伏見は目を閉じる《6》

外は雨が降り始めていた。
『HOMRA』を飛び出した時は小降りだったそれは次第に激しくなり、数分もすれば土砂降りになった。
傘何ていう気が向いた物は持って来ていなかった。店に戻れば幾つか置いてあるだろうが、その手間が惜しい。
胸に宿るは焦燥。その焦燥は大きくなるばかりで、心臓の音は五月蝿い。息も荒くなる。おかしいな、何時もはこんなに早く息が切れる事はないのに。

彼奴の家までの帰路をひたすら走る。大通りを外れれば人気は減っていき、走るスピードも自然と上がっていく。

「……はっ……」

彼奴が『HOMRA』を出て、そんなに経っていなかった。歩いて帰っているだろう彼奴には、もうじき追い付くはずだ。もしかしたらこの雨で何処かの店に入っているかもしれない。それならそれで良い。ただ自分が雨に濡れたってだけだ。

俺が馬鹿みたいに不安になって先走った行動取っただけで、彼奴は雨に面倒くさくなってタクシーでも拾って、それで悠々と家に帰っていて。息切らしながらびしょ濡れになっている俺を呆れた顔で見て、「何馬鹿やってんだ、美咲」何て言って。きっとタオルでも顔に投げてくるだろう。ありがとう何て間違っても言わないだろうし、別に言われたくてやってる訳じゃないが。
彼奴のそんな態度は少々ムカツクが、それは吠舞羅を襲撃したって奴に三倍にしてぶつければ良い。

走って。走って。全速力で走って。

「……はっ……はっ……」

人気のない曲がり角を速度を落とさないまま曲がったら、視界に入ったのは不自然な落とし物。
タッパーに入った草薙お手製のリゾットが、無残に落ちていて。
その先に雨に打たれながら頭から血を流して倒れていたのは、自分が探していた人物だった。

「猿比古!!」

彼奴は返事をしなかった。



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