伏見は目を閉じる《5》

草薙は半ば無理矢理になったが、伏見にまともな食べ物を腹に入れさせる事に成功した。
本当は野菜たっぷりふんだんに使った料理を食べさせたかった。しかし、それでは最悪偏食家の伏見は食べない可能性もある。体調が良くない伏見と神経を使う無言の駆け引きをする気はないので、作ったのは卵がゆである。
伏見は何時も通り「チッ」と舌打ちをしたが、大人しく食べた。小腹が空いたと言って十束や八田も食べたが、多めに作ったので問題はなかった。まったく、自由な奴等である。

「伏見、ちゃんと食べるかなぁ」
「レンジで温めるだけやろ」
「でも伏見だよ?」
「いくら伏見やて、それくらいは……」
「でも、伏見だよ?」
「……伏見やな」
「……」
「……」

伏見が、レンジで食べ物を温める。自分で料理を作るよりは現実的だ。持たせたのはタッパーに入れたリゾットで、温めれば食べられる。
ただ、明日来た時に食べたかどうかの確認は必要だろう。彼は面倒くさがる可能性もある。それに、また食べさせるのも。

「まぁ、それよりも近々起きる紛争の事や」
「あ、やっぱ起きる?」
「九割五分の確率で起きる」

草薙は断言した。それ程に紛争の気配は日に日に強くなっていっている。何を切っ掛けに勃発するか。

警察では解決出来ないだろう。草薙はそう考えていた。警察には、この犯人は荷が重いだろう。
紛争の原因となっているのは、この近辺のチームの組員が襲撃を受けているというものだ。
死者こそ出ていないが、数が多い。吠舞羅はまだ襲撃を受けていない数少ないチームだが、それも時間の問題だろう。注意を呼び掛けているが、それは他のチームも同じだ。
情報は集めている。しかし、襲撃者の目撃情報が明らかに少ない。後ろから攻撃を受けたにしても、もう少し多いはずだ。
しかし、例外がある。

「それって、ストレインの仕業?」
「多分そやな。死者がいなくとも、負傷者の数が数や。セプター4は解散してしもたし、どうなるか」

アンナの一件の後、セプター4は解散した。未だ事後処理を行っているので存在はしているが、ストレインを取り締まる力は残っていないだろう。
草薙は端末を取り出した。新しい情報が入ってきていないか確かめる為だ。そこにはやはり、セプター4が動くという情報はない。

「大事になれば黄金の王も動き出すやろ」
「あー。『ウサギ』さん?」
「何か十束が言うと親衛隊も間抜けに聞こえるわぁ」
「ちょ、草薙さん酷い!」

十束はそう言うが、全く傷ついていないのが分かる。

「でも、そうなる前に落ち着いて欲しいよね。これじゃ、アンナと買い物にも行けない。折角新作の洋服が出たって言うのに!」
「赤い?」
「赤いよー。セットの髪飾りは綺麗な赤い薔薇なんだ!」

二階から降りてきたアンナが十束の話に加わる。その後ろからは周防も降りてくる。遅いお目覚めだ。

「おはよー、アンナ、キング!」
「遅よーさん、二人共。何飲む?」
「赤いの」
「……コーヒー」

草薙は二人の希望通り、アンナにはブラッディオレンジ、周防には濃い目のコーヒーを出した。
十束はそれを見て、寝起きの二人をカメラに収めようと笑顔で席を立った。

「草薙さん!」

荒々しい音を立てて扉を開け、吠舞羅のメンバーである青年が入ってきた。
店の扉を乱雑に扱われて密かに青筋を浮かべる草薙は、その青年の姿を見て表情を変えた。
彼は人を背負っていた。それは彼とよく一緒にいる吠舞羅のメンバーだ。彼等は一目見て分かる程、小さな傷が多かった。

「どないした!」

聞くまでもなかった。



「襲撃を受けました!」



思い浮かんだのは、体調が悪くて、でも誰かに送られるのは面倒だと言って『一人で』帰っていった不機嫌そうな仲間だ。

「八田!」

八田美咲は、十束の呼び掛けに振り返る事なく『HOMRA』を飛び出していた。



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