森宮莉子は突き進む。 | ナノ
カメとラクダとサイが買い物をしています。何を買うのでしょうか。
「莉子せんぱぁい、差し入れでーす」
「ありがとう」
教養サークルの発表が終わるなり声を掛けてきたのは高野さんである。
彼女は時折こうして差し入れしてくれる。一度、何か目的があるのかを聞いたけど、本人には「ありませんよー」と笑われた。
じゃあ何故こうして差し入れしてくるんだ。彼氏がいるから男を紹介してほしいとかそういうのではなさそうだし。学部の違う同性の先輩と仲良くなっても得することないのにな。
「莉子、これもみんなで分けて食べてくれ」
「久家くんもありがとう。みんなぁ差し入れが来たよー」
高野さんに続いて差し入れの入った紙袋を差し出したのは久家くんだ。
君も律儀な奴だな。
2人から差し入れを受け取ると、会場内で来場客のお見送りやら片づけをしていたメンバーに声を掛けた。すると彼らはわぁいと嬉しそうに近づいてきて、差し入れをくれた両者にありがとうございます、いただきますと声を掛けていた。
高野さんは手作りのアンドーナツとカレーパン詰め合わせで、久家くんは有名洋菓子店の詰め合わせだった。
いやぁ、なんか悪いねぇ。手ぶらでいいと前もって言っておいたんだけど……気持ちなので遠慮せずに頂いた。
「一日百円生活してるから、差し入れが尚更美味しい」
その中で北堀くんは一口一口を噛みしめる様にして頂いていた。
「食費が逼迫してるの?」
彼は毎月食費ピンチに陥っているので、いつものことかと思っていると「資格試験の検定料が思いの外高くて」と回答が返ってきた。
なるほど、そっちか。
「なに受けるの?」
「公認会計士だよー」
「すごいね、頑張ってるじゃん」
「就職のためだからね」
へらりと笑って返された。公認会計士の試験科目は経済学部の科目と一部被っているのだそうだ。
そうか、他の学部の3年はもう既に就活モードなんだ。私はまだまだ学生期間が続くし、就職を考えるのはまだ先のことだと思っていた。
同じ年のはずなのに意識が違う。北堀くんがしっかりしているように見えた。
「これ、あげるよ……貰いものだけど」
「わっやなぎ屋食堂の半額サービス券! いいの!?」
「お金に余裕のある時食べておいで……」
真歌にもらった特別クーポンだが、目の前の腹減らし君を見ているとなにか施しがしたくなった。現金でも食べ物でもないが、北堀くんは大喜びしていた。
それを久家くんがじっとみていた。
頑張っている北堀くんに感心しているのかなと思ったら、北堀くんがクーポンを胸に抱きしめて「あげないよ?」と警戒していた。
「……別に欲しくない」
「嘘だ! じっと見てたでしょ俺のサービス券のこと!」
何の争いだ。
北堀くんが子育て中の母猫よろしく久家くんを警戒するものだから、私はもう一枚クーポンを取り出して彼に握らせておいた。すると久家くんは微妙な顔をしていた。
無駄な争いはやめるんだ。
今年も大学祭で私は教養サークルの一般発表会を行った。
去年同様、発表テーマに興味のある人が参加費を支払って参加する方式なので目立ったトラブルもなく、発表を終えた。
地味でまさに勉強大好き集団の集まりのような教養サークルではあるが、普段はあまり接点のない人間同士が関わり合い、お互いの知識欲を刺激し合うこの集まりはいろんな人に影響を与えていると思う。
私で言えば、プレゼンするために簡潔にわかりやすくまとめるのが上手になった。そのことは初期メンバーも同意していた。後輩の子は前まで緊張でうまく話せなかったけど、今では人前でもちゃんと話せるようになったと言っていた。
突然参加の教員たちとの交流を深めることで人脈も広がる。それによって別分野の知識や視野も広がっていくのだ。
北堀くんに提案されて何となく作ったサークルだけど、今では作ってよかったと思える。
◇◆◇
大学祭終了後は恒例の後夜祭が開催され、私も友人と参加した。(※真歌は例にもれずバイトで不在)
『後夜祭今年の目玉イベントは豪華賞品を賭けたクイズコーナーです!!』
