パパ
「ニコちゃん、最近毎日楽しそうだね」

「そ…、そうかな」

「うん。いいことあった?」

「うん。椋亮さんとね、明日の午前中、カフェ行くことになったの」

嬉しそうにキュッと手を握りながら話すニコに、父が微笑むのが見えた。
憧れの人と一緒に行けるカフェ。
とても楽しみで仕方がなかった。
ずるい自分に罪悪感を持ちながら、それでも、嬉しさを止めることなんてできなかった。


「ニコちゃん、我慢なんてしなくていいんだよ。ニコちゃんはニコちゃんの好きなように生きていいんだからね」

父の言葉に少しだけ心が軽くなったような気がした。
嬉しそうに笑っている父の姿が、とても優しい。


「ありがと」

小さな声で呟いて、父にぎゅっと抱きついた。
ニコよりもうんと大きな父に抱きつけばホッとする。
同じように抱き返してもらって、ニコは笑みをこぼした。



ニコが部屋に戻ってから、父はリビングに置かれたアルバムを手に取った。
ニコの幼い頃から、今まで欠かさずに撮ってきた写真たち。
それは楽しいことも、辛いことも、何も逃さずに撮ってきた。
一番、ニコが辛かった時の写真を開く。
そこには、笑顔も悲しみの表情も何も映さない、無表情のニコがいた。


「もう、忘れてもいいのに、優しくて繊細だからね、ニコちゃんは」

ニコの母親の仏壇の前に座り話しかける。
もう答えを返してくれない形になった妻は写真の中で幸せそうに笑っていた。


「俺に似たのかな、それともママ? うーん、ママは優しいけど、繊細じゃなかったなぁ」

独り言でも、こうして話していれば、返事が返ってくるような気がした。
愛おしい妻と、息子。
三人で幸せに暮らしていたかった。
そう思う。
けれど、今は二人という家族の形になった。
それでも、穏やかな日々はとても心地よく、幸せだ。


「…ニコちゃんが、本当に好きな人と幸せになれたら、俺はそれで幸せだと思うんだ。たとえ、それがニコと同じ性別の人だとしても」

もう少しニコが小さかった時、泣きながら話してくれた、彼自身のこと。
初めは親として、どうしたらいいのかわからなかった。
もともと、同性愛に対して、特に意見は持っていない。
それでも、自分の子が同性愛者だと知った時、なんて声をかければいいのかわからなかった。
可愛い息子が同性愛者だということよりも、泣きじゃくるニコにどう接すればいいのかがわからなかった。


「ねえ、笑子さん。俺は、ニコが椋亮くんと一緒になってくれたら、なんて思うんだ。それって親として、おかしいのかな」

そう尋ねても妻は写真の中で笑うだけで答えてくれない。
アルバムを閉じて、今日はもう寝るね、と伝えて、片付けた。
二階のニコの部屋に入り、ニコの寝顔を眺める。
どこか幸せそうな寝顔が、とても愛おしかった。
露わになった額にそっとキスをしてから、部屋を出る。
prev | next

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -