約束の日
ロケ地になっている家の前で約束し、ニコは待ち合わせ時間より10分前に来ていた。
家の前の門に立って、携帯を眺めている。
イヤフォンから聴こえてくる音楽は、ニコの大好きな人が出ていたCMのBGMに使われていた曲だ。
もうずっとこの曲を聴いていて、歌詞は覚えている。
腕時計を見ると、約束の時間が近づいて来ていた。
イヤフォンを外して、ぼんやりと空を眺める。
晴れ晴れとした空はとてもキラキラとして綺麗だ。


「ニコ」

不意に名前を呼ばれて、ニコは振り向いた。
そこにはメガネをかけ、キャップをかぶった椋亮が立っている。
頬がかあっと熱くなっていくのを感じた。
夏の暑さだけじゃない。


「待たせたな。…帽子もかぶらずに待っていたのか」

「…忘れちゃって」

「熱中症になるぞ」

椋亮はそう言って、かぶっていたキャップをニコの頭に被せた。
少し大きいそれはニコの頭を覆い、日陰を作る。
どくりと動いた心臓が早鐘を打ち続けた。
椋亮のことが好きだ。
なおさら、そう自覚していく。


「…あ、ありがとう。でも、他の人に、気づかれたり、しないの…」

「メガネかけてればあんまり気づかれない。それに、ここ人通り少ないからな」

椋亮の言葉にニコはそっか、と小さく呟いた。
それから、行くかと声をかけられて、椋亮の隣を歩く。
心臓はいつまでも落ち着かない。


「ニコ、暑くないか。車を出せばよかったな」

「へっ、だ、大丈夫だよっ」

「顔真っ赤だし、汗かいてる」

額の汗を拭われて、ニコは心臓が止まるかと思った。
こんなにも、贅沢な思いを、会ってからそんなに立っていないのに、してもいいのだろうか。
回らない思考の中でぼんやりと考えてしまう。


「だ、大丈夫…」

「もともと色白みたいだから、暑くて具合悪そうに見えるのか」

「…多分。夏になると、よく言われる…かも」

パタパタと顔を手で仰ぐ。
もう少しだからな、と囁かれ、小さく頷いた。
夏は少しだけ苦手だ。
嫌なことを思い出す。
それでも、椋亮と一緒にいれば幸せな気持ちにあふれていた。
歩き続けて10分、ようやくふたりが向かっていたカフェが見えてくる。
ふたりの足取りは少し早くなり、カフェにたどり着いた。


「暑かったな」

椋亮がニコの頭からキャップをとる。
大きな手のひらがニコの髪を撫でた。
気持ちよくて、目を細める。


「ふたりで」

店員に案内されて、奥の日陰の席に座る。
ニコは奥の席に座るように椋亮に背中を押された。
腰を下せば、すぐにお冷やが渡される。
お冷やを飲めば暑くなっていた身体が内側から冷えて行くのを感じた。


「大丈夫か、めまいとか、吐き気とかしないか」

「だ、大丈夫…。心配、ないよ」

「そんな白い肌を真っ赤にしてれば心配するさ」

頬に手を当てると、とても熱かった。
日焼けをしているようだ。
日焼けで真っ赤になった頬で、彼を前にして染まる頬が隠せる。
それは少しだけホッとさせてくれた。
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