リナリアの幻想 | ナノ

あの晩のやり直し 【完】

 ルーカスの愛撫は丁寧だった。
 あの日の晩よりも更に丹念に私の体を開いていった。
 私の反応を見ながら高みへ連れて行ってくれる彼の優しい行為に私は酔わされていた。

 しっかりほぐされた秘部はもうしっかり準備万端なのに、ルーカスはまだ私と一つになろうとはしない。
 おそらく私との初体験の後のこじれが尾を引いているのだろう。痛みを与えたら私からまた怯えられると思ってこんなにも丁寧に抱いてくれているのかもしれないが、お預け状態もなかなかの拷問だ。

「ルーカスっ! 欲しいの、もう指だけはいやぁ…!」

 愛撫だけに焦れた私から頂戴と言う羽目になった。
 はしたないのは重々承知だけど、もう限界だった。お腹の奥が切なくて欲しくて苦しかった。

 私のおねだりに息を呑んだルーカスはベッドに横になっている私の顔中にキスを落とした。彼の唇は私の顔の至るところを掠り、最終的に唇へたどり着いた。
 柔らかく唇を喰まれ、その感触を味わっていると、足の付根に灼熱の塊が押し当てられた。待ち兼ねていたそれに体が震える。私が早く早くと腰を動かしてこすりつけると、ルーカスは私の欲しがっているものをようやくくれた。
 熱い、お腹の奥から熱が移って体温が更に上がる。

「…ずっとこうしたかった。あなたに抱かれたかったのよ」

 私の体の上に重なった彼の背中に腕を回して力を込める。熱い彼の肌が私のそれとくっついて気持ちがいい。

「僕もさ。リナリア」

 私を傷つけないようにゆっくり腰を動かすルーカス。私はか細く、歓喜の声を漏らした。
 なんて幸せなの。こんなに幸せなことってない。

 私の乱れる姿に彼も気分が乗ってきたのか動きがどんどん激しくなった。私達はすべてを忘れて夢中になってお互いを求めあった。

 空白期間を埋めるかのように、彼と何度交わっただろう。
 周りのことなんか忘れて行為に没頭していた私達は、心地いい気だるさに身を任せてベッドに沈んでそのまま疲れて眠っていた。




 ふと目が覚めると外は薄暗く、今が朝か夜か分からなかった。
 私は重い腰を引きずり、窓辺の薄手のカーテンを開けたが、紫色の空を赤く染めようとするあの太陽が朝日か夕日か判断しかねた。

「ん…リナリア、」

 ベッドで眠っていたルーカスの寝言っぽい声が聞こえたので振り返ると、ルーカスは誰もいないシーツの上をぱたぱたと手で探っていた。どうやら私を探しているらしい。
 その姿が滑稽に見えて、同時に可愛くも見えた。

 窓から離れて静かにベッドに戻ると、私をようやく見つけたルーカスの腕が私の体を抱き込んできた。
 暗闇に慣れた私にはルーカスがうっすら目を開けているのがわかった。寝ぼけているのだろうか。まだ寝たりなさそうな顔をしている。

「ねぇ……もしかしてまた媚薬飲んだの?」

 それほど彼の熱はすごかった。
 私も我をなくしていた自覚はあるけど、彼のそれはその比ではない。

「飲んでないよ? 君は男の性欲を知らないだけだよ」

 寝ぼけているかも知れないからまともな解答は得られないかと思ったけど、ルーカスの応答ははっきりしたものだった。
 ただこれまで欲望を抑えて我慢していただけだ。とサラリと言われて私は自分の顔が熱くなるのを自覚した。ルーカスの美麗な顔とそういう欲望が結びつかないので、なんというか直接言われると余計に恥ずかしくなる。

「新婚旅行のときだって眠る君を抱きしめながら一睡もできなかったんだよ」
「そうなの!? 私はてっきりあなたも寝ているのかと思ったのに」
「眠れるわけがないじゃないか。理性を保つのがやっとだよ。一晩中、大学校の教授の顔を思い浮かべて冷静さを保ったさ」
「……」

 新婚旅行中に他の男のことを頭いっぱい考える夫というのはどうなんだろうと私は思ったが、それがルーカスなりの苦肉の策だったのと知ってからには何も言えなかった。

「リナリア…」
「えっ…ちょっと、また」

 彼の熱くなった昂りをぐりっとお腹に押し付けられた私は焦る。
 寝る前まであれだけ体を重ねたのに嘘でしょう? と信じられない気持ちになりながら、私は再びルーカスに組み敷かれる。
 散々解されてたくさん愛された秘部に慣らしは必要ない。
 ルーカスは私をうつ伏せにすると、腰を高く持ち上げた。

「ぁ、あああああっ…!?」

 獣のような格好にさせられ、そのまま熱くて硬いものが挿入された感覚に私は、恥ずかしいのとはしたないのと、いけないことをしている気分に襲われ、背筋が震えた。

「こんな格好いけないわ…!」

 特殊な体勢だからだろうか。私の中に存在する熱杭がどくどくと脈打っているように感じる。

「リナリアのここは喜んでいるみたいだよ?」
「ひぃんっ」

 口だけの拒絶に、ルーカスは身を屈めて私の耳元で低く囁いた。ただそれだけなのに私はぞくぞくと感じてしまい、ルーカスの罠に引っかかってしまった。

 枕に突っ伏して、後ろから激しく打ち付けられるのをただ受け止めた。濡れた音を立てて腟内をこすられ、どんどん高みへと連れて行かれる。太ももを伝う熱が、交わりの激しさを知らしめる。

