サイキック・ガール! | ナノ
私はサイキック・ガール!
奴を止めろ! 攻撃系PK VS 防御系PKバリアー!
「それで日色君に腕引っ張ってもらって事なきを得たの」
「ふふ、藤ちゃんって日色先輩と仲がいいのね」
「この学校に来て初めての友達だからね」

 今日もいつもどおりに秘密基地で沙羅ちゃんとお昼ごはんと行きたかったが、昼前頃から雨がちらつき始めたので食堂で昼食を取ることにした。
 移動中の道すがら、先日の遠足での出来事を話すと沙羅ちゃんが可笑しそうに笑っていた。

「いいなぁ、私も一緒に遠足行きたかったなぁ」
「沙羅ちゃんは来年行くことになるんじゃないかな? そういえば日色君の幼馴染の子と同じクラスなんでしょう?」

 日色君の幼馴染のめぐみちゃんもSクラスの生徒で、沙羅ちゃんと同じ学年なのだと日色君に聞いたよ。めぐみちゃんと沙羅ちゃんはお話しないのかな?

「私とおしゃべりしてくれる子はいないから…」

 その問いはタブーだったようだ。沙羅ちゃんは憂いの表情で俯いてしまう。失言してしまった自分を殴りたくなった。
 同じクラスなのに話しかける人いないの!? 転入生の私と同じような扱い受けてるのか! 私が余所者扱いで怖がられているのと一緒にしては失礼かもだけど、あまりにも酷すぎないか!?

「…別に辛くないわ。…少しだけ寂しいけど、今は藤ちゃんがそばにいてくれるもの」
「沙羅ちゃん…」

 健気なことを言ってくれる沙羅ちゃんに私の目頭が熱くなった。同じ学年だったらもっと一緒に行動できるのに。私は生まれるのが一年早すぎたんだなきっと。
 熱いものを堪えながら食堂に入ると、空いている席を目で探す。

「あ、沙羅ちゃんあそこ」
「アァ!? もういっぺん言ってみろ!!」
「テメェ、先輩に対する口の聞き方ってもんがあるだろうがぁ!」
 ──ガチャァーン! ガタガタッ ガターン!!

 沙羅ちゃんに空いている席を教えようと声を掛けたけど、私の言葉はどこからか飛んできた怒鳴り声でかき消されてしまった。直後、物が破壊されるような音が響き渡る。

 私がぎょっとして視線を向けると、音の出どころは食堂の中央部分。不自然に倒れた机や椅子、そしてできたての料理がひっくり返されていた。その周りには高等部の男子生徒が3人ほどいて、1人を2人の男子が囲んでいる。
 倒れている机の前に座っているのは、あの戌井だった。戌井は、倒れた机や蹴飛ばされた食器を見て黙り込んでいる。アイツは何をやっているんだ。目を眇めて見てみると、ネクタイの色が違う。相手は高等部の2年だ。後輩イビリでもしているのだろうか…

「おい戌井君よお、お前ちょっとばかし調子乗りすぎじゃね?」
「人の女盗っておいてでかい面して歩かれちゃたまらんのよ」

 うん?
 …女を盗った……あの戌井が? にわかには信じられんが、彼女を取られたことの腹いせに絡んでいったらしい。食堂で喧嘩するのやめてくれないかな。みんなお腹すかせてここに来てるんだぞ。

「盗ってねー…そもそも誰だよ女って」

 戌井がダルそうに見上げると、その態度に苛ついたらしい片割れが戌井のネクタイを引っ張り上げていた。

「なぁお前さぁ…今でも自分の能力コントロールできねぇんだろ? Sクラスだから調子に乗ってるのかもしれねーけどさ、お前落ちこぼれって専らの評判だぞ?」
「身の程を知れよ。顔ばっかりいい、役立たずの能無し……」

 やめろ、私にももれなく刺さってくる言葉のナイフじゃないか。
 ねっとりとわざとらしく戌井の悪口をぶつける2年男子たち。片割れの元カノが戌井に好意を持っており、それを逆恨みしている風な言い方だ。もう片方の友達は、似た恨みを抱えているのか一緒になって戌井を罵倒していた。
 どうでもいいけど彼女に振られたことと戌井が能力コントロールできないのは関係ないと思う。むしろ戌井にとっては欠点なので、モテない理由にもなり得るし…

「…チッ」

 戌井は2年男子の顔を見上げ、イライラを隠さずにいつもの舌打ちを放っていた。

「んだぁ!? その態度はぁぁーっ!」

 それにカッとなった2年男子が拳を振り上げる。すわ暴力沙汰かと私まで身構えてしまった。
 ──パシリと青い火花が目の前を走った。
 荒れた食堂のイメージが目に浮かんだ。表現するなら爆発だ。
 食堂の机や椅子を粉砕し、多くの人がその力にはね飛ばされる。血の匂いと呻き声。中央にいた男子は一番怪我の具合がひどく、意識をなくす。
 そして、それを目の当たりにした生徒が恐怖に歪んだ表情であいつを罵倒するのだ。
 【人殺し】って……

「離れてっ!!」

 私が叫んだ次の瞬間、ドウッと吹っ飛ぶ上級生2人。彼らはトランポリンで跳ねたかのように、見えない力によって弾き飛ばされていた。その体はその辺にあった食堂のテーブルに叩きつけられる。
 一拍遅れて、こちらにも圧縮したエネルギーが襲いかかってきた。無差別にここにいる人達に影響を与えてくるそれに反応して倒れる生徒たち。押しつぶされるような圧力だ。立つことすらままならない。

「ウッ…」
「沙羅ちゃん! 地面に身を伏せて! 絶対に動いちゃ駄目だよ!」

 咄嗟に庇ったけど、彼女には怪我がなさそうである。私は沙羅ちゃんをその場に伏せさせると、深呼吸をして足を踏み出した。

 私が目指す先は、頭を抱え込んだ戌井のいる場所。……すごいエネルギーだ。あの麻薬中毒者の暴走車並かもしれない。…否、もしかしたらそれ以上かもしれん。
 私は手をかざしたまま、そこへにじり寄る。あの事故の時は確か、車をあれ以上歩道に侵入させまいと車を気合で押し出そうとしたんだ。自分の手のひらの間に熱い力を感じた。車のボンネットを壊す感覚。止める感触を。思い出せ、あの感覚を。
 私の能力は目の前のエネルギーを操作して、攻撃などを防御するバリアー能力。
 そして戌井はエネルギーを圧縮して、それを暴発させる攻撃系PKだ。私なら、奴を止められるはず…!

「近づくな!!」
「!」

 臆せず近寄る私に恐怖を抱いたのか、戌井が叫ぶ。その拍子にものすごい圧を感じて私は倒れ込んだ。
 戌井はコントロールできない以前に、わからないんだ。入学したばかりの私と同じ。超能力をコントロールする感覚は誰もが違う。だからこそ彼は苦悩しているのだ。
 奴の態度がツンケンしているのは、人を傷つけまいと人を近づけさせないようにしていたのだろう。
 なんだか今ようやく戌井という人間を理解したかもしれない。

「──いっ…!」

 私がコケた場所が悪かった。散らばった食器で怪我をしてしまったようだ。ぬるっと手のひらに血がにじむ。腕に切り傷を拵えてしまったようである。
 だけど止めなくては。
 ほら、戌井は怪我をした私を見て泣きそうな顔をしているじゃないか。野良犬が怯えて反応を窺っているようじゃないか。
 能力で人を傷つけることを恐怖し、周りから言葉で態度で攻撃されることに怯えている。

「こんにゃろぉぉぉぉ!」

 私は目に見えない攻撃エネルギーに向かって吠えた。戌井が驚いた様子でビクリと肩を揺らす。
 ふざけるなよ、私を何だと思ってる!
 暴走車をこの手で止めたんだぞ! すごいだろう! いいか、バリアー持ちの私ならできるんだ。できるったらできるんだ。
 あんたの暴走を止めてみせる…!
 止められたらお礼言えよ!

 息すら出来ないくらいの能力が容赦なく襲いかかってくる。バリアー能力が安定していない私は時折、体を押しつぶすようなエネルギーの波に飲み込まれそうになり、息が詰まった。
 体の外だけでなく、体の奥の臓器まで圧縮されそうなその力に涙が滲んできたが、私は自分の心を奮わせた。
 ここで負けたら女が廃るんじゃい!!

「負けてたまるか…っ! うるぁぁぁぁぁああ゛!!」

 ペーンッ
 やっとのことで伸ばした腕で、ぽかんとした顔を晒す戌井のおでこを叩いてやったのだ。
 戌井のおでこに触れる自分の手のひらが燃えるように熱い。あのときと同じだ。戌井から流れる力を分散させて、動きを封じ込める……!

 ドクドクドクドクと心臓が鼓動する。それはまさに自分の中の血液を流し込むかのようだ。
 それすなわち、私の能力を流し込んでいることなのだけど……戌井の能力の膨大さに私の体はあっという間に限界を迎えた。

「…あ…」

 急速に体が冷え込み、私はその場に膝をついて倒れ込んだ。あの暴走車の事故当日と同じ。恐らく、エネルギー分散コントロールして、自分の中の力を使い果たしてしまったのだ……
 …寒い。頭がぼうっとする……

「駆っ! …大武さん!? ちょ、何があったの、大丈夫!?」

 意識が朦朧とする中で、彼の焦った声が耳に届く。戌井が暴走してると聞きつけたのだな……おい、戌井、日色君の存在に感謝しろよ。こんなに心配してくれる人なかなかいないよ……
 床でへばっている私を抱き起こした日色君が血相を変えて声を掛けてくるが、私には事情を説明するほど力が残っておらず…

「全然……大丈夫じゃない」
「大武さん!?」

 そう言い残して、私はガクリッと意識を失ったのである。

 能力、思いっきり発揮できたけど……
 次のPSI実技では使いこなせるようになればいいな……なんて。
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