お嬢様なんて柄じゃない・番外編 | ナノ
もしも笑がお嬢様だったら
ごめん遊ばせ、二階堂笑でございます【3】



「あんなチビに負けて悔しくないんか!!」

 チビじゃないもん。これでも165あるもん。
 私の悪口を言っているおじいさんをキッとにらみつけると、チームメイトからポンポンと頭を撫でられた。「チビじゃない、そんな事ないよ」と言ってほしかったのに誰一人として言ってくれなかった。

「ごめんね、うちの監督、昔気質な人だから口が悪くて」

 対戦校の部員である少女に声を掛けられたのはそれから後である。私をディスっていた人は彼女のチームの監督なのだ。試合中、私がちょこまか動いて相手から点数を奪ったことを大変お怒りらしいが、何もそこまで言わなくてもいいと思うんですけど!!
 猛攻を見せていた英学院側だけど、あちらの粘り勝ちで結局決勝戦で敗退。私達の学校は地区予選準優勝となってしまった。それでもインターハイには出場できるのだが……そんな問題じゃないのだ……。
 人が気にしていることをズケズケと!!

 バレーに目覚めた幼少期。私はバレーを習うだけでなく、未来への投資を始めていた。バレー選手になくてはならないもの、身長である。身長は遺伝、生活環境でほぼ決まると言われている。
 しかし我が二階堂の人間を見てみると、長身というほど背の高い人がいない。大体日本人の平均止まりなのだ。
 これじゃいかんと思った私は二階堂の力を使って、スポーツ医学に詳しいトレーナーに師事を受けて、肉体改造を計った。それからぐんぐん成長したのはいいが、目標に到達せず、165cmで止まってしまったのだ。

 背の低いバレー選手は不利だ。今でも私は身長を諦めていない。私の身長はまだ伸びるはずなのだ…! そんなわけで今の所、足りない分をジャンプ力で補っている。これでも中等部時代からバレーで活躍してきたので、今回予選大会に途中参戦させてもらえたし……
 まだまだ私には可能性があると思うんだ!!

「まぁ背が低くても活躍する選手はいるし、気にしないでおきなよ」
「低くないよ」

 小学生時代から同じジュニアクラブで切磋琢磨してきた友人・小平依里は私の志望校であった強豪・誠心高校のバレー部に入部していた。しかも彼女はすくすくとたけのこのように背が伸び……今では格差が生まれてしまった。

 世の中は決して平等ではない。それはわかっていた。
 私は背の高いバレー選手たちに囲まれてコンプレックスに悩みつつも、大好きなバレーをするために一心不乱にボールを追いかけているのである。


■□■


 長い夏休みもバレーボール一色だった。
 なんか合宿で男バレの人とそこのマネージャーに嫌がらせ受けたり、インターハイでは一回戦の途中でメンバーチェンジとして参戦させてもらえたりといいことと悪いことが混在した夏休みだったが、充実した期間であった。
 そうして2学期が始まったのだが、私の目の前に再び嵐がやって来た。

「二階堂笑! お前なんてことをしてくれたんだ!!」
 ──グイッ
「いッ!?」

 カレーうどんをすする私の髪を何者かが後ろから引っ張り上げてきたのだ。うどんが胸元にペチャッと付いた。紙エプロンしておいてよかった。

「まぁ! 宝生様なにをなさいますの!?」
「またあんた!? 手ぇ離しなさいよ!」

 一緒に昼食を取っていた友人らが庇ってくれたので、私は解放された。ピリピリする頭皮を抑えて唸る。加減なしで引っ張られた。何本か抜けたぞ。
 私は涙目になって後ろをにらみつけると、そこにはいわゆる夢子と呼ばれる少女を守るように囲んでいる、御曹司らの姿があった。
 先日私に婚約破棄を叩きつけてきた宝生氏、残り二人の御曹司にはそれぞれ婚約者がいるのだが……それは夢子ちゃんに夢中になっている張本人であり、学校内でかなり浮いた存在となっていた。

「…昨日、姫乃が屋上に閉じ込められた」
「え? あ、そうなの?」

 私は頭を擦りながら胡乱に見上げた。
 屋上って鍵がかかってなかったっけ? と内心首を傾げながら、相手の動きを見ていると、宝生氏は苛ついた様子で歯を食いしばっていた。

「しらばっくれるな! お前がやったんだろう!!」
「…はぁぁ!?」

 なぜそこから私になるのか。
 なんで私がそんな事しなきゃならないのさ。

「…なんで私がやるのよ。その時間のアリバイならクラスメイトとか友人とか先生がしてくれるけど?」

 彼女が何時に閉じ込められたのかは知らんが、昨日は単独行動をしていないはずなので、アリバイなら立証できる。
 夢子ちゃんは災難だっただろうが、状況証拠も証言もないのに犯人扱いは良くないぞ。

「誰かに命令したんだろ! お前にやれと脅されたって人間がいるんだよ!」
「…誰? 誰がそんな嘘言ったのさ」
「言ったらお前はそいつを脅して証言を捻じ曲げるだろ!」

 人聞き悪いなぁ…宝生氏の中で私どんだけ悪人なわけ?

