伏見は目を閉じる《4》

「何か、最近は特にピリピリしている所が多いし。その内大きな騒動が起きるかもしれないから、体調はしっかりしとかないとね」
「アンタがそう言うなんて、珍しいですね」

十束は良くも悪くもポジティブである。何とかなる。それが口癖で、彼のその言葉を聞くと本当にどうにかなりそうな気がしてくるから不思議だ。
その十束が大きな騒動が起きる可能性があると言っているのだ。今の状況はそれ程マズイのだろう。事実、伏見もそれを感じていたし、キナ臭い情報も耳に入ってくる。
吠舞羅は恨みを多く買っている。それは逆恨みから、チームを潰された報復まで数多く。それでも吠舞羅は強大な力を持つクランズマンが構成員だ。襲われても撃退または逃走するだけの事は出来るから、襲われて瀕死の重傷、なんてものにはそうそうならない。
しかし、今の一瞬即発の雰囲気ではその襲撃が過激になる可能性が高い。これから状況が改善されるまで一人で行動をしないように、今日にでも草薙からクランズマンに指示がいくだろう。

「伏見が強いのは知ってるけどさ。やっぱり体調悪いって聞くと心配も大きいじゃない」
「別に悪くありません。それに、俺より自分の心配したらどうですか」
「ハハハ。俺はとっくに草薙さんから一人にならないように指令を賜っているさ!」
「威張る事じゃないです」

両手を腰に当てて胸を張る十束は何処か誇らしげだ。
まぁ、草薙の指示は当然だろう。十束は弱い。最弱だ。もし一人の時に襲われたらひとたまりもない。

「風邪は引き始めが肝心だって言うし。草薙さんが言うように栄養あるもの食べて、大人しく休むと良いよ」

十束はそう言って笑う。
この人の笑顔は苦手だ。一見何も考えていないように見えるのに、本当はそんなことはない。この人は何を考えて笑っているのだろう。

「……分かりましたよ」

こんな立て続けに休めと言われたら、逆らう方が遥かに面倒だ。
別に何をしたくて『HOMRA』に来た訳でもない。
伏見はまた一つ小さな咳をして、癖になっている舌打ちをした。



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