第六話
 



「どうだ、雲雀君。江戸での暮らしには慣れたか?」
「…また来たの、貴方。何度言われてもテロリストに借りを作る気はないよ」
「テロリストではない桂だ。そう言うな。君がこの世界に来た時に初めて会ったのが俺の仲間だったのも、何かの縁だろう」
「群れた上に銃刀法違反だったから咬み殺しただけだよ」

桂は宿屋の一室に泊まる雲雀を訪ねていた。
桂は何時もの様に僧に扮し雲雀の前に座っているが、雲雀は彼に見向きもせず、何枚かの資料と思われる紙を読んでいる。恐らく、雲雀を「委員長様」と呼ぶこの世界での部下に集めさせた情報を纏めた物だろう。

「僕の所より、沢田綱吉が居候しているって言う万事屋の所に行ったら。彼なら頼みを断らないんじゃない」
「銀時か。アイツも侍として堕落した生活を改めて欲しいものだ。やれイチゴパフェやら、やれイチゴ牛乳やら。侍は質素に……」
「五月蝿いよ。一人言なら一人の時に一人でやりな」

雲雀は桂の台詞を一刀両断して断ち切った。勿論、視線は資料から動かされる事はない。

「ヅラ、ヅラ、ウルサイ」
「ヅラじゃない桂だ。と言うか、何故ヒバード君がその呼び名を知っている。誰から聞いたのだ」
「ヅラ、ヅラ、ウットウシイ。ソノヅラトレ」
「鳥にまで言われただと!?ヅラじゃない鬘(かつら)だ!文字変換が違う!?わざわざ読み方をカッコで書くな!地毛だ!」
「……本当に一人で何を言っているの」

雲雀は漸く桂を見る。それも、可哀想なモノを見る目で。

「み、見るな…そんな目で俺を見るなぁぁぁぁぁ!」

桂は頭を振り回してその視線を拒絶する。後ろに控えているエリザベスが『大丈夫です桂さん。貴方は何時もの桂さんですよ。』とプラカードを出しているが、それにも気付いていない。

雲雀はその様子を一瞥し、一つ溜め息を付いて言った。

「その鬱陶しい髪を切って出直して来な」
「デナオシテキナ」

ヒバードの鳴き声と、桂の「ぬぉぉぉぉぉ」と言う叫びが宿屋の一室に響いた。





「ほう……これはこれは。服装から古い時代を想像していましたが、これは驚いた。科学技術は此方の世界の方が高い様ですね」
「お前の世界にはないのか?」

薄暗い船内で、骸は驚きの声を上げる。隣に立つのは危険な笑みを浮かべる高杉。彼等の目は一つの装置に向けられていた。
否、装置の中に位置する――一降りの刀に。

「生きた刀……正しく妖刀と呼ぶに相応しい」
「まだ試作段階だが、完成するまでそう時間は掛からねぇだろう」

ゆっくりと、鼓動しているかの様に刀から漏れる光は一定に輝きを変えている。
骸は装置に触れ、ガラス越しにその刀を眺めた。

「何より、この輝きが気に入りました。まるで血が己の存在を主張しているかの様だ」

骸は高杉に振り返る。その顔には楽しげな笑みが浮かんでいた。

「情報を提供して頂いた借りもありますし、何より興味がある。暫くは協力しましょう」
「くくっ……そうか。退屈はさせねぇぜ?何て言ったって、江戸中を巻き込む祭りだ」

高杉も刀と骸を見て笑う。

「それで、この刀の名は?」

高杉は目を口角を上げ、その名を告げた。



「妖刀――――紅桜」



紅桜は、応える様に紅く輝いた。




物語は、少しずつ動き出す。







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