短編 | ナノ

男を見る目がない私とゲームオタクな幼馴染



 私が好きになった人はことごとく他の女のものになる。

 初恋は幼稚園の時。近所に住んでいる高校生のお兄ちゃんだったけど、いつの間にか彼の隣には同じ制服姿の女の子がいた。


 その次は小学校6年の時。隣の席にいるクラスメイトでけっこう仲が良かった。冗談を言い合ったり、観ているTV番組の趣味が同じだったからその話題で盛り上がったり。
 だけど彼はいつの間にか余所余所しくなっていき、その内隣のクラスの可愛くて有名な女の子と付き合うようになった。


 中学校に入学した私はバスケ部の3年の先輩に恋をした。だけど彼にはマネージャーの彼女がいて、二人が部室裏で熱烈なチューをしているのを目撃した私は最速失恋をした。


 最後に中3の冬。受験が終わった後の卒業式で私は気になっている人に告白をした。進学先が違うので思いだけでも伝えたかったのだ。すると彼から良い返事をもらえて私は有頂天になった。
 …でも、数カ月後。彼が他の女の子と歩いている姿と遭遇して問い詰めたところ彼に面と向かってフラれてしまったのだ。



「里緒は男の趣味が悪い」
「そんな事ない」

 振られた直後にヘルプしたのは腐れ縁の幼馴染である。奴は幼稚園から中学まで一緒だったが、クラスが違ったので学校ではそんなに話す事はなかったかもしれない。

 お互い一人っ子だったが、家同士の親交があったため幼馴染と私はまるで兄弟のように育った。
 私が幼い頃、お布団に日本地図を作ったことを奴は知っているし、その逆もしかり。
 なんでも…は話せないけど、お互いの家の事、相手の性格、趣味嗜好をよく知っているのでついつい頼ってしまうのだ。

 私は傷心のままにアポなし訪問したが、幼馴染が家にいると分かっていたので幼馴染の部屋にノック連打。案の定ゲームで遊んでいた幼馴染に失恋したことをぶちまけると、開口一番に「男の趣味が悪い」と切り捨てられてしまった。

 幼馴染は眼鏡のレンズが汚れているのが気になるのか、レンズをクリーナーで拭いながらこちらに目を向けずに口を開いた。

「だから俺は言ったじゃん。あいつ軽いからやめとけって」
「だって! だってタイプだったんだもん!」
「里緒っていつも同じ感じの男選ぶよな」

 幼馴染の大和が言うには、私が選ぶ男は線の細い繊細な顔立ちのイケメンらしい。
 そんな意識していないが…大和が言うならそうなのであろう。

 つまり私はなよっちい…弱そうな男が好きだというのか。そんな事無いんだけどな。
 私、腕っぷしに自信ないから守ってやれないし、むしろ包み込んでほしいわ。

 やけ酒ならぬやけコーラを一気飲みすると、酔っ払ってもいないのに大和に絡みコーラを始めた私。

「私はお洒落には気を使っているし、連絡も重くならないように気を遣っていたんだよ? 相手の好きなものも好きになろうと努力したし、付き合っている間は他の男の子と親しくしなかった。私から会いに行くようにしたし、出来る限りわがままも聞いたし」
「典型的なダメンズウォーカーだな」

 どこぞの有名曲の歌詞みたいな内容。と評価されて私はカッとなった。

「んもう! 冷たい! 幼馴染が振られたんだから慰めなさいよ!」
「めんどくせぇなお前」
「そんな冷たいからあんたは彼女が出来ないのよ!」
「余計なお世話だわ」

 だけど私は知ってるんだからな。
 コイツが中学の卒業式前に女の子に告白されていたのを。結構可愛い子だったけども…コイツは振っていた。
 なにが、何が不満なんだよコイツは!

 私もモテてみたい、告白されてみたいわ!!

「この贅沢モンが!!」
「何がだよ。ていうかコーラで酔うなよお前は」

 私の手からコーラの空き缶を回収する大和。同い年なのに兄貴気取りはやめて欲しい。イラッとするわ。
 私は次のコーラのプルタブに指をかけてプシュッと開けた。そしてビールを飲むおっさんのごとく勢いよくあおる。
 それを呆れた眼差しで見つめる大和だったが、ポツリと質問してきた。

「…自分を偽っても、その内しんどくなるだけなのにきつくねぇの?」

 その問いに私はムッとした。

「私はあんたと違って偽らないと相手してもらえないんだよ! 嫌味かよこのイケメンが!」
「悪口になってない」

 ありのままで愛されるなんて余程の美人やかわい子ちゃんだけだわ!
 そんなの理想論でしかなくて、皆何かしら偽っているんだよ!

