甘い甘い
「何にする?」

「コーヒーとパンケーキかな」

「ああ。すみません」

店員を呼んで注文をする姿を眺める。
少しずつまともに話せるようになってきた。
それでも目の前の憧れの人と一緒にいるときはとても緊張する。
こめかみを伝う汗が大人の男の人であることを感じさせた。


「ここには来たことあるのか」

「うん。…一回だけ。パンケーキ、美味しいよ」

「そうか。俺も頼めばよかった」

「りょ…、椋亮さん、甘いのも好きなの…?」

「ああ、好きだよ。嫌いな食べ物はないかな」

そう言いながらお冷やを飲んだ椋亮は窓の外を見た。
窓の外はじわじわと道路の熱気が見えるくらい暑そうに見える。
ニコも同じように窓の外を眺めた。


「…ぼ、僕が、作った料理は…、ちゃんと美味しい…?」

「ああ、うまいよ。俺の理想の味だ」

「…そっか。…そっかぁ…」

嬉しそうに頬を緩ませて笑うニコに、椋亮は目を見張った。
トロトロに溶けそうなその笑顔は、とても綺麗だ。
うんと年下の子どもが見せる表情じゃない。


「ニコ…」

溢れるように落ちるように呼ばれた名前。
ニコは思わず椋亮から視線をそらした。
その表情がとても、優しくて…。


「お待たせしました」

どこか甘ったるい雰囲気になっていたその空気を壊すように注文していた品物が届いた。
ニコの前にパンケーキとコーヒーが置かれ、椋亮の前にもコーヒーが置かれる。
コーヒーの香りと、パンケーキの甘い香りが交わった。


「うまそうだな」

「う、うん、そだね」

小さくいただきますをしてから、パンケーキを食べ始める。
ほのかな甘みが、繊細で美味しい。
その甘みに思わず微笑むと、椋亮が目の前で小さく笑った。


「うまいか」

「…うんっ」

「コーヒーもうまいぞ」

椋亮に言われてコーヒーを飲む。
苦味と酸味がほのかな甘さにとてもあっていた。


「椋亮さんも、食べる…?」

「ああ、一口ちょうだい」

掬っていたフォークを持つ手を掴まれる。
そのまま引き寄せられ、ニコは息を飲んだ。
椋亮の口がうっすらと開きパンケーキを含む。


「ん、確かに。うまいな」

「…っ、りょ、椋亮さ…っ」

顔がかあっと熱くなっていく。
これは隠しきれないくらいの、熱。
椋亮が目を見開くのが見えた。
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