伏見は目を閉じる《9》

「あのな、アンナ……」
「ダメ」
「…………」
「ダメ」
「何も言ってねぇよ」
「言ってなくても分かる」

アンナは感情を顔に出す事が少ない。顔の変化が分かりづらいと言うか、変化が分からないのも多い。
しかし、彼女は喜怒哀楽を持ち合わせている子供であるのは間違いない。慣れれば、「あ、喜んでる」「何に怒ってんだ」と気付く事も出来る。
そして、彼女は頑固である。それも子供らしくなかなか考えを変えないかなりの。

「……下。今、誰がいる?」
「ミコトとイズモとタタラ」
「吠舞羅幹部勢揃いじゃねぇか……」
「あと、ミサキがイズモに怒られてる」
「…………」

どうせ美咲は一人で突っ走ったのだろう。それか、突っ走ろうとしたか。短気な彼では前者の方が可能性が高い。美咲が怒られているのは何時もの事だしな。

「デ……鎌本は?」
「リキオ達は情報しゅ……し、知らない」

鎌本は情報収集で出ているらしい。
他の吠舞羅メンバーがいる感じではないので、全員で情報をかき集めているのだろう。

今回の襲撃で吠舞羅にも被害者が出たのだ。他の奴等も報復の為に全力で探す。
短い時間で、それも吠舞羅だけでも四件。たとえ他のチームが被害を受けていないと考えても、襲撃の間隔が今までよりも明らかに短い。頻度が多ければそれだけ目撃情報も集まりやすくなる。襲撃犯の詳しい情報が判明するのも時間の問題だろう。

「アンナ」
「ダメ。イズモも、熱が下がらないの心配してた」
「……ちっ」
「ミサキも、何度も見に来てる」
「ちょっと風邪引いたくらいで、何やってんだよ」
「ちょっとじゃない。サルヒコ、二日寝てた」
「…………は?」

割れた眼鏡の隣に置いてある、自分の端末を手に取る。草薙が充電をして電源を切っていたのだろう。それは電池切れを起こしていることもなく、電源も問題なく入る。
其処に映し出された日付は、アンナの言う通り記憶にある日付よりも二日経っている。自分が『HOMRA』からの帰路の途中で襲撃されたのは土曜日。しかし、端末に映し出されている曜日は月曜日。

「マジかよ……」
「今は熱、下がった?」
「いや、まだ少しだるいけど……」
「運ばれて来た日と、昨日。もっと酷かった。イズモがお医者さん連れて来た」

草薙がわざわざ連れて来たと言う事は、一般の医者ではないだろう。クランズマンやストレインについても把握している、所謂闇医者。伏見自身も草薙の顔の広さがどこまでだかは知らない。

「サルヒコは、動いちゃダメ」
「…………」

アンナの顔の変化が、最近では少しずつ分かる様になってきた。
彼女は不安なのだ。自分の近くにいる誰かがいなくなる事が。それは、彼女の今までを考えれば仕方のない事だろう。

「アン……」
「伏見ー。起きたー?」

部屋に入ってきたのは、吠舞羅最弱の幹部だった。



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