 なんなんだよコイツ。
 引きこもってゲームばっかりしているオタクなのにイケメンって生意気な。
 ゲームばかりしてるかと思いきゃ成績は上の中をキープしてるし、運動神経悪くないけどゲームを理由に帰宅部だし。本人曰く高校にゲーム研究部があれば入っていたとか抜かしていた。
 身長はまだ成長段階だから平均を越すか越さないかだけど、私よりは遥かに高いし、まだ線は細いけど去年よりも身体は筋肉がついて厚くなっている。
 それに、元々整った顔立ちしていたけども、最近大人っぽくなった気がする。切れ長の瞳に通った鼻筋、唇は少し厚めで、頬の肉が落ちてシャープになった輪郭。
 
 …はっきり言って、鼻も唇も小さめの私はそのセクシーな顔立ちに嫉妬している。メイクで彫りを深くしてみようにも所詮それはハリボテなのだ。

 私はなんだか置いてけぼりを食らったようでコイツの成長を微笑ましく見守ってやれない。
 ていうか大和を妬んでも仕方がないんだけどさ。

 私はテーブルに飲みかけのコーラ缶を置くと、そのまま肘をついて手のひらで顔を覆った。

「…あぁ、私はこのまま一生、誰の一番にもなれずに寂しく人生を終えてしまうのね」
「悲観するには早すぎねぇ?」
「うるさい。少しは浸らせなさいよ」
「大体お前は上辺しか観てないんだって。容姿なんて年と共に衰えるんだから」

 そう言われると耳が痛い。
 
「最初は良くても中身がアレだと苦労するのは目に見えてるだろうが」

 大和が切れ長の目を細めて私を見てくる。
 あ、光の反射で眼鏡が今ピカーンって光った。
 
 ゲームのし過ぎでド近眼のコイツは眼鏡が無いと日常生活に支障が出る程目が悪い。
 コンタクトにするのは頑なに拒んでいるので、長いこと眼鏡を愛用しているが、ホントメガネ男子って需要あるのね。

「大和、これ何本に見える」
「三本。バカにすんな」
「いやまた目が悪くなったのかなと思って。…コンタクトにすればいいのに」
「嫌だ。目に異物を入れたくない。アメーバー繁殖して失明するかもしれないから嫌だ」
「ケアすれば平気だよ」

 何かの特番で、コンタクト使用で失明一歩手前になった人のドキュメンタリーを観た大和はいつもそう言う。
 まぁ…メガネの方が安く済むし、安全なんだけど、運動する時不便だと思うんだよね。

「もったいないなぁ。コンタクトにすればきっとモテるのに」
「…好きでもない女にモテても意味ねぇし」
「うわー…私もそんなこと言ってみたいわぁ」

 私がそう言うと、大和はジロ、と私を睨みつけてきた。何だコイツ。私も負けじと睨み返してみる。

ビシッ
「ふがっ!?」

 そしたらデコピンされた。なんで。
 私も競ってデコピンしようとしたら阻止された。

「デコピンさせろ!」
「嫌だ」


 大和と子供みたいなやり取りをしていたらいつの間にか失恋の痛みは消えて無くなっていた。
 なんだったんだろう。なんで私あんな最低男好きだったのかな。恋って不思議。

 一人で首を傾げていると、大和がブッスーと顔をしかめていた。
 私から視線をそらして何かを小さく呟いたんだけどあまりに声が小さすぎて聞き直したら、私の肩をガッと掴んで今度は大きな声ではっきりこう言われた。

「お前のことは俺がよく分かってんだからそれでいいだろ!」
「あっ…はい」

 その通りです。
 大和の勢いに呑まれた私はおとなしく首を縦に振っていた。
 だって目がマジだったんだもの。びびった。

 奴は私の返事に満足そうに頷くと、私にゲームのコントローラを手渡してきた。

 その後夕方まで対戦ゲームを二人でプレイして過ごした。



 自分を盛って無理して尽くしていたのに彼氏に振られた私だけども……正直なところ、私は大和とこうして過ごしている方が一番楽しかったりする。
 気兼ねない幼馴染だからかな?

 それを大和に言ったら「最後の一言余計だから」とダメ出しを受けてしまった。





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