見えない気持ち
「ど、どうしたの、空生にいちゃ…、怖い、よ」

「…ニコ、俺がいるのに、なんで…」

グッと手を掴まれて、ニコは眉をしかめる。
腕が痛くて、もがくけれど、空生の力は強くて解けない。


「っ、やだ、離して、」

「ニコ、俺はっ、」

そう言った空生の顔を見る。
ニコの知らない空生、とても怖かった。
びくりと身体を震わせれば、空生の顔が近づいてくる。


「…や、だ、にいちゃ、やだ…、いやっ」

顔を背けるけれど、顎を掴まれ向きを変えられる。
怖くて怖くて、どうしようもなくてぎゅっと目を瞑った。


「…りょ、すけさ…っ、りょうすけ、さんっ…っ」

思わずこぼれた名前に、一瞬手の力が緩んだ。
ニコはその間に顔を背けて、止まったばかりの涙がまたポタリとこぼれ出した。


「…ニコ?」

不意に名前を呼ばれ、ニコは振り向いた。
そこには眉を訝しげに寄せた椋亮が立っている。
緩んだ手の力から逃げ出して、椋亮の胸に飛び込んだ。


「…っ、ひっく、」

泣き止んだはずのニコがまた泣いていることに気づき、顔を背けている空生に視線を移す。
空生は椋亮を睨み付けた。


「頭冷やす。今日は、泊まりに来るな。おじさんにも言っとく」

空生の言葉にニコはびくりと肩を揺らし、椋亮の胸に顔を埋めた。
小さな身体が震えていることに気づき、椋亮はニコの背中を撫でる。
ニコを見てから空生は小さく舌打ちし、その場をさって行った。



「どうした」

椋亮の問いかけにも答えないニコは、泣きじゃくるばかりだ。
身体を離したニコは、小さな声で謝りながら泣いている。
新崎と何があったのかは、新崎の様子やニコの怯えていた様子から想像はつく。
トイレの近くにある休憩所に連れて行き、椅子に座らせて椋亮も隣に腰を下ろした。
それから、ニコの背中を優しく撫でる。


「…、ご、めん、なさ…」

「いいよ、きにするな」

「…で、も」

「怖かったんだろう」

そう尋ねれば、ニコは小さく頷いた。
キュッと袖を握って来るニコに、椋亮は思わず小さな体を抱きしめる。


「…新崎も、何かあったんだろうな、きっと」

「…ん、うん…」

「次に会ったときは、落ち着いて話せるように、今はゆっくり…落ち着くまでそばにいる」

サラサラの黒髪に頬を寄せて、背中を撫でる。
小さな身体が、震えている。
その震えが早く治ればいい。


「ニコ、また今度、違う喫茶店行こう。次は、ニコのオススメの店に行きたい」

「ん…、うん…」

「やっと涙が治まってきたな」

そう言った椋亮の指先がニコの目尻を撫でた。
prev | next

back
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -