食べさせたい
「今日学校終わったら中本君が迎えに行くからね」
「うん、行ってきます、パパ」
「行ってらっしゃい、ニコちゃん」
父に手を振りながら、ニコはうんっと背伸びをしながら学校へ向かった。
今日の放課後は撮影で使う料理を作りに行く。
それは、椋亮に会える、椋亮の食べる料理を作ることになる。
嬉しいけれど、すごくドキドキして、少しだけ不安になった。
自分の作った料理で、心の底から笑ってほしい。
「ニコ!」
後ろから声をかけられ、ニコは振り返った。
そこには小学生の時から仲良くしてくれている近所の高校生がいる。
「空生兄ちゃんっ」
「ニコ〜、会いたかった。最近撮影続いてて全然会えなかったもんなぁ。あー、可愛い、ニコ〜」
「わっ、ふふ、空生兄ちゃん、苦しいよ」
「久しぶりなんだからいいだろ。ニコ、背が伸びないなー」
「うるさい〜」
ぎゅっと抱きしめられて、ニコはその腕の熱さに笑う。
いつでもこの暖かい腕は、夏場には少しうっとおしいけれど、冬場はニコの癒しになった。
体を離してもらって、向き合うと、空生は嬉しそうに笑う。
「ニコ、一緒に学校行こう」
「うん」
ニコの通う中学校と空生の通う高校は同じ敷地内に立っているエスカレーター式の学校で、芸能人や芸術関係の子息が多い。
現にニコも空生も同じように芸能関係の家族を持っている。
同じ敷地内に立っている校舎へ向かいふたりは歩き出した。
「ニコ、なんかいいことあった?」
「んー、うん。あったけど内緒」
「なんだよ、それ」
「ふふ、内緒内緒〜」
「いいよ、おじさんに聞くから」
「ちゃんとパパにも口止めしときますー」
「かわいくねーなぁ」
そう言って苦笑する空生の顔が優しくてニコも思わず小さく笑う。
眩しい日差しに目を細めれば、後者が見えてきた。
「ん、空生兄ちゃん、またね」
「ああ、またなー、ニコ。今度うちきて美味いの食わせてな」
「うん、バイバイー」
手を振ったニコを見て空生は満面の笑みを浮かべた。
その笑みにニコも笑いかえし、中等部の校舎へ走る。
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