「あのさぁ、婚約破棄した、援助打ち切り、慰謝料の受領済。それで私達の縁は終わったんだよ。これでも私忙しい立場だから、君たちに嫌がらせする余裕ないんだよ」
「人を使って、手を汚さないスタイルでいやがらせしてるんだろ。がさつなバレー馬鹿のお前は姫乃の天真爛漫な姿が眩しくて妬んでいるんだろうが!」
「話を聞けよ」

 恋は盲目ってよく言うけど、宝生氏は重症みたいだ。彼のタイプは守りたくなる子なのね。初恋に浮かれてヒーローぶりたい年頃なのかな。

「二階堂さんっ、倫也くんを奪った形になったのは申し訳ないと思っているの。手紙を受け取った時、これに応じたら二階堂さんに文句言われるんだと思ったけど、覚悟して屋上に行ったら鍵を掛けるんだもの…ひどいわ」

 ……手紙?
 なんのことか思い当たらないんだけど。
 私がポカーンとしていると、「なんとか言え! 二階堂笑!」と横で宝生氏ががなり立ててきてうるさい。

「うるさいな。怒鳴らなくても聞こえるよ!」
 ──ズバーン!
「へぶぁっ」

 さっき髪の毛引っ張られたお返しも兼ねて宝生氏をビンタしておく。

「話を整理させて。手紙って…なに? 私があなたに手紙を書いて呼び出したっていうの?」
「…そうよ? 下駄箱に手紙が入っていたの…」

 なにそれ。そんな事してないよ。
 …瑞沢姫乃の涙顔を見つめながら私は思い出していた。
 1学期の頃、校内である噂が流れていたことを。
 私が、嫉妬に狂ってこの夢子ちゃんをいじめていると。
 だけど私の周りの人はそれを信じなかった。そんでもって部活をしていたこともあり、先輩方が上級生の誤解を解いてくれたこともあって、噂はすぐに収束したのだ。
 そもそもこの夢子ちゃんはたくさんの恨みを買っていた。彼女に彼氏を取られたって人もいて……色んな人から恨まれていたので、その人達がした嫌がらせが話を変えて私が黒幕みたいに変わったのだろうと思っていた。
 だからあまり気にしなかった。

 だけど、そうではないのかもしれない。
 私の知らないところで、私の足を引っ張ろうとする人間がこの学校に存在するのかもしれない。
 さっきまで頭に血が上っていたのに、キンと冷えた。

 私は二階堂の娘だ。
 何かしら妬みや恨みを買うこともあるのかもしれない。私はちらりと周りを見た。こちらを注目する生徒たちが連なっている。……その中でひとり、怪しい動きをする少年の姿を見つけた。
 確証はない。だけど胸がざわつく。
 赤く腫れ上がった頬を抑えて涙目で震えている宝生氏や固まる夢子ちゃんたちをその場に放置した私は、何も言わずにそこから離れた。

 その少年はなにか知っているのかもしれない。
 私が犯人扱いを受けるというこの気持ち悪い状況をそのままにしておきたくはない。彼に話を聞こうと思って後を追ったのだ。
 ザワザワヒソヒソざわめく食堂内では、無責任な噂や囁き声が聞こえてきたが、私にはそれにいちいち反応する余裕もなく。
 食堂から出ると、彼は中庭方面に向かっていた。どんどん人気のいない場所に進んでいくと、どこからかバシャバシャと水が跳ねる音が聞こえてきた。

 噴水だ。
 その手前にはベンチがあり、そこには人がいた。
 男子生徒だ。その人はそこで一人で昼食をとっていたらしい。食事を終えて今は読書をしていたみたいだ。

 怪しい男子生徒はそのひとを発見すると、ハッとした顔をして、泣きそうな表情を浮かべていた。

「──様!」

 そして彼の名前を呼んだのだ。
 罪悪感に苛まれて、まるで許しを請うように。


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