うお前早く教師辞めるか訴えられるかしろと言いたい奴なので、此処には連れてきても意味がない。
と、すると……。

「岸谷」
「生徒にやらせて良いんですか?」
「他の先生には黙ってるから。今度ラーメン奢るから。お前手際良いじゃんか」
「はいはい。因みにラーメンはいいです。帰ったら温かいご飯が待っているんで」

そう言って新羅は積み重なっている不良達に近付いて応急処置を開始する。もはや応急処置のレベルではないが、綱吉は深く訊かない。そう言うところが二年目も彼等の担任にされてしまう要因になっているのだが、綱吉は幸か不幸かそれに気付かない。

「あーあー、また怒られる」
「減給か、沢田」
「三回目ですね、沢田先生」

来神高校教諭、沢田綱吉は青空の下叫んだ。

「誰のせいだ、誰のぉぉぉぉぉ!!」

彼等の担任であった三年間。沢田綱吉の胃に穴が開くことはなかった。





最近の高校生って皆あんなんなのだろうか。
いや、違うはずだ。俺が中学生の時も、扉があってない様なボクシング部部長やダイナマイト所持している銀髪や十キロ息一つきらさず走る野球部エースや暴君不良の風紀委員長様が君臨していたし。
うん。若者は昔からあんなんだった。







**********

『無色アサリで来神組とツナの学生&先生時代』
のリクエストでした。

門田は無理でした。きっと彼は基本我関せずでたまに巻き込まれている感じです。
こんな彼等でもバレンタインとかになるとチョコ貰うんだろうな……。
あ、シャマルは何となく出しただけです。きっと登場確率は限りなく低い。

リクエストありがとうございました。



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