女児向けアニメの世界にモブ転生しました! | ナノ
お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう【完】

「こら、どこを見ている」
「むっ」

 私がよそ見をしているように見えたのだろうか。ぐいっと顔の位置を元に戻されて、がぶっと噛みつかれるようなキスをされた。触れるだけのキスではない。昨晩お情けを頂いている間にされた激しいキス。お互いの唾液を交換しあって、咥内を余すことなく愛撫されるメチャクチャな口づけ。
 私の後頭部を掴んで、喉奥まで舐め回すようなキスをしてきたプリンス様。私は苦しくて視界が涙で歪んだ。彼の胸を押し返して休憩を挟んでくれと訴えても、プリンス様は離してくれない。

「ぷぁ…っ」

 彼の満足行くまでキスを受け止めているとようやく解放してくれる気になったようだ。濡れた音を立てて唇が離されると、二人をつなぐ銀糸がつぅっと伸びた。

「……閉じ込めておいたのに、言いつけを破って城から飛び出したのだろう、ミュゲ。あれだけ抱いてもまだ余裕のようだな」

 …まさか、私を閉じ込めておくために私を抱かれたのですか…?
 でもそんなことにいちいち小言を言うほど偉くなったつもりはない。昨晩のことは一生の思い出にしようと思ったくらい光栄なことだったので。全然。むしろもっとお願いしますって感じである。

「黒薔薇のプリンス様、私は」
「城に帰ったら仕置きだな」

 黒薔薇のプリンス様は私をお仕置きをすると言った。なに、それって、またお情けをいただけるの…!? やだ私幸せ!
 呪いが解けたプリンス様は感情が豊かになって同時に表情にも変化が現れた。私に向けて色気のある笑顔を向けられて、ほわんと見惚れてしまう。無表情でも色気満々だったのに、感情と表情が加わったらもう…傾国の王子様じゃないですか!!

「やぶさかではありませんっ! 好きなだけ私をお仕置きください!」

 ご褒美うれしい! 私はプリンス様に抱きついて、今すぐにでもお仕置きしてくださいと甘えた。すりすりと甘える私の首筋にキスを落としてきたプリンス様。私は昨晩与えられた甘い痛みを思い出して身体がうずくのを感じていた。

「いちゃつくのは敵を倒してからにしてくださいよ、兄上」

 しかし、そこに邪魔が入る。白百合のナイトである。

「邪魔をするか白百合ぃぃ…!」
「君本当、私に失礼だからね?」

 それとこれとは別だ。私とプリンス様のいちゃつき時間を邪魔する白百合のナイトはどこまでいっても邪魔者なんだ…!

「敵に囲まれました」

 プリンセスコスモが辺りを警戒して身構えている。
 ダチュラ伯が亡きものになったとしても、奴の信望者は最後まで足掻くつもりのようである。ずらりと私達を囲む第三勢力の面々が殺意の眼差しで睨みつけてきた。

「皆のもの、ダチュラ伯爵様の敵討ちだ!」
「奴らの首を奪え!」

 首領を失った第三勢力の生き残りたちがおのれに喝を入れるために叫ぶ。奴らの狙いは国の乗っ取り。一国の王子に呪いをかけさせ、国民にその影響を与えて国を荒らすというやり方で。
 国が欲しいなら表から正々堂々と簒奪宣言して戦争起こせば、黒薔薇のプリンス様は相手してくれるだろうに、なぜ年単位の時間をかけて国を堕とすような回りくどいことをするのか。
 転生する前から不思議だったけど、今も理解できない。

「させるか」

 先程まで甘々な表情を浮かべていたはずのプリンス様が無表情で炎の魔法を放つと雑魚たちを蹴散らす。
 「ぎゃー」とか「燃えるぅ」とか敵側の悲痛な叫びを聞きながら、白百合のナイトとプリンセスコスモも武器を構えて敵に特攻していたので、私も持ってきたレイピアを手に、プリンス様の背後を守る。
 黒薔薇のプリンス様は無詠唱でその場からあまり動かずに、魔法を華麗に操って敵だけを殲滅していく。無関係の国民には当たらぬよう調節している辺り流石である。その戦いぶりがとてもかっこよくて私はうっとりしていたが、ここは戦場。気を引き締めねば。

『オ、オノレ…黒薔薇、呪ワレシ王子メ…!』

 どこからか聞こえた恨みのこもった声に私ははっとして辺りを見渡す。

「…無様な姿になったな、ダチュラ。往生際の悪いやつだ」

 呆れたプリンス様の反応。私は彼が見ている方向へ視線を向けてぎくりとする。──なぜなら、ダチュラ伯爵がそこに立っていたからだ。事切れたはずのダチュラの遺体へサッと視線を流して、そこにいるのを確認する。
 ……。えっ…幽霊ってこと?

 怨念を抱えたダチュラの幽霊(?)は恨みがましそうに黒薔薇のプリンス様を睨みつけていた。幽体の周りに黒いもやがじわりじわりと集まってきて、禍々しいオーラを放っていた。

『黙ッテ、死ンデヤルモノカ、オ前モ道連レダ』

 最後のあがきで怨霊化したダチュラは黒薔薇のプリンス様に危害を加えようとしていた。黒いもやがひと固まりになったかと思えば、プリンス様に向かって飛んでいく。

『呪ワレロ、黒薔薇。滅ビテシマエ』

 針のように降り注いでくるそれからプリンス様を庇おうと前に出ていくと、私は彼の腕の中へと抱き寄せられてチュッと唇にキスを落とされた。
 唐突なキスに私が目を丸くして固まっていると、彼は片手で振り払うようにして、ダチュラ最後の呪いをいとも簡単に振り払ってしまった。
 黒いモヤの塊は霧散してあっという間に消え去った。そんな、虫を振り払うみたいに呪いを……黒薔薇のプリンス様、しゅごい。わが推し、さすプリ。
 黒薔薇のプリンス様はニヤリと唇を歪めて不敵に笑う。やだ、その悪い笑みも素敵。

「残念だったな。私は母のように操られてやらないぞ」
『ナ、…ナゼ』

 最期の力を振り絞った渾身の呪いだったのだろう。はっきり視覚化出来ていたはずのダチュラの姿が煙のように消えていく。

「私の呪いは解けた──さっさと私の前から姿を消すがいい。ダチュラよ」
『ギィィ゛ア゛アアアア!!!』

 もしかして浄化のつもりなのだろうか。黒薔薇のプリンス様は炎の魔法をダチュラの遺体にかけていた。
 反逆者なのでどっちにせよまともな弔い方はされないだろうけど、骨まで残さず燃やしてしまわれた。ダチュラの残りカスが断末魔の悲鳴を上げている。まるで炎に巻かれているかのように。


「プリンセス・エターナル・ファイナリティアターック!!」

 プリンセスコスモのその呪文が唱えられたその時、目を開いていられない光が世界を照らした。
 私はプリンス様に庇われるように抱き込まれた。薔薇のいい香りを吸い込みながら、私は目を閉じて光から瞳を守る。
 そう、それはここぞという時に発揮されるプリンセスコスモ奥義。
 今まで一箇所にしか聖なる光を与えられなかったコスモが真実の伝説の戦士として覚醒した瞬間使えるようになる呪文なのだ。
 これが使えたらもう大丈夫だ。広範囲に照らされる聖なる光でこの世から瘴気そのものが払われるはずである。

「あれ…? 俺いままでなにを…」
「うーん…なんで私こんな場所で寝てるの…?」

 今まで瘴気に操られていた人がシラフに戻り、平常心に戻ったことでこの世から争いが消えた。他の地で操られていた人たちにもこの光が届いて正気に戻っていることであろう。
 あぁ。終わった…良かった。黒薔薇のプリンス様の死亡フラグが完全に折れた……

「兄上、やりましたね」
「お前のお陰だ」

 気が抜けた私がぼんやりしていると、目の端で黒薔薇のプリンス様と白百合のナイトが握手を交わしていた。

 アニメでは見ることのなかった兄弟の和解……アニメでの2人は奇しくも同じ女性を好きになった。
 愛憎が生まれ、プリンセスコスモを奪い合う骨肉の争いに発展していたはずなのに、フラグを折っただけでこうも変わるのか。
 うむ、仲良きことは美しきかな。
 

■□■


 世界に平和が訪れた。
 私が介入した影響かどうかはわからないが、プリンセスコスモのお母さんが第三勢力の手のものに暗殺されることもなく、訪れていた悲劇はなかったことになっている。
 おそらく、今回黒薔薇のプリンス様の側にいたのが私だったため、ターゲットが変わったのだろう。アニメでコスモの母女王が毒で殺されたのは、プリンス様がコスモに執着していたからだし。

 第三勢力はなんとしてでもプリンス様を闇堕ちさせたかった。なるべく手を汚さずに陥れたいと考えていた彼ら。だからプリンス様に近しい存在を傷つけて揺すろうとしたのだ。
 鞭打ちの拷問はめちゃくちゃきつかったけど、私の存在のお陰で隣国の女王の命が助かったのなら良かった。

 
 私は黒薔薇のプリンス様の靴磨き係を外されてしまった。てっきりお妾さんにでもしてもらえるのかなぁと期待していたんだけど、そうじゃなかった。
 何故か私は今、黒いウェディングドレスを着用してチャペルにいた。

「兄上、ご結婚おめでとうございます」
「おめでとうミュゲさん」

 国賓としてやってきたプリンセスコスモと、親族側として参列している白百合のナイトが拍手でお祝いしてくれた。
 ……いやいや、プリンセスコスモなんであんたそっちに居るの。私の居場所にヒロインが居るはずなのになぜ……私の黒薔薇のプリンス様幸せ化計画頓挫してるじゃないのよ。

「ミュゲ様の深い愛が王子の呪いを解いたぞ!」
「ノワール王国に栄光あれ!」
「谷間の姫百合、万歳!」

 なぜ、私が黒薔薇のプリンス様のお妃様になることになってるんだろう。
 第三勢力との戦いが終わり、平和の道へと歩み始めたこの国を立て直すために黒薔薇のプリンス様は次期国王として精力的に働いておられた。そして私は彼の側で侍っていただけで……プロポーズされたわけでもなく、「結婚式はこの日」と言われ、よくわからないうちに準備されていたという…

「ミュゲ」

 誓いの儀式中もなぜ? どうして? と混乱していた私は上の空状態であった。いや、嬉しいんだよ? とっても嬉しい。でも理解が追いつかないと言うか。
 私の着ているウェディングドレスは黒なのに、ベールだけは白い。あぁ、ベール越しに見るプリンス様も麗しい。こういう儀式用の衣装っていうの? 彼の魅力を200%マシマシで素敵に見せて今日だけでも30回くらい惚れ直した。はぁ、好き。
 彼の手がベールの端を持ち上げ、私の視界はクリアになる。素晴らしく美しい彼のご尊顔をうっとり見つめていると、プリンス様は熱のこもった瞳で私を見つめ、レースの手袋をした私の手の甲に口付けを落とした。

「お前は私のものだ、ミュゲ。──私の妃よ、決して滅びることのない愛をお前だけに誓おう」

 まさかの口説き文句。それこそプロポーズに私は驚愕した。
 驚きと嬉しさと恐れ多さとこれは私が見ている夢ではないかという感情がせめぎ合う。あぁでも夢でもいい。こんな幸せな夢なら大歓迎だ。

「黒薔薇のプリンス様…」
「リヒャルトだ。そう呼べ、妃よ」
「りひゃると様」

 恐れ多すぎて呼べなかったそのお名前。呼び慣れない彼の名を呼ぶとちょっと舌足らずになってしまった。
 そう言えば彼のお名前を面と向かって初めてちゃんと呼んだかもしれない……

「愛している、ミュゲ」

 黒薔薇のプリンス様もといリヒャルト殿下は甘い甘い笑顔を浮かべて私に誓いのキスをくれた。私は嬉しくて嬉しくてボロボロ涙を流しながら、彼に愛の言葉を贈り返す。

「私の最愛のひと、私はあくまで貴方のものなのです!」

 貴方に永遠の愛を誓いますとも! 愛しの黒薔薇のプリンス様!



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