太陽のデイジー番外編 | ナノ
Day‘s Eye 芽吹いたデイジー
過保護な獣人達


 最近なぜか、年嵩の獣人達が妙に親切だ。
 フォルクヴァルツから届いた山盛りの果物をお裾分けで村中に配って回っていると、村一番の年長婆様の所のお孫さん(私よりふた周り年上)が重いから、と言って代わりに運んで配ってくれた。
 その後、婆様が仕事中のテオを呼び出して「嫁さんに重いもの持たせるな!」と叱っていた。そんな大げさな…と思って仲裁に入ったが、婆様は「最近の若い男は全く…」と腹立たしげにブツクサ言っていた。

 またある日は雨が降っていたので、走って家に帰ろうとしたら、ネズミ獣人一家の奥さんが「走っちゃだめ、雨宿りしていきなさい」と引き止めてきた。お宅にお邪魔して温かいお茶を頂き、ブランケットをお腹にかけられた。
 その翌日には道を普通に歩いているだけで、「その辺、昨晩の雨でぬかるんでるから」と猪獣人のおじさんがオロオロした顔で止めてきた。あっちの道のほうがいいと回り道を勧められたり。

 実家でもそうだ。養両親だけでなく、兄夫妻達もやたら心配性になっている。
 やれ体を冷やすな、危ないから走るな、森に採集に行くならルルを連れていきなさい、町に行くならテオをそばにつけておきなさいだの。……あまりにも周りの年上陣が過保護で若干鬱陶しいのだが何がどうしたというのか。
 それに加えて、最近の私は妙に眠くて怠くて体調がよろしくなかった。
 

■□■


「美味しぃー! デイジーって料理も上手なんだねぇ!」

 私が作った料理を口にしたカンナは目を輝かせて唸っていた。普通によくある料理を出しただけなのにカンナは大げさである。

「デイジーがこんなに家庭的になるとは思わなかったよ。てっきり仕事に生きると思っていたんだけど。これ本当に美味しいよ」

 料理を突きながらワインを傾けていたマーシアさんはからかうような口調で笑っていた。

「だろぉ? 俺のデイジーは美人で賢い上に料理上手なんだ」

 人前なのに、椅子に座っている私の肩に腕を回してグリグリと頬ずりする男の惚気に私は沈黙した。恥ずかしい旦那である全く。

「やに下がった顔すんなよ、テオ」
「この世の春だから、ほっといて差し上げろ」

 今日は先日の召喚騒動で色々お世話になった友人ふたりへのお礼も兼ねて、ホームパーティにお誘いした。当初は女3人でのんびり気兼ねなく食事会をする予定だったのだが、そこにテオが加わり、元悪ガキトリオの幼馴染も面白がって加わったことでホームパーティというより、ガーデンパーティになった。

 最初は家庭料理を振る舞う予定だったが人数が増えたため、その他にもお酒のおつまみになりそうなものも並んでいる。

「なあ、この肉にソースかかったやつ、おかわりねぇの?」

 遠慮なく肉料理を食べる獅子獣人が空になった皿を私に突き出してくる。私はあんたのお母さんでも奥さんでもないんだ。少しは遠慮したらどうなんだ。
 仕方ないな。ため息を吐きながら、台所に作り置きが残っているか確認しに行こうと席を立つ。テーブルに手をついて立ち上がった瞬間、目の前がぐにゃんと曲がった。

「…?」

 ふらりとよろけた私を瞬時にテオが抱きとめる。

「ありがと…」
「座ってろ、俺が取ってくるから」

 私はテオの腕に支えられながらそっと席に戻された。空になった皿を持って家の中に戻っていくテオを見送りながら私は軽く息を吐きだした。やっぱり本調子じゃないな……テオも私の体調を気にして手を出さない。昨日も何もせずに寝たのに、それでも倦怠感が抜けない。
 私は口をつけていないグラスに手を伸ばし、それを口元に持っていこうとしたのだが、前から手が伸びてきてグラスを止められた。
 その手は幼馴染のひとり、象獣人のものだった。私と目がぱっちり合った彼は首をゆるゆると横に振ると静かに言った。

「お前は酒飲むな、やめといたがいい」
「…なんで?」

 私は別にお酒に弱い体質じゃないけど。どっちかといえばカンナの飲酒を止めたほうがいいと思う…。程々のところで彼女の飲酒を止めたほうが良さそうだな。

「俺はテオよりも鼻がいいからな。俺の言うこと聞いておいたほうがいいぞ」

 私の疑問に曖昧な返事をすると、「オレンジジュース飲んどけ」と果汁たっぷりのジュースを別のグラスに注がれた。
 よく分からんが、お酒を飲むのはやめとく。体調良くないのに酒飲んだら余計に悪くなりそうだし、彼の言い分は正しいと思ったのもある。

「あっ! 腹吸いババァだ!」
「なんか食ってるー!」

 カンナの匂いでも嗅ぎ取ったのか村の子ども達が丘の上までのぼってきた。カンナは子ども好きを自称するだけあって、子どもの扱いが上手な上にめちゃくちゃ懐かれていた。子どもたちは悪口を言いつつも、遊んでくれるお姉さんが来ているのを喜んでいるのだろう。

「うら若き乙女をババァなんて呼んじゃ駄目。カンナお姉さんだよ!」

 目を光らせたカンナはガタリと音を立てて席を立ち上がる。なにかそれらしいことを叫んで、その場から消え去った。
 転送術の無駄遣いをして子どもたちの前に出現すると、そばにいた少年のお腹に抱きついて吸っていた。──子どもの悲鳴が響き渡る。

「吸われたァァー!!」
「変態! 痴女ー!」

 …うら若き乙女は、子どものお腹を吸わないと思う。性別が逆だったら案件だからね。カンナそこの所わかってるのかな。まぁ、子どもたちも嫌がる素振りを見せながら楽しんでいるのでお互い様なのだろうが。
 子どもたちも加わってギャーわーと騒がしくなった丘の上の私とテオの新居周り。
 にぎやかで幸せな時間を私は小さく笑いながら見守っていた。

「…なんかデイジー顔色悪いねぇ、大丈夫?」

 マーシアさんの指摘に私は苦笑いを浮かべた。

「疲れが取れないのか、眠気がすごいんだよね」

 あまりにも体調が悪い時は仕事も休んで、家事もテオに任せっきりに寝込む時もある。体調を整えるために滋養強壮の薬とか飲むけど、完全復活には至らないのだ。

「そりゃホラあれだ。テオが夜激しすぎるんだろ」
「駄目だよー。夫婦間の話に突っ込んじゃ駄目だよー」

 過激発言をする栗鼠獣人の後頭部を笑顔のマーシアさんが躊躇いなくバシンと引っ叩く。

「いてぇな!」
「今のはお前が悪い」
「だな」

 頭を叩かれた栗鼠獣人が文句を言うが、マーシアさんは素知らぬ顔をしてワインを飲んでいた。象獣人と獅子獣人の彼らもマーシアさんと同じ意見のようで、呆れた視線を栗鼠獣人に投げかけていた。
 体調悪いなら治癒魔法使う? とマーシアさんに言われたが、遠慮した。流石に治癒魔法の無駄遣いである。
 季節的なものかもしれないし、しばらく様子見してたらそのうち良くなるだろうと思っていたから。


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