「あっ、あぁんっ、ルーカス!」
「くっ…!」

 何度も胎内へ吐き出された精。
 だけど私の子宮はそれを待ち望んでいたみたいで、体全体で喜んでいる。彼がズルリと出ていくと、私は四つん這いの体勢からうつ伏せになった。

「リナリア…」

 私がぐったりとしてると、ルーカスが私の体を抱き起こした。
 私がうつ伏せに寝ていたから心配して起こしたのかと思ったのだが、彼は私の足の付根にそっと触れて、お互いの体液で濡れそぼった秘部を指で広げ、ぐちゃりと音を立ててかき混ぜた。

「あっ…」

 指よりも太くてたくましいものを受け入れていたそこは指を簡単に招き入れた。複数の指を器用に動かし、時折秘芯に触れるものだから私はビクビクと反応する。

「痛い? 無理させてしまったかな」
「……痛くないわ……んっ」

 声を塞ぐようにキスしてきたルーカスは、私の体を労るように、優しく、そして再び熱を再燃させるように触れてきた。
 私も自由に動く腕を伸ばして彼に触れる。先程精を吐き出したばかりのそれはほんの少し芯を持っていた。手で包んで動かすと、徐々に硬さを得ていく。

「あなたの熱いわ、それにこんなに」
「…君に触れられたからだよ」

 ほんの少し苦しそうな顔をしていいたルーカスは、ガバリと私の上に乗り上がって足を大きく開かせると、天を向いた雄を突き立てた。
 突っかかりもなくぬるりと侵入してくるそれに私は「あ、」と声を漏らす。奥の奥まで突き進んだ彼は、興奮冷めやらないまま激しい動きに移行しようとした。

 コツン、コツン
 しかし、それは扉の外からされたノック音に妨害されてしまう。

「ルーカス様、そろそろお支度を始めませんと、遅刻してしまいますよ」

 外から申し訳無さそうな声が聞こえた。
 それはルーカスのお世話をしている使用人男性の声に聞こえる。

 私はハッとする。
 もう、朝なんだ。
 グリッと首を窓に向けると、いつの間にか朝日が差し込んでいた。

「あぁ、わかったよ」

 時間を忘れて獣に成り下がっていた自分たちの行動は使用人たちにバレバレなのだと知って恥ずかしい気持ちになっていると、ルーカスが私の中から出ていこうとした感覚がした。
 物悲しいけど、彼も今が大詰めの時期。学業をおろそかにはできない。散々私の相手をしてくれたのだから、今日は笑顔で見送らなくては。

 そう、思ったのに、私は見事に裏切られた。

「あんっ!」

 あろうことか引き抜いたと思った熱杭を、再度奥に叩きつけたのだ。

「えっ!? ちょっと!」

 私が異論を申し立てようとするも、ルーカスの腰は壊れてしまったかのように激しく動いていて止まる気配がない。
 ぎしぎしとベッドスプリングが悲鳴を上げて、行為の激しさを物語っている。

「ルーカス…あっ!」

 私の腰を掴んだ彼の腕を握り、首をブンブン横に振って見せるが、ルーカスはやめてくれなかった。

「こうなるとなかなか収まらないんだ。君の中で気持ちよくさせてくれ」

 外に使用人がいるかもしれないのに、なんて人なんだろう。
 私はなるべく声を出さないように我慢したけど、ルーカスはわざと私の感じる場所をついて感じさせようとするのだ。

「…っ、ひっ、ダメッ…あああああっ!」

 私は朝っぱらから悲鳴のような声を上げて絶頂してしまったのであった。


 やっと行為が終わると、ルーカスは簡単に服を身に着けて、部屋の外にいる使用人に女性使用人を数人よこすように指示していた。
 私は恥ずかしくていたたまれなくて、布団にくるまって隠れていると、その上から抱きしめられた。

「今晩は僕が寝室に行くよ」

 色を含んだその言葉にビクッとした私は、恥ずかしさの裏に喜びを感じていた。だけどそれを素直に表現したら負けな気がして、私はツンと可愛くない態度を取った。

「……早くお風呂に入ったらどうなの。遅刻するわよ」
「愛する妻の顔を見てからにしようかな。可愛い顔を見せて? リナリア」

 もぞりと布団から顔を出すと、ルーカスが甘く優しい笑顔で私を見下ろしていた。

「首まで真っ赤だよ。可愛いなぁ……」

 からかわれている気がして私は彼を睨むが、ルーカスはますます笑みを深くしていた。

「待っててくれ。たくさん君を愛してあげるから」

 本音をぶつけ合い、周りのことを忘れてお互いを求めた私達はようやく名実ともに夫婦になれた。ようやく、距離が埋まらなかった心が近づいたような気がする。

「愛しているよ、リナリア」

 彼の優しい口づけを受けて、私は彼の首に腕を回した。離れがたくてキスを繰り返していると、背後からわざとらしい咳払いがされた。

「ルーカス様、そろそろ…」

 呼ばれてやってきた女性使用人たちが顔を真っ赤にして入りにくそうにしているのを、男性使用人が見かねて注意されるまで気づかなかった私は、羞恥というもので死にそうになった。
 むろん、ルーカスは平然としたものであったのである。


 その日からルーカスの愛情表現は形を変えた。
 不安に感じる隙間もないくらい愛されて、以降、私がベッドの住人になることも、ルーカスに伝書鳩を飛ばして離婚危機を影で阻止したウルスラさんの目がその日から生あたたかいものに変わることも、年明けを待たずに第2子を妊娠することも。
 その時の私は何も知らない。


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