基本私はこういうイベントごとは不参加、もしくは後方から眺める方なのだが、今回の後夜祭で行われるイベントの賞品を知った後、すぐにエントリーした。
意外そうな顔で見てくる友人たちに見送られてステージへと上がる。ステージ上にはクイズに自信ありな猛者たちがずらりと並んでいた。
『お次の方、所属とお名前は?』
イベント司会が右から順に参加者の名前を聞いてくる。自分の番になったとき、私は自信満々に答えた。
『医学部医学科3年森宮莉子です』
いつになくやる気の私は、勝ちに行く気満々だった。
クイズイベントは挙手形式だ。即答がものをいう勝負である。
『第1問、いま、なんじでしょうか?』
デデン、という効果音の後に司会が問題文を読み上げた。
すると出場者はポケットのスマホをポケットから取り出したり、スマートウォッチで時間を確認していた。
「はい!」
私はノールックで手を挙げる。
これはひっかけ問題である。
『では森宮さん』
『にじ、です!』
これは今の時間ではなく、【いま】がなんじ(何字)なのかを聞いているのだ。
『正解! 森宮さんに1ポイントです』
それにえぇぇー! と周りの参加者からブーイングに似た声が飛んできた。
もしかしたら、何故その解答になるのかを理解できていないのかもしれないな。
『では第2問参ります、100を半分で割って、1を足しました。いくつになるでしょう』
「はいっ!」
「はい」
同時に手を挙げたのは経済学部の男子学生だという身体の大きな男子だった。柔道部に所属しているとかなんとか自己紹介で話していた。
『大久保君のほうが若干早かったですね。では大久保君、解答どうぞ』
『51!』
『ぶぶー違いまーす』
『はぁ!?』
またもやひっかけ問題に引っかかった哀れな参加者が非難交じりの声を上げていた。
『では森宮さん、解答をどうぞ』
最初に挙手した人が不正解だったので、次に私へ解答権が移った。
マイクを口元に持ってこられたので私は自信満々に答える。
『3です』
『またもや正解です!! 森宮さん現在2ポイントです。他の皆さんも頑張ってください』
そう、この問題は半分【に】ではなく、半分【で】割らなくてはならないのだ。
100の半分は50。100÷50=2で、それに1を足すと3になるというわけである。
愕然とした他の参加者を置いて、司会者は進行を続けた。
『第3問! リンゴ・ミカン・バナナを積載したトラックが急カーブで何かを落としていきました。何を落としたでしょうか!』
「スピード!!」
『おっと大久保君、挙手せずに答えるのはお手付きですよ。しかし正解なので、ここは特別に1ポイント進呈いたします』
手を挙げかけたらその前に答えられてしまった。
今のは簡単だったもんね。悔しいけど、まだ私に分がある。
『それでは次から難しくなりますよ、第4問──』
それまでは小学生でも解けそうなひっかけ問題だったのに、難易度が上がった。
しかしこれまで勉強に打ち込んできた結果が現われた。
わかる、わかるぞ。勝てるこの勝負。私がもらった──!
『優勝は医学部医学科3年の森宮莉子さんです! いやー、ぶっちぎりでしたね!』
『勉強は得意なんです』
『流石医学部生ですね! では優勝者の森宮さんには当大学食堂で使用できる1年間のフリーパスカードをお贈りいたします』
ミス大学っぽい綺麗なお姉さんが賞品が乗ったトレイを持ってこちらに近づいてきた。
私はお礼を言ってそれを受け取る。
フリーパスカードには自分の顔写真を貼り付けしないといけないみたいだ。悪用防止のためであろう。履歴書の証明写真の余りでもいいだろうか……
……戦意喪失していく参加者の中で、例外的に最後まで諦めなかった男子学生が膝をついて悔しがっていた。本当にこの賞品が欲しかったんだね……
悪いね、これは頂いていくよ。ペンは剣よりも強しなのだ。
←
|
→
[ 58/107 ]
しおりを挟む
[back]
×
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -