伏見は目を閉じる《1》

バー『HOMRA』に来なければ良かった。此処に来たのが始まりだったのだろうから。

朝から身体はだるい気がした。でも最近は快調という方が少なかったから気にしなかった。別に、何時もの事だ。そう思って一つ咳をして、伏見猿比古は家を出た。
伏見は『HOMRA』を訪れてからも何時もと変わらなかった。八田は鎌本と一緒にゲームをやっている。草薙は鼻歌を歌いながらカウンターの中でグラスを磨いている。周防はいつも通り二階でまだ寝ているし、アンナも同様。十束はソファーで昼寝中。そんな中で伏見はつまらなそうに小説をペラペラと捲っている。

「けほっ……」

小さな咳だ。癖になっている舌打ちの方が目立つくらいには。それでも気付くウザイ奴が吠舞羅には多過ぎる。

「猿比古」

顔を上げれば、そこには白い湯気が登っているカップを二つ持った八田が不機嫌そうに立っていた。

「……んだよ」
「ん」

八田はそれだけ言って、右手に持っていた方のカップを伏見に差し出した。

「草薙さんから」

ここで受け取るのを断れば、八田は何時も通りきゃんきゃんと吠えて、何時も通り口喧嘩に発展するだろう。それはそれで悪くはないが、生憎今はそんな気分ではなかったので、素直にそれを受け取る。
八田は伏見が何も言わずにカップの中の蜂蜜入りのホットミルクを飲んでいるのを、監視するかのようにじーっと見ていた。

「……んだよ」

伏見は呼び掛けられた時の言葉を再び吐き出す。ちゃんと飲んでるだろ。言外にそう言いたそうに横目で八田を見る。

「お前、ちゃんと食ってんのかよ」

八田は己の分のホットミルクを飲みながら言